第346話 聖剣対決
四方から一斉に迫る八つの惑星、これだけでも脅威だと言うのに、その背後には新たに出現した謎の惑星、地球が控えている。まるで俺目掛けて惑星を集めた後、あの地球ボールで更にブレイクショットを狙っているかのような、そんな立ち回りだ。
これまでの流れから察するに、あの地球ボールにも何らかの能力が備わっているのだろう。今この瞬間にそれを把握するのは不可能。ならば、一先ずは周りの惑星群から何とかすべし! が、無難な選択なんだろうが…… 策士な舞桜はそこまで読んで、次の展開に備えている可能性も十分に考えられる。さあ、この辺りが分岐点になりそうだ。
「おさらばです、ケルヴィンさんッ!」
「いいや、まだ死ねねぇなぁッ! 吐き出せクライヴ、『呪怨音叉鎌鼬』!」
構えていたクライヴ君を振るい、その刃に宿していた全ての呪いを吐き出させる。クライヴ君が言うに、これは体の中にある全ての臓物を吐き出しているような感覚があるそうで、その文面通りの辛さに襲われるんだそうだ。また全ての呪いを出した後は、新たに呪いをチャージするのに数か月ほどの時間を要する――― とまあ、なかなかに使い勝手が悪く、そう頻繁には使えない奥の手であったりする。しかし、それ相応にこの呪いは強力だ。『呪怨音叉鎌鼬』はそんなクライヴ君の怨念と、俺の緑魔法を掛け合わせた合体魔法のようなもの。言うまでもないが、こいつは厄介な技だぞ?
「ッ!?」
それまで人懐っこい笑顔を保っていた舞桜の表情が、分かりやすいくらいに歪んでいる。まあ、そりゃそうだよな。クライヴ君を持っている俺を中心にして、この一帯が怨念渦巻く超絶厄い空間に早変わりしたのだ。どんなに霊感がない奴でも、この呪いの前には踵を返し、一目散に逃走をはかる。特に見える奴にとっちゃ、いきなり目の前に地獄が出現したようなもんだろう。で、俺はそんな地獄を風に乗せて、結界内の各方面にお届けしている訳だが。
―――ザシュッ! ザシュシュ!
第一にお届けが決まったのは、元より俺達に迫っていた惑星群。呪いを乗せた風には、小さな斬撃痕が残る程度の攻撃性を持たせている。これ自体は大したダメージにならないし、最小の惑星すら破壊する事ができない。が、この小さな傷痕はそれ自体が呪い、お前は怨念の対象になったと言う、何ともありがた迷惑な印のようなものなのだ。しかも大鎌の特性も若干混じっていて、当たったら基本的に防御は不可能ときている。で、この印が刻まれた後に、どうなるのかと言うと?
「真っ黒に染まっちゃうんだよなぁッ!」
「ウィル!? クッ……!」
俺がその言葉を言い終えるよりも早くに、周囲の惑星群は霧のように消え去っていた。至高の呪いに侵された惑星達に待っているのは、その性質の反転である。どんなに清い武具も、この状態になってしまえば呪い系アイテムの仲間入り、その力を主の為に使おうとはせず、むしろ悪意を持って行動をし始める。
今回の場合、聖剣ウィルの一部であった惑星達は、呪い化する事で舞桜の願いを踏みにじろうとした。その結果が舞桜が願った理想の崩壊、ご覧の有り様って訳だ。いやあ、これって尊厳をぶち壊しているようなものだよ――― ん? いや、待てよ? 舞桜に対して悪意の限りを尽くそうってなら、その場で崩壊なんてせず、俺の味方をしてくれても良かったんじゃ? それこそ、セラの『血染』みたいな感じでさ。
……もしかしてあの惑星達、完全に呪われる前に、自ら崩壊する事を選択した、のか……? いやいや、相棒に愛され過ぎだろ!? ウィルの力の一部とは言え、主の為に死を選ぶようなもんだぞ、それって!
「だが、だけど…… それでも俺は負けない!」
「こんの愛され坊やがッ!」
いやあ、勇者って最高ですね! って、歓喜している場合じゃなかった。続けて本命の地球ボールが迫っている。俺はクライヴ君を振るい、完全に無防備な状態を晒している。が、周囲に伝播させた呪いの風は尚も健在。地球ボールにどんな力を持たせようとも、それ自体を自壊させれば何の問題も―――
「―――道は俺が指し示す! 『聖者の歩む道』!」
「なあッ!?」
何と言う事だろうか。舞桜の指先から過剰なまでに神聖な光線が放射され、部分的ではあるが、呪いの風が打ち消されてしまった。つうか、魔力の流れを肌で感じて分かったんだが…… お前、この場で魔法を新たに生み出したな!? しかも、俺とクライブ君が呪いを振りまいた後のタイミング、この一瞬で! 『並列思考』もない状態で、何て変態的なんだ……!
と、二重に驚く裏で魔法も解析。『絶対浄化』を持つリオンが一直線に駆けて行くのと同じ感覚がある。なるほど、最上位クラスの浄化魔法を、地球ボールの通り道ができる範囲に限定させて構築したのか。効果的には本当にリオンがその場を走ったに等しいものだが、それだけでクライブ君渾身の呪いを無力化できるのだから、如何にリオンが尊い存在なのかが再確認させられる。舞桜、改めてリオンの素晴らしさを教えてくれてありがとうってんな場合じゃないんだなぁッ!?
「けどよぉ、こっちだって二段仕込みなんだよなぁッ!」
俺の喉元に刃を突き立てられる前に、愚聖剣クライヴ君の第二の能力を発動させる。そう、うっかり忘れてしまいそうになるが、彼は腐っても聖剣として鍛え直した、俺自慢の一品なのだ。呪いを全て吐き出し後には、真に綺麗なクライブ君が顔を覗かせる仕様になっているんだ。
「■■■■■■■■■■■!(やってやんよおらぁぁぁ!)」
……相変わらず人格と言葉遣いは難アリだけど、これでも神聖な一品なのだ。よし、話を戻そう。真綺麗なクライブ君状態となった彼は、呪いの代わりに聖なる息吹を吐き出すようになる。具体的に言うと、白魔法の性能の底上げ、補助をしてくれるんだ。ぶっちゃけた話、白魔法の使い手である俺とは、こっちの状態の方が相性が良いまであったりする。さあ、行くぞ。
「■■■■■!(神鎌垓光雨!)」
最近漸く形になったが、それでも俺一人では発動するのに時間を要してしまう、この合体魔法もこの通り一瞬で――― いや、つうかお前が魔法名を叫ぶのかよ!? ま、まあ良いんだけどさ。
―――キュイン。
俺自身がバランスを崩していようとも、この合体魔法は無慈悲に発動される。クライヴ君の刃から数多の碧色光が放たれ、この場の誰よりも速くに周囲へと拡散。あらゆる角度から光芒となって降り注ぐ神鎌垓光雨は、間違いなく俺にとっての最強の一手だ。
「がっ……!」
発動の直後、舞桜が計三本ほどの光線に貫かれ、肩や脚などに大穴を開ける。結界内を埋め尽くすほどの光線の嵐だ。地球ボールの陰に隠れていようとも、神鎌垓光雨は死角から回り込むし、地球ボールごと貫通もしてくる。大風魔神鎌の斬撃が光の速度で迫って来る以上、これを躱す手立てはまず存在しない。現に間近に迫っていた地球ボールは、既に跡形もなく破壊されている。
「上手く急所を躱したな! が、次はどうする!? 傷を治している間にも、殺意の渦は絶えずお前を食らおうとするぞ!」
「■■■■■■■■■■■■■!? ■■■! ■■■■■■■!(さっきは死ぬかと思ったぞぉ!? 死ねぇ! 死んでしまえぇ!)」
真綺麗なクライヴ、口わりぃ…… 後で要調整だな。けど、戦況は一転した。脅威であった地球ボールの今やなく、辛うじて生き残っている舞桜がそこに居るのみだ。
「そ、それ、でもッ……! 勝つのは、俺ですッ! 神聖大剣!」
ここに来て、聖剣だったものを大剣に変え、更には背に白翼を展開する舞桜。その間も肉体を削られ続けているが、聖剣ウィルが欠けた肉体をも補い、舞桜の死を回避しているようだ。最早、舞桜自身がウィルとなっている。おいおい、惑星もそうだったけど、ウィルの使い方が奇抜過ぎるんだよ、最高かよ!
「良いねぇその意気だ! 神鎌垓光雨、希望を打ち砕け!」
「うおおおぉぉぉ! 綺羅星ぅッ!」
白翼が更に巨大化し、大きく羽ばたく。数多の光芒はその白翼をも穿ち、勇者を死へと導く。舞桜の剣が届くのが先か、俺の魔法が奴を死に至らしめるのが先か――― 来いよ、舞桜。その剣で俺をたたっ斬ってみせろ!




