第343話 聖宇宙
俺は今、宇宙のど真ん中に居る。何を言っているのかマジで意味不明だと思うが、状況的にはそう言わざるを得ないんだ。ああ、お星様が綺麗…… まあ、星は星でもアレな訳だが。
「おいおい、これは一体何の冗談だ?」
「冗談とは酷いなぁ。強いて言うなら、そうだなぁ…… 俺なりに考えて編み出した、俺流勇者戦術ってやつですかね?」
リオンに似た可愛げのある笑みを浮かべ、同時にどこか得意げな様子の舞桜。しかし、そんな奴の雰囲気とは真逆に、この状況は何とも不気味なものであった。
戦いが開始された直後、俺は意気揚々とクライヴ君を掲げ、早速舞桜と斬り結ぼうとした。暫くの待てを食らい、その後にクライヴ君使用可のゴーサインが出たのもあって、俺のテンションは最高潮に達していたんだ。けど、舞桜にそのつもりは一切なかったのか、接近戦を試みる俺と相反するように、後退しつつ距離のキープに一貫するばかり。セルジュのように手持ちの聖剣を変形させる素振りもなかった。
『遠距離からの魔法の撃ち合いが御所望か!?』
などと、そんな挑発もしてみたが、これに反応する事もないと来た。一体何を企んでいる? 構わず、魔法の砲撃戦を始めてしまうか? なんて事を考えているうちに、それは出来上がっていたのだ。
『ああ、良かった。俺のイメージ通りになってくれた。流石は歴代最強勇者のセルジュさんだ。本来の俺の力じゃ、こんな風にはいかなかった』
さっきまで散々無視を決め込んでくれていた舞桜の口から、安堵とも取れるそんな台詞が零れ落ちる。で、場面は現在へと繋がり、冒頭の俺の台詞に続いていく訳だが。
「っと、すみません。さっき何か喋っていたみたいでしたけど、俺、すっごく集中していて全然聞いていなくて…… えっと、何て言っていたんです?」
「……いや、そういう事なら気にしなくでくれ。まあ、何だ。つまりはこの状況を作り出す為に、俺から逃げ回りながら、下準備をしていたって訳か」
改めて周囲を見回す。コレットが施した結界の内側、そこには幾つもの星々が、言うなれば小型の惑星が浮かび、辺りを旋回していた。ひぃ、ふぅ、みぃ…… 浮かんでる星は全部で七つか。俺は宇宙やら星やらに詳しい訳じゃないけど、僅かにではあるが、その辺りの知識が備わっている。あのひと際大きい縞々模様が木星だろ? 星の周りに輪っかがあるのが土星だ。なるほど、恐らくこれら惑星は太陽系に存在するそれを模しているんだろう。何とも大掛かりなものを作り出したもんだ。
ええと、太陽系の惑星って言うと、残るは火星、水星、後は――― あ、やべぇ、木星土星と地球以外の星のビジュアルが思い出せない。火星とかって、何色の星だったっけ? 火ってくらいだから、赤色のアレがそうなのか? いや、地球に最も特徴が似ている星だって、どこかで聞いた事があるような気もする。となると、青いやつが火星? ……と、兎も角、太陽系の惑星は全部で八つだった筈! ……んん、八つ?
「……なあ、地球が見当たらないようだが?」
星の特定を放棄した俺が次に気にしたのは、最も見慣れた惑星である地球の存在だった。ある意味で一番目立つその存在が、今はどこにも見当たらない。
「いやあ、流石に地球を攻撃に使う訳には――― っと、危なッ! ちょっとちょっと、ケルヴィンさん! うっかりネタ晴らしをさせようとしないでくださいよ! ケルヴィンさんに質問されたら、俺、うっかり口を滑らせてしまいますって!」
「えっ? そ、そうなのか? まあ、過度のネタバレは俺の望むところではないし…… オーケー、能力についての質問はしないでおくよ」
「是非ともそうしてくださいッ!」
物凄い勢いで頭を下げられてしまった。それだけ俺に気を許してくれているって事だろうか? けど、今までの会話で何とな~く、能力の糸口が見えていたりもするんだよなぁ。
俺流勇者戦術、流石はセルジュの力――― 舞桜が口にした、それら二つの単語から導かれる答え、それはズバリ、勇者の得物である聖剣ウィルだ。知っての通り、あの聖剣には勇者が願った姿形に変身する力が備わっている。セルジュの場合、この能力を使って色んな武器を使ったり、得物の数自体を数千倍以上にまで増やしていた。いや、それも俺が確認した限りの本数で、限界ではないのかもしれない。兎も角、だ。セルジュは本人の強さだけでなく、この能力を一番上手く扱えていたからこそ、最強の勇者と呼ばれているんだ。
実際、セルジュは聖剣の扱いが群を抜いているよなぁ。現代の勇者である刀哉なんて、未だに二本までしか剣を増やせない訳だし、過去の舞桜も聖剣の形を若干変化させるに止まっていた。と言うか、セルジュ以外の勇者は全員その域でストップしていたんだと思う。他が弱いのではなく、セルジュと言う勇者があまりに突然変異だったんだ。
で、今回の場合、舞桜はそんなセルジュの力を用いて、セルジュ以上におかしい事をやらかした。自らの願いの形として透写したのが、今俺達の周りを回っている惑星群って訳だ。うん、おかしい。普通、聖剣で惑星を模倣しようなんて考え付かないだろ。最早、得物という概念を超越しちゃってるよ。ディティールにまでやたらと拘っていて、目を凝らせば惑星の模様――― 雲とか嵐? に当たる部分が動いているように見えるし。 ……これ、本物じゃないよね? と、そんな馬鹿な心配を本気でしてしまうくらい、出来過ぎた出来になっているのだ。
「―――舞桜はこれら惑星を使って、果たしてどんな攻撃を仕掛けて来てくれるのか…… 想像するだけでも、ご飯が何杯でもいけるッ!」
「あの、ケルヴィンさん? さっきから考えている事が駄々洩れなんですけど? 確かに質問ではないかもですけど、心の声を大にして洩らすのもどうかと思いますよ?」
「え、嘘!? 直接声に出てた!?」
「ええ、もろに…… と言いますか、俺がこの『聖宇宙』を作り終わるの、わざと待っていましたよね? 魔法を撃ちたそうにしていましたけど、必死に我慢しているようでしたし」
「あ、バレてた? ……って、それ以前にお前、集中云々とか言っていた癖に、よく見てるじゃないか」
「あ、また口が滑った…… まっ、そこはお互い様って事で。ともあれ、ここからはお互いに何の気兼ねもなく、やり合えますね?」
「ああ、漸くな。ああ、そうだ。宇宙は宇宙でも、空気があって安心したよ。まあ、真空状態でも何とかはなるけどさ」
「ハハッ、本当に無茶苦茶な人だなぁ、ケルヴィンさんは」
舞桜に対する直接攻撃は控えていたが、クライヴ君に強化を施すなど、諸々の補助魔法の付与は既に終えている。さあ、舞桜よ。この疑似宇宙空間を使って、一体何をして――― ん? 舞桜の聖剣も形状を変えている? 昔使っていた大剣か? いや、アレは―――
「―――ビリヤードの、キュー?」
「流石はケルヴィンさん、一目で見破ってしまいますか。不味い不味い、これ以上情報を与える前に、早速ブレイクショットと移らないと! ではでは!」
「お、おい、まさか……」
舞桜が聖剣を構え、ちょうど目の前に移動して来た赤い惑星に狙いを定め始める。ここまで来ると、最早舞桜の狙いは明白だ。
「ブレイクショット!」
そう、想像した惑星をビリヤードのボールに、結界内のこの空間をビリヤード台に見立て、ゲームをスタートさせたのだ。キューによって惑星が弾かれ、それが別の惑星にぶつかり、衝撃が次々に拡散されていく。こ、これは…… ひょっとして、もろに物理な攻撃!?




