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黒の召喚士 ~戦闘狂の成り上がり~  作者: 迷井豆腐
アフターストーリー3 結婚編
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第365話 漆黒の咆哮

 どこからか聞こえて来た、ルキル渾身の怒りの叫び。怨念に塗れたその声は非常に大きく、不気味なほどに空間に響き渡る。言葉は明瞭かつ理解できるものだが、性質としてはグスタフ王が我を忘れた時に出してしまう、呪いの言葉そのものであった。具体的に言えばその声を耳にするだけで、何らかの状態異常をきたす代物である。


「そこかッ!」

「そこですねッ!」


 しかし、ケルヴィン達はその声を聞いた瞬間、その発声源にカウンターとなる攻撃を仕掛けていた。驚く様子は一切なく、まるでこうなる事が分かっていたかのような反応だ。呪いの声を出していたのは、幾つもある肉塊のうちの一つであり、二人からは比較的遠い位置を飛んでいた個体だった。一見他の肉塊と同じような外見をしているが、その中心には大きな口が形成されており、尚更に不気味な様相を呈している。


「なッ―――」


 口付きの肉塊もまさか直後にカウンターを放たれるとは思っていなかったのか、二人の攻撃をまともに食らってしまう。そして、爆散&四散。恐らくはもっと叫びたい事があったんだろうが、その肉塊はここで役目を終えるのであった。


『イチャイチャ炙り出し作戦、上手くいったな。いや、正直成功したのが驚きだけど』

『相手がルキルだからこそ通じた作戦でしたからね。念話からイチャイチャの気配を察する事くらい、彼女なら無理を通してできてしまう。私はそう確信していました』

『何その歪な信頼感……?』


 戦闘の最中にケルヴィン達が夫婦漫才を繰り広げていたのには、しっかりとした理由が存在していた。全てを超越した黒女神にも弱点があったように、神に等しくなったルキルにも弱点部位は必ず存在する。そのように考えたメルは、今回のイチャイチャ炙り出し作戦を立てたのだ。ルキルの感情を刺激し、彼女の根幹を深く宿しているであろう本体を引っ張り出す――― そう、全てはこの時の為にあったのである。ケルヴィンは半信半疑だったようだが、作戦はメルの思惑通りに進み、先の結果に繋がった訳だ。


 ……だが、先の肉塊は本当にルキルの弱点部位だったのだろうか? ルキルの執念は、あの程度で止まるものだろうか? その答えは、すぐに判明する事になる。


「あ゛あ゛あ゛あ゛……! ななん、何という事……!」

「わわ、私を騙すだなんて、なな、何と悍ましい……!」

「こここ、これはははきっと、小賢しいケルヴィンの作戦……!」

「わたわた、私のここ心はきき、傷付いた……! 酷く損傷ししたただ……!」

「ややややはり、あの男はこここ殺さささなけければば……!」


 周囲の肉塊が一斉にあの口・・・を形成し、呪いに塗れた声で悲鳴を上げ始めたのだ。声が増えた事で呪詛の濃度が何倍にも膨れ上がり、戦場が呪いで支配される。


「ぐおっ……!? こ、これは、きつっ……!」


 流石のケルヴィンとメルもこれは敵わないと、無詠唱の『無音風壁サイレントウィスパー』でこれを遮断。しかし、これは応急処置に過ぎず、例の如く黒炎に無音風壁サイレントウィスパーが触れてしまえば、再び呪詛の嵐に耳が晒されてしまうだろう。


「クソッ! つか、ルキルお前! 無音風壁サイレントウィスパー越しで聞こえないだろうが、これだけは言っておくぞ! 作戦を考えたのは俺じゃなくて、メルの方だからな!?」

「「「「「ううぅ嘘をぉつぅけけげぇぇぇ!」」」」」

「だから何で聞こえるんだよッ!? メルの真似して心でも読んでる!?」


 ルキル達(?)はそれまで全方向に撒き散らしていた声を一極集中化させ、怒りの矛先であるケルヴィンへとそれを放出させた。見た目だけであればクロトの超魔縮光束モータリティビームに似ているが、その本質は聖剣に転生する前のクライヴに近い。また、この叫びにより無音風壁サイレントウィスパーも無事破壊されてしまう。


「俺に対しての信用のなさが酷い―――」


 ―――ジュッ!


 理不尽に対する文句を言い掛けたケルヴィンであったが、呪い渦巻く漆黒のビームを容赦なく浴びせられ、その姿を呪いの本流の中に消してしまう。


「じじ、し、死んだぁぁぁ……?」

「ぎきっ、消えた、消えたッ……!」

「やや、やっだぁぁぁ! 邪魔者、ぎぃえだぁぁぁ……!」

「メルメル、メルフィーナ様ぁぁぁ……! わたわた、私はやり、やりまじだぁぁぁ……!」


 あれだけの呪いを搔き集めた極大の攻撃だ。その身にどれだけの強化魔法を施していようとも、最早この世には肉片の一つも残っていないだろう。そう確信してなのか、口付きの肉塊達は口々に勝鬨を上げ始める。声は呪いに塗れたままであるが、その声色は心から喜んでいるようであった。


 待望の勝利、それを崇める神に報告する為、肉塊達は次にメルの姿を捜した。現在進行形で敵対している相手に勝利を捧げる。どう考えても意味不明な行為なのだが、当の彼女らは大真面目だ。今の彼女らの頭には、メルと共に世界を運営する幸せな図が描かれているのだろう。長年の夢の成就、復讐の達成、新たなる世界への到達、ルキルは今正に幸せの絶頂に居るのだ。


「「風神の氷爆弾スイサイドボム」」

「「「「へっ―――」」」」


 が、唐突に聞こえて来たその魔法は、ルキルの幸せを一息に吹き飛ばした。全ての肉塊の芯より轟いた爆発音が、その音と共にルキル達を粉々に吹き飛ばしたのだ。


「な、なび、が……?」


 霧となって消えていく寸前、ルキルが目にしたのは爆風に乗った自身の肉片であった。バラバラになっただけでなく、その全てが凍り付いている。そして、その景色の奥には捜していたメル、殺した筈のケルヴィンの両名の姿があった。


「な、なぜぇ、いぎでぇ……」


 その言葉を捻り出した直後、肉塊達は消失してしまった。


「なぜってそりゃあ、俺を殺してなかったからだ」

「怒りは時に想像以上の力を生み出し、覚醒を呼び起こす事もあります。しかし、大抵の場合は視野を狭くしてしまう。ルキル、今回の貴女の敗因はそこでしたね」


 ルキルが怒りに任せた攻撃を行う前の段階で、メルはA級青魔法【諜者の霧サグフォッグ】とA級青魔法【偽者の霧フォルスフォッグ】を同時に詠唱していた。諜者の霧サグフォッグは対象の姿と気配を消し去り、もう片方の偽者の霧フォルスフォッグは気配を有した偽物を生み出す、所謂、認識阻害系の魔法である。まあ要するに、だ。幻のケルヴィンを作り出してルキルの気を引き、二人はその裏で気配と姿を消して暗躍、そういった寸法だった訳だ。


 但し、今のルキルの実力を考慮すれば、少しでも理性が働いていれば、この霧の看破は十分に可能であった筈だ。しかし、ルキルはこれを見抜けなかった。それこそが怒りによる力を生み出した代償であり、理性を失った対価だったのだ。


「お前が俺らを見失ってくれたお陰で、悠々と合体魔法を使う事ができたよ。『風神の氷爆弾スイサイドボム』って言うんだが、まあ詳細までは教えてやる義理はないかな」


 合体魔法【風神の氷爆弾スイサイドボム】、メルの生み出した冷気をケルヴィンが風に乗せ、敵の呼吸と共に体内に爆弾を設置する、時限式の魔法だ。冷気は内部から徐々に肉体を凍結させ、脆くなった瞬間を狙って爆風発生のスイッチが自動で起動する。言ってしまえば、体内にてS級魔法が炸裂するのだ。何とも恐ろしい、殺意に満ちた攻撃と言えるだろう。


「これ、初めての共同作業にカウントされるのでしょうか?」

「式がまだ始まってもいないから、されないんじゃないか? ……で、今の攻撃を受けて唯一生き残った肉塊それが本体なのか?」

「が、あ……」


 先の爆発を受け、生き残っていた肉塊が一つだけあった。他と同様に口があり、サイズもそう変わらない個体である。


「ルキル、お前は相当に強いよ。それこそ、神にも迫る強さだ。復讐心も立派な原動力だって、改めて理解させられたよ。この短期間にそれだけの力を鍛え上げた精神力も、本気で尊敬している。 ……けどさ、理性のない獣のままその力を振るったとしても、十全に扱えているとは言えないんじゃないか? 現に二人がかりとは言え、数段力の劣る俺達を倒せていないだろ? 俺達は真面目にお前を殺そうとしているんだ。だからさ、お前ももっとこう――― 本気で殺しに来いよ?」

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