第342話 ド派手に打ち上げよう
舞桜と再会できた喜び、かつての巫女であるセシリアの後悔――― それらは正面から向き合う必要のあるものだ。が、今最優先すべきは成す事ができなかった舞桜との戦い、その決着である! 理知的な俺は前者こそを優先すべきだと、欠片ほどは思っているのだが、他でもない舞桜が“ちょっと待った”を宣言したのなら、これに対応せざるを得ない! そう、仕方なく! そして喜んで! 対応しなければならないのである!
「やる気ですね、ケルヴィンさん!」
「お前こそな、舞桜!」
再会の挨拶は最早不要。そう言わんばかりに、俺と舞桜が向かい合った。
「ケ、ケルヴィン様、何と神々しい笑み……! 不肖コレット、溜まらずに信仰心が一杯一杯です……!」
「あの、色々と顔が酷い事になっていますよ? ハンカチ、使います?」
「ぶぅええええぇっふ!」
「ああ……」
邪な気配を感じ、そちらの方をチラリ。何やらコレットとシスター・エレンが会話をしているようだ。あちらはあちらで、戦闘開始前の口上戦でも繰り広げているんだろうか? 雰囲気から察するに、コレットが一歩リードしている感じがする。シスター・エレン、何か青い顔して冷や汗かいてるし。
「それはそれとしてお二人とも、戦いを開始する前に秘術の構築だけはさせてくださいね? 死亡無効は当然として、墓地を保護する為に攻撃遮断の障壁も周囲に施しますので」
「「あ、はい」」
急に真顔になったコレットの正論パンチにより、俺と舞桜が揃って体育座り待機をする。そうだね、俺達も気を付けるけど、万が一があったら危ないもんね。
「ただ待っているだけでは退屈でしょう。その間に、少し感傷的な話をしても?」
過去再現以外の秘術は使えない為なのか、シスター・エレンもこちらで待機するようだ。ええ、もちろん聞きますとも。あと、何かハンカチがずぶ濡れ状態だけど大丈夫? 局地的な大雨にでも当たったのか?
「エレンさん、ひょっとしてその話、セシリアの後悔と関係しています?」
「……ええ。少し、昔話をしましょう。昔々、デラミスにてある巫女が嘆いていました。ある事件により発生した、魔王と天使の不幸な行き違いを悲しんでいたのです」
「それって……」
やっぱ、俺とメルの事だよな。
「その事件で傷ついた者の心を、どうにか癒す事ができないか…… 嘆くと同時に、巫女は悩み続けてもいました。その結果行き付いたのが、彼の秘術だったのです。巫女は自らの記憶、そして天使の記憶を統合し、更には親しかった勇者の身体を借りて、亡き魔王の姿を再現したかったのでしょう。仮にその再現が紛い物であったとしても、ほんの少しでも天使の慰めになってくれればと、そう願ったのです。せめて、別れの挨拶くらいはと…… しかし、この秘術を編み出した時には、既に天使は人間界から姿を暗ましていました。以降も天使が彼女の前に現れる事はなく、勇者も元の世界へと帰還してしまった。結局、この秘術は一度も日の目を見る機会がなく、巫女の心残りと共に時代の荒波に消えて行ったのです」
「「………」」
それは残された者の半生、俺が知る事のなかった巫女の後悔の声だった。俺が死に、メルが消え、舞桜が帰った後、ひょっとしたらセシリアは誰かと結婚をし、子を儲け、魔王の去った平穏な世界で幸せに過ごす事ができたのかもしれない。が、仮にそうであったとしても、その胸の中には小さな刺が残り続けたんだと思う。彼女の墓にそういった念が残っていたのが、何よりもの証拠だろう。
「セシリアはいつも明るく振舞っていました。けど彼女も俺と同じように、責任を感じていたんだと思います。だからこそ、この秘術を編み出した」
自らの掌に視線を落としながら、舞桜がそんな言葉を口にする。
「……裏事情を知ると、何だか申し訳ない気持ちになってしまうな。本来であれば、メルの為に使う秘術だったんだろうに」
「どうかそんな顔をなさらないでください。セシリアはこの展開を望んでいました。そうでなければ、私にこの力を貸す事もなかったでしょうから」
「そうだと良いんだがな…… いや、これ以上感傷に浸るのは止そう。かつての巫女――― そのセシリアさんが望んでいるんであれば、俺達はド派手な花火を打ち上げるだけだ」
「フフッ、ケルヴィンさんの悪い癖は相変わらずのようだ。それじゃあ、俺もその流れに乗るとしましょうか。花火は大いに楽しみ、盛り上がりながら打ち上げるものですからね」
悲しみと共に消えて行った秘術が、今になって復活した。それも舞桜との再会を果たすと言う、最高のタイミングで。セシリアさん、貴女がこの秘術を作ってくれた事を、俺は心から感謝する。受け取るのにかなり時間が掛かってしまったけど、この気持ちは本物だよ。
「ぜぇ、ぜぇ……!」
そんな中、俺達の前を息も絶え絶えなコレットが横切った。えっと…… うん、時を超えて、コレットにも大変お世話になっております。いやあ、流石に連日の結界構築は激務が過ぎるよね。でも、きっと幸せにしてみせますので、どうか安心してくだ――― いや、待てよ? セシリアさんはメルとの幸せを願っていた訳で、これだと逆に困惑させる流れになってしまうのだろうか? う、ううむ……
「―――盛大に花火を打ち上げよう。何はともあれ、俺達にできる事はそれしかない!」
「おっと、凄いやる気ですね。俺も負けていられないなぁ」
結論、メルとの結婚も同じくらい頑張りますんで…… セシリアさん、コレットとの結婚も認めてください! あ、ひょっとしてこの“ちょっと待った”、その辺の試練の意味合いも含まれてます!?
「ひ、秘術の構築、完了…… お二人への、死亡回避術式も、うぷ…… 完璧、です……!」
「素晴らしい仕事振りだ、コレット。あとは結界の外で、俺の戦い振りを見ていてくれ。ちょっくら、昔の戦友達に俺達の結婚を認めてもらうからさ!」
「そう簡単に認めると思ったら大間違いですよ? 今日に限っては俺、空気を読まずに勝ちに行きますから。じゃないと、ケルヴィンさんに怒られそうですし!」
「俺の事、よーく分かってるじゃないか、舞桜ッ!」
「当然! 一緒に旅をした仲、それも勇者と魔王の仲にまでなった男ですからね、俺はッ!」
出だしからの最高潮。ああ、最高の気分だ。それでいて、何だか斬り結びたい気分でもある。舞桜の手に聖剣ウィルがあるせいかな? じゃ、今日はサービスデーって事で――― 大一番での出番だぞ、クライヴ君!
「っと、これはこれは、随分と禍々しい魔剣を出して来ましたね。何やら危険な香りがプンプンします」
「これでも改心させて、随分と綺麗な状態になったんだけどな。相手が女の時は使わないようにしているんだが、お前が相手となる今回の戦いなら――― ん?」
そこまで言いかけて、俺の中で一つの疑問が生じる。いや、待てよと。今回の相手は舞桜だけど、元の肉体はセルジュのものなんだよな? その場合、男女判定はどうなるんだ? このままクライヴ君を使っても良いのか? む、むむっ……?
「……クライヴ君、今から目の前の敵の血を吸わせてやろう。どうだ、久方ぶりの血だぞ? 嬉しいだろう? 今宵のクライヴ君は血を欲するとか、そんな気分になるだろ?」
「■■■……(ええっ……)」
あ、クライヴ君のやる気がないぞ! ならオーケーだ、ゴーだ、ゴー!
「あのー、エレンさん? ひょっとして今世のケルヴィンさん、魔王の時よりもはっちゃけてません? 何か目の前で、凄く危ない発言しているんですけど?」
「普段通りに見えるので、特に問題はないと思いますが?」
「はいっ! 今宵のケルヴィン様も台詞が神懸かっています! フンスフンス!」
「ええっ……」




