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黒の召喚士 ~戦闘狂の成り上がり~  作者: 迷井豆腐
アフターストーリー3 結婚編
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第348話 別れは唐突に

「お、おい、舞桜……!?」

「たはは、参ったな」


 顔の亀裂が酷い事になってるってのに、舞桜はやけに晴々とした表情をしていた。


「こんなめでたい瞬間に、そんな酷い顔をしないでくださいよ、ケルヴィンさん。大丈夫、俺と言う幻が一時的に消えるだけです。ですがご安心を。その気になれば、エレンさんが何度だって―――」

「―――いえ、無理ですよ? 今回はセシリアが手を貸してくれましたが、彼女の後悔はこれで完全に消失しました。更に言うと、私の中に僅かに残っていた力も、これにて完全消失です。『復古神域エポス』はもう二度と使用できないでしょう」

「……すみません、やっぱ永遠の別れみたいです。いやあ、流石にそんなうまい話がある訳ないか~」


 と思ったら、今度は若干当てが外れた様子。ったく、こいつは最後まで……


「そうか、時間か…… 素敵な組手相手ができたと思ったのに、残念だよ」

「ええっ? それだけですか?」

「いいや、んな訳あるか。戦いを抜きにしたって、こんな別れは不本意でしかない。今日という節目に舞桜を会えた奇跡を、俺は一生忘れないだろう」

「……ハハッ、嬉しい事を言ってくれますね。その言葉を聞けただけでも満足ですよ。幻でしかない俺を全力で倒し、こんなにも満たしてくれた。ええ、本当に満足です。最高の気分だ」

「おいおい、それは俺の台詞だよ。俺だって最高の気分なんだ」


 こんな会話を交わしている最中にも、舞桜の肉体の崩壊は続いている。いや、元のセルジュの姿に戻っていると言うべきか。


「エレンさん、俺の為にここまでしてくれて、本当にありがとうございました。いくら感謝しても足りないくらいです」

「感謝をするのであれば、どうかセルジュに言ってやってください。何と言っても、発案者はあの子なんですから」

「もちろん、セルジュさんにも感謝してもますよ。と言いますか、恐らく俺の見ている景色や記憶は引き継がれるので、言うまでもなく伝わっていると思います」

「そうですか…… 舞桜、言うのが遅れてしまいましたが、長い間ご苦労様でした。勇者として、人々の希望として、そして何よりもケルヴィンさんとメルさんの良き理解者として、貴方は本当によく尽くしてくれました。天に召した貴方の魂に、神の祝福があらん事を」

「あはは、元神様のエレンさんにそんな事を言われたら、意地でも祝福をもぎ取らないといけませんね。責任重大だなぁ」

「あ、あのっ!」


 それまで俺に抱き着いていたコレットが顔を上げ、何かを決心した様子で舞桜に話しかけた。


「私、今後も秘術の勉強を続けます! そしていつか、『復古神域エポス』も使えるようになりますから! だから、ええと……!」

「おっと、また嬉しい言葉を頂いてしまいました。俺は本当に幸せ者だなぁ。けど、気持ちだけ貰うに止めておきますね。さっきはああ言いましたけど、今を生きるコレットさんの負担にはなりたくないので」

「し、しかし!」

「コレットさん、とっくの昔に死んだ俺の事なんかよりも、大事にするべき人が傍に居ますよね? どちらを優先すべきなのか、賢い貴女になら分かる筈だ。まあ、どうしても何か力になりたいと言うのなら、俺のところに来るその時にまで、ケルヴィンさんの笑い話を沢山仕入れておいてくださいよ。それが俺にとっての最高のお土産になりますから」

「待て待て、笑い話限定なのか?」

「ポエムよりかはマシでしょう?」

「お、おまっ!? その話をどこから――― セルジュの記憶かこの野郎!?」


 俺、大変に遺憾。が、体が動かない。クソっ、大声を出すだけでも辛い……!


「……分かりました。デラミスの巫女として、そして何よりもケルヴィン様の妻として、このコレット、多くの土産話を持参する事をここに誓います。ケルヴィン様とメル様とリオン様との神聖なる生活を、私の脳に刻み込み後世の聖書としてしたため、舞桜様にきっとプレゼント致します……!」

「え? いや、俺が希望しているのは笑い話で―――」

「―――この聖書を読めば、誰もが笑顔に幸せになる! そんな聖書をお持ちしますのでッ! 何十何百冊になるかは分かりませんが、必ず全部お持ちしますッッッ!」

「あ、はい、期待してますね」

「待て舞桜、勢いに押されるな。お願いだからもっと粘ってくれ」


 んな聖書を何百も後世に残したくないんだが?


「あっ、そろそろ本気でタイムリミットっぽい…… じゃ、そんな感じでお二人とも、お幸せに―――」


 ―――パキィン!


 突如聞こえて来たのは別れの合図。幻は砕け、消え去ってしまった。


「あっ、ちょっ!? このタイミングでお別れ!?」


 俺がそう叫ぶも、時既に遅し。何とも言えぬ表情の舞桜の姿はそこにはなく、代わりに肉体の元の所持者であるセルジュの姿へとチェンジ。


「「………」」


 しかし、向いている方向などの体勢は諸々維持されている為、意図せず目が合ってしまう。き、気まずい。凄く気まずい。あんな別れ際だったし、今の俺がどんな顔になっているのか、ぶっちゃけ想像できない。


「……あ、終わった? ふわぁ、つっかれた~。幻とは言え、人に体を貸すのはこれで最後かな。何かめっちゃ疲れたしって、うわ、立ち上がるのもやっとじゃん。人の体なんだから、もっと丁寧に扱ってほしかったなぁ」


 が、そんな俺も顔も別れの余韻も関係ないとばかりに、セルジュは欠伸をしながら立ち上がった。彼女なりに気を遣ってくれたんだろうか? そういや、舞桜との再会の機会を企画してくれたのも、セルジュだって言っていたっけ。


「セルジュ、色々と苦労をかけた。そして、ありがとう。いくら感謝してもし切れないよ」

「おいおい、またお礼の言葉かい? 一応、私の意識も彼の中で覚醒していたんだ。そんなのもう聞き飽きたって」

「そうか? それでもさ、直接言っておきたかったんだよ。こんな格好で申し訳ないんだが」

「……君って意外と律儀だよね? 戦闘狂の癖してさ?」

「理知的な戦闘狂だからな。人として礼は言うさ」

「ハハッ」


 あ、何か鼻で笑われた!? 俺、別におかしな事は言ってないよね!? 何で!?


「まあ、アレだよ。本当に礼を言われる筋合いなんてない。私はただ、過去も未来も、もうデラミスの巫女には苦しんでほしくなかっただけなんだ。悲劇よりも喜劇、人生そうありたいものだろ?」

「……?」

「あっ、でも私に全くメリットがないって訳でもなかったり? ほら、過去の勇者が私の力を使って、どんな戦い方をするのかを間近で見物できた訳じゃん? あれってそのまま、私の可能性を増やす事に繋がっていたりするんだよね~。いやあ、まさかウィルで惑星を模しちゃうなんてね。そんなのアリ!? って、素で驚いちゃったよ。今度真似するから、次に戦う時はよろしくなんだぜ」

「そういう事かよ。ったく、ちゃっかりしてんなぁ」


 舞桜を通して戦術の強化を図ったのか。セルジュが更に強化される、その事実は俺としても嬉しい限りだ。よし、もっと強くなれ! 頑張れ頑張れッ!


「そんな事よりもさ、儀式本来の目的はやらなくて良いのかな? “ちょっと待った”に結構な時間を使ったみたいだけど、大丈夫?」

「あっ、そうだった!? クッ、動け、俺の体……!」

「ケ、ケルヴィン様、私が支えますので! 合法的にケルヴィン様の体に触れ――― いえ、支えますので!」

「その台詞には気乗りしないけど、頼んだコレット……!」

「ばいば~い、頑張ってね~」

「徘徊するモンスターに不覚を取らないでくださいね?」


 セルジュ、そしてシスター・エレンに見送られながら、俺達は目的地へと向かうのであった。


「……『選定者』もセシリアも、これで少しは報われたかな?」

「ええ、きっと」

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