第377話 復興の御旗
翌朝、まだ随分と早い時間帯ではあるが、俺達は移動の準備に取り掛かっていた。何せ、今日は水国トラージでアンジェとの式があるのだ。時間はいくらあっても不足してしまう。幸い、ここからトラージまでの移動は転移門で行う為、そこで時間をかける事はない。つか、そうでもしないと連日の結婚式なんて無理だからな。昨日今日と続いて参加してくれる招待客の皆も、俺達と同じく転移門で移動してもらう予定だ。尤も、ここまで足を運んでくれている時点で、参加する面子は錚々たる顔ぶれが揃っている。こちらが気を遣わずとも、勝手に何とかしてくれそうな信頼感があるよ。
「まあ、そこも招待する側の責務ってやつだな。行き帰りの足、必要であれば宿泊場所を確保するのは、基本中の基本!」
「あなた様、急にどうしたのですか? まさか、これからホストを目指すおつもりで?」
「そっちの意味のホストじゃないよ!?」
とまあ冗談もそこそこに、そろそろ移動しなくては。一足先にアンジェがあっちに行っている事だし、俺も急がないと。
「えと、一応の最終確認なんですが…… ラファエロさん、剛黒の式場と剛黒の宿、本当にそのままにしておいて良いんですか? 頑丈なんで壊れる事はそうそうないと思いますけど、結構な場所を取っていますし、将来的に邪魔になると思いますよ? ほら、白翼の地はこれから復興に向けて動いていく訳ですし」
「いえ、是非ともそのままにしておいてくだされ! 我々が責任をもって、この聖地を守り抜いてみせますので! このッ! 聖地をッッ! 我々がッッッ!」
「……その、無理に維持する必要はないんですよ?」
「無理などしていません! むしろ道理、そのど真ん中です!」
天使の取り纏め役であるラファエロさんにここまで言われては、もう俺の方から止める事はできない。いや、結婚式をやった思い出の場所が残るのは、俺にとっても良い事なんだけどね? けど、再訪した時により聖地になっていそうで怖いと言うか、どうせ残すなら、以降も式場や宿として使ってやってほしいと言うか。
「そうです、この聖地こそが我らの生きる希望!」
「この聖地があるとないとでは、生活の質がダンチなんです!」
「そうですそうです! 復興の御旗として、この聖地は私達の心の支えとなるでしょう! ああ、この地の中心として復興していく未来が見えます! こうなったら、メル様とケルヴィン様の石像とかも建造しちゃいましょう! より神秘的にする為に、裸体にするのもアリだと思います! 必要とあらば、この私がそのお手伝いをハァハァ!」
朝っぱらからテンションマックスのコレットが、周りの天使達に交じって熱いメッセージを投げつけてくる。元々その道のプロというのもあって、コレットはこの手の話が大好物なのだ。
「いや、だから何でそっちの交ざっているんだよ?」
「コレット、ステイ。流石の私も、そこまでは許容できませんからね?」
「ハッ……! わ、私は一体何を……!?」
どうやら無意識のうちに参加してしまっていたようだ。そんなコレットを回収したところで、俺達は転移門を潜り、トラージへと移動する事に。
「メル様! ケルヴィン様!」
と、その間際になって、ラファエロさんに呼び止められる。何だ何だ?
「あの子を、ルキルを救ってくださり、ありがとうございました。恥ずかしながら、ルキルとあなた方の間に何があったのか、その詳細までは把握しておりません。ただ、ある時を境に様子がおかしくなった彼女が、今は良い表情をするようになった。だから、本当にありがとう……!」
ラファエロさんが深々と頭を下げるに次いで、天使の皆さんも次々に頭を下げ始める。ここまで真っ正面から礼を言われると、ちょっと照れてしまう。という事で、まっすぐな感謝の念を背に受けてつつ、俺はそそくさと転移門を潜るのであった。
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「そういやラファエロさん達、一体いつの間にルキルと会ったんだ? 良い顔をするようになったっていう事は、白翼の地を離れる前に顔を合わせたんだよな、ルキルと?」
「離れ際に挨拶だけして、それもルキルから口止めをされていたのかもしれませんね。ともあれ、彼女はもう大丈夫かと」
トラージに転移門で移動するのは、これで何度目になるだろうか? ツバキ様にお呼ばれする機会が多いからってのもあるけど、軽い雑談を交えて移動する程度には慣れてしまった。
「あ、来た来た。ツバキ様、ケルヴィン君達が到着しましたよ」
「うむ、時間通りでじゃな。よくぞ参った、皆の衆」
移動先の転移門の前では、トラージの着物姿のアンジェ、そして国王であるツバキ様が待ってくれていた。
「アンジェ、お待たせ。ツバキ様も今日はよろしくお願いします」
「うむうむ、今日はケルヴィンとアンジェにとっての特別な日となるのじゃ。いつも以上に妾に頼るが良いぞ」
「はい、頼りにしていますよ。ところで、例の件はどうなりました? こちらとしても、大分無理を言っている事は分かっているのですが、どうしても必要でして……」
「急ではあったが、竜神様も手伝ってくれたのでな。何とか間に合いそうじゃ、安心せい」
「そ、そうですか! 本当に助かります!」
思わず、ツバキ様の手を両手で握ってしまいそうになる。が、その寸前のところで、俺の手は別のところへと誘導される事に。
「こらこら、ケルヴィンく~ん? 無意識とはいえ、女性の手に勝手に触れるのは感心しないな? と言うか、未来のお嫁さんであるアンジェさんが、目の前に居るんだよ? 握るならこっちにしなよ!」
「っとと……!」
はい、いつの間にポジションをチェンジしたのか、俺の目の前にはアンジェが居ました。んでもって、手もギュッと握っております。うーん、何という物理的なイリュージョン。
「むむっ、妾は別に気になどせんぞ? 他の男ならそうかもしれんが、相手がケルヴィンであれば話は別。何せ、妾とケルヴィンは深い仲じゃからな!」
「はいはい、誤解を招く言い方をしないでくださいよ、ツバキ様。今、他の招待客の人達も移動して来るんですから。あと、ケルヴィン君はケルヴィン君で私に何か言う事はないのかな? 具体的には私の恰好を見て、何か言う事はないのかな?」
一歩下がり、そのままクルリと回転して、自らの衣装を華麗に強調して見せるアンジェ。さっきも言ったが、アンジェは現在トラージの着物を身に着けている。式で着るものは別に用意しているから、これはツバキ様に貰ったのかな? 着物にしてはミニスカートの如く丈が短く、大変に動きやすそうな――― ってこの衣装、心なしか忍者っぽくない? いや、でもまずは感想を述べるのが筋か。アンジェがすっかり感想受け入れモードに入っているし。
「ああ、アンジェに凄く似合ってるよ。可愛くもあり、格好よくもあるって言うのかな? けど、少し気になる事もあって―――」
「うんうん! 良いですよね、その衣装! 実は我が家に伝わる、秘伝の装備の一つなんです!」
「っとぉぉぉ!? ス、スズ!?」
唐突にスズが転移門から現れ、それと同時に彼女の大声が、俺の鼓膜にダイレクトアタックをかます。うん、見事にかまされたわ。普通にビビったわ。いや、転移門前に陣取っていた俺も悪いんだけどさ。
「あー、スズちゃんネタバレは厳禁だよー! 私が説明したかったのに!」
「はい、マスター・ケルヴィンの一番弟子、スズです! そして、すみません! アンジェさんにとっても似合っていて、嬉しくってつい!」
「あ、ああ、なるほど、そういう流れがあったのか。お陰で色々と納得がいったよ、うん……」
ところでスズの奴、何か昨日のテンションが継続されていないか? 普通の会話も実況みたいな声量になっているぞ?




