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ポメラニアン転生 〜俺が望んだのはこっちではない〜  作者: しゅーまつ


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騒動の結果

ー数日後ー


「決着ついたんだ」 


ヴォルフ邸にいつものメンバーが集まり先日行われたグリーディア領地の一斉捜査の結果を聞かされている。


「お前の睨んだ通りだった。孤児で才能があると思われる者達が奴隷のようにポーションを作らされていた」


「その子達はどうしたの?」


「薬師錬金ギルドで身柄を預かり教育をして有資格者にまで育てる」


その子達はギルド預かりになるそうだ。その後、孤児院でポーション販売をする予定とのこと。相場より安価な値付けで販売すれば孤児院で買うものも増えるだろうとシルベルトは言った。


「で、グリーディアは追い込めそうなの?」


「ポンタが保護しろといった孤児院の院長が色々と自供したのに加えて、裏帳簿や賄賂を渡した相手や見返りを細かく記した物が見つかってな。貴族達の膿を洗い出すことに繋がった事は想定していたより大事だ。あいつの強欲な上に几帳面な性格が災いしたということだな」


「荒れそう?」


「かなりな。特に騎士団、税務担当との関わりがまずい。軍とは違って現場の指揮官はだいたい貴族の嫡男とかそれなりの身分の者なのだ。それが賄賂や女児をあてがわれてグリーディアに取り込まれていた」


「帳簿だけで知らぬ存ぜぬを通しそうなものだけどね」


「王族の取り調べ室を甘くみてはダメだ。どんな取り調べか想像が付くか?」


「拷問されてんの?」


「そうだ。ポーションを使えば死なないからな」


ポーションをそんな使い方しないで欲しい。


「大人しく自供すれば拷問されないんでしょ?」


「貴族の嫡男が素直に自供すると思うか?下手すれば家ごとお取り潰しだ。今回は事件が明るみに出るきっかけとなった者、すなわちお前に手出しをしないという条件を飲めば遡って縁切りを認めるという措置を取ってもらった」


「それってもしかして俺が逆恨みされるってこと?」


「概ねそうだ」


「俺が関わってる事を知ってるのここだけじゃん」 


「孤児院の院長がお前の名前を出した。グリーディアから命令に従わないと孤児院を潰すと脅されていたようでな、悪事に加担していた事を悔いていた。お前がポーションを持ってきた時にこうなるだろうと気付き、お前がした寄付の証文を発行したことを報告せず、ポーションも見つかるようにしておいたそうだ」


「そうなんだ」


「自分も逮捕され厳しい罪に問われる覚悟をしていたが逮捕ではなく保護すると言われて隠し帳簿まで渡す決意をしたらしい。グリーディア家がお取り潰しになっても、お前なら孤児院の事を何とかしてくれるだろうと思ったからだそうだぞ」


「なんとかって…」


「王都は土地の問題もあって孤児院を作ってはいない。他の領地も孤児院の運営は大変だから作りたがらない。グリーディアは悪事や金儲けの為ではあったが孤児院をたくさん作り、それで孤児達がなんとか死なずに済んだという面もある」


見方によってはそうかもしれん。ラメリアは冬寒くなり雪も振るそうだから浮浪者みたいな生活なら死ぬだろう。劣悪な環境であったとしても凍え死ぬよりマシと言う事か。


「で、お前孤児院の運営をやる気はあるか?」 


「無理に決まってるだろ。それは税金でやるべきことなのっ。自治を任されている人の責任だ」


「お前、グリーディア領を拝領するつもりか?」


「なんでそうなるんだよっ。グリーディア家がお取り潰しになっても他の貴族がいるだろうがっ。恩賞待ちの貴族とかいるんじゃないの?」


「よく知ってるじゃないか。流石にお前が拝領することはない」


当たり前だ。怖いことを言うな。


「が、国に孤児院をどうするのか進言は出来るぞ。次の領主に条件を付けておく必要があるとは思わんか?自治を任されると廃院する権限もあるからな」


それはそうかもしれん。


「なら、条件はこれ」

・健康。3食きちんと食べさせる

・清潔保持。お湯で身体を洗える設備を整える

・教育。最低限文字の読み書きと計算能力及び道徳心を付ける

・職業訓練。各ギルドが子供達の希望する職業の訓練を行い、卒院後にすぐに戦力になれるようにする。

・職業斡旋。各ギルドが主体となって孤児を雇いたい者に斡旋する。その場合は労働条件の確認と最低賃金の保証。雇い主が渡した賃金を不当に搾取していないか監査を行う。不正が発覚したらギルドが処分をする。


「これが条件。領主だけでなく各ギルドが絡んでやっていかないと不正はまた発生するだろうからね」


「ふむ、わかりやすい。やはりお前が運営した方がいいな」


「そうなればポーションの納入も無理だからね」 


「孤児院は領主に任そう」


流石は貴族。まずは自分の利益を優先する素早さが素晴らしい。


「まぁ、ポーションを作れるようになるなら運営費も抑えられるだろうし、何とかなるんじゃないかな?事前通知をしてもらう貴族にも莫大な寄付金を出させても良いと思うよ」


「進言しておこう」


「前の院長さんの死に事件性は無かったの?」


「それは何も確証は得られなかった」


当時にもみ消したらもう証拠はないか。


「貴族にあてがわれた女児とかはどうなってる?」


「そのまま妾になったり、娼館で働いたり、行方不明とか様々だ」


可哀想に…


「ケア出来るならしてあげてね」


「今さら他の生き方も出来ぬだろうからグリーディア家の財産から生涯生活が出来るぐらいの補償金を支払うよう進言しておこう」


後は貴族の仕事だから任せておこう。


「じゃあ俺はこれで帰ります」


「まだ話は終わっていない」


「あとは何?」


「ヴォルフ家、スタローン家、ロテリー家は褒章されることになるだろう」


「よかったね」


「それとお前もだ」


「は?いらないよそんなの。実際に調べて動いたのはそちらでしょ?それに俺は褒章なんて分不相応だよ」


「事件発覚の糸口を作ったのはお前だ。ケイトの印を不正使用、囮のポーション作戦、証拠を掴むためのポーション販売実績の内容調査進言、孤児院院長を絆したお前の方針、すべてお前の名前がすでに出ている。王家としても何もしないわけにはいかないだろうが」


「閣下の指示とか言っといてよ」


「今更無理だ。そのうち呼び出しが来るから諦めろ」


なんてこったい…




ー大規模不正解決の功労会ー


季節は夏を過ぎて秋に変わりつつあるころ功労会が開かれた。


「王都軍、補佐隊大隊長ポンタに報奨として特級ポーション師としての資格を与える」


なにそれ?


訳も分からずに前に出ると報奨金1000万Gと特級ポーション師の資格証と階級章を渡された。


ヴォルフ達も表彰され、その後は晩餐会。



「教授、特級ポーション師って何?」


乾杯のシャンパンを飲みながらシルベルトに聞く。


「生産の資格を細かく分ける事になった。初級ポーション師、中級、上級だ」


「特級は?」 


「特段の功績があったもの、もしくは最上級が作れる者に与えられる。特級と上級はは王家にポーションを収められる名誉ある資格だ」


そんなのいらない… 軍に納品している分だけで豊かに暮らせるのだ。


「王家から発注が来るかもしれないということ?」


「そうだ。まぁ、献上ということになるだろうがな」


なんだよ取り上げられるのかよ。


「この資格いらないんだけど、断われないの?」


「無理だ。特級は王家からの勲章みたいなものだ。断ればラメリアにいられなくなるぞ」


はぁぁぁぁっ、なんて面倒臭い。しかし俺の嫁探しはラメリアでないと無理だろうから大人しく従うしかないか。



「シルベルト殿、特級ポーション師のポンタ殿をご紹介頂けませんかな?」


「これはデロリアン伯爵。ポンタ、こちらはロバート・デロリアン伯爵だ。グリーディア家の捕縛と捜査を行った騎士団を管轄されているお方だ」


「初めまして、ポンタと申します」


「こちらこそ初めましてポンタ殿。先日のグリーディア家の悪事を暴くきっかけと道筋を付けられと聞かされていたので、どのような御人かと思っておりましたがこの様な可愛らしい娘さんだとは驚きました。あの気難しいヴォルフ伯爵が可愛がられているのもわかりますな」


男物の白ラン着てるんだけども?


「自分は男ですよ」


「えっ?犬族の男性はみなガタイがよろしいのでは?」


「自分は犬族でも兵士達と種族が違います。それに残念ながら成長期も終わっておりますのでこれ以上大きくはなりません」


「それは失礼をいたした。しかし、実に愛らしいお姿ですな」


そう思ってもいいけど尻とか触らないでね。


そして少し世間話をする。褒章者の中にロバートの名前が無かったのは騎士団から不正者を出した責任を問われ、1年間の貴族報酬停止の処分を食らったらしい。結構重い処分だなと思っていたら、それぐらいで済んで良かったと言っていた。



「先日、あまり交流の無かった王都軍と騎士団と合同訓練を行いましてな、恥ずかしながら騎士団は無惨にもボロ負けを喫しました」


「王都軍は無茶な訓練を繰り返しているみたいですからね」


「さよう。このままでは王都軍並の勢力に城を攻められたら守りきれないと焦燥しております」


イメージ的には王都軍の役割は剣や槍、騎士団は盾みたいなものなのだろう。


「ヴォルフ伯爵に秘訣を伺った所、ポンタ殿のポーションを大量に使い、毎日実戦と変わらぬ訓練をされているそうですな」 


「閣下は斬られても焦らず動ける訓練とか言って真剣でやってるみたいですね。全く酷い話ですよ」


「いえ、ヴォルフ伯爵のお考えは正しい。騎士団との合同訓練も真剣で行いましてな、そこで初めて斬られた騎士は恐怖と痛さで動けなくなりました。それに比べて兵士達はまるでアンデッドの用に斬られても襲い掛かってくるのです。恥ずかしながら戦慄を覚えざるを得ませんでした。どれだけ怪我をしても死ななければポーションがあるという強い信頼があればこその戦い方なのでしょうな」


「そうかもしれませんね。毎週大量の発注を頂いておりますから」


「付きましては騎士団にも納入して下さる事は可能ですかな?」


「他のポーション師とすでにお付き合いかがあるのでは?」


「ありますが品質が担保されない時があるのです。これはどのポーション師が作ってもあり得ることなのですがポンタ殿のポーションはそれが無いと聞きました。ぜひ国を守るために協力を願いませんか」


「数はどれぐらいですか?」


「軍に納入されているのと同じ量を」


げっ。そんなに?


「いやぁ、ちょっとその数は…」


「出来ません、間に合いませんは嫌いな言葉だとお前は知っていたはずだな?」 


ヴォルフ、いきなり現れて何を言い出すのだ?


「騎士団との訓練は軍に取っても非常にありがたいのだ。騎士に負けたくない、兵士に負けたくないというお互いのプライドがより訓練に真剣味を増すのだ。騎士団が今より強くなって行くのであれば尚よいとは思わんか?」


「そりゃ思うけど…」


「冬は社交会シーズンというのは知っているか?」


「いや知らない」


「各領地は収穫が終わるとその年の出来高を確認して王都には報告する義務がある。そしてそのまま冬の間は王都で過ごすことになるから情報交換や懇親を深める為に社交会というものがあちこちで開かれる」


「それがどうしたの?」 


「王都軍と騎士団の訓練をその者達に見せ付ける。あの訓練を見れば敵に回すのは無理だと悟るだろう」


戦力を見せ付けるってことか。反乱防止としては正しいだろうな。


「返事は薬草の確保と瓶の確保を確認してから致します。それでいいですか?」


「構いません。良い返事を期待しておりますぞ。出来れば騎士団の紋章が入った瓶にしてくれると他のポーションと見分けやすくていいですな」


瓶の事もヴォルフから聞いてのか。もう断われなさそうだなこれ。その後も他の貴族から次々とポーションの購入希望が入るので通信先に希望商品を書いて送ってくれと頼んだ。受け渡しは店に取りに来てもらうことに。


ズーランダからラメリアに来る前にポーションを売れば楽勝だなと思ってた。しかしこれではまるで一人ブラック企業ではないか。ポーションで楽に儲けることを望んだのだ。


ポンタは心の中で


「俺が望んだのはこっちじゃなーーい」


と叫んでいたのであった。


お陰様で100話まで来ました。お気に召されたら、ブクマや評価で応援して下さると嬉しいです。

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[一言] 100話達成おめでとうございます
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