第333話 疾風迅雷
耳鳴りが酷い。それもこれも、全ては唐突に大声を出したラミちゃんが悪い訳で。強烈な光と同じく、猛烈な音も人体にとっては致命的な弱点だ。こればかりは防ぎようがない。
「まっ、自前で回復できる訳だけど」
観戦に支障をきたしたくないので、白魔法で即座に治療完了。よっし、よく聞こえる。
「ラミちゃん、気合の入った声援は有難いんだけどさ、普通に周りの迷惑になるから、声の大きさには気を付けような?」
「あ、ごめ。そこまで気が回らなかったわー。鼓膜、だいじょぶそ?」
「破れかけたけど、ギリだいじょぶそ。あと、さ…… 今リオンが纏っている、あの電気、アレってラミちゃんが一枚噛んでる? さっき、ラミちゃんにしては珍しく四字熟語を使って、疾風迅雷とか言っていたようだけど?」
「おー、分かっちゃう? さっすがリーちゃんのイケダ~ン、パないね!」
ラミちゃん、あっさり認める。と言うか、最初から隠す気がないっぽい。
「えっ、それって戦闘中にリオンちゃんの補佐に回ってるって事? いやいや、普通に駄目でしょ。ルール違反になるんじゃないの?」
と、珍しくも至極真っ当な指摘をするセルジュ。
「確かに、今この場でリオンに補助魔法をかけたり、ドロシーに向かって攻撃を仕掛けたりしたら、ルール違反に該当するだろうな。けど…… 今回はセーフだ」
「え、何? 身内びいき?」
「いやいや、そんなくだらない事なんてしないって。これはだな―――」
説明開始。言ってしまえば今回のパターンは、ガウンでの獣王祭の時と同じなんだ。獣王祭は魔法が全面的に禁止されていたけれども、試合開始前に付与された魔法は有効としていた。ルールの裏をかくこのやり方は、実のところ公式に黙認されていたんだ。そして、それは今回も同様。“ちょっと待った”が開始される前に付与されたものであれば、それは予め準備しておいた装備のようなもので、開始前に解除する義務も特にない。つまるところ、ラミちゃんがやったであろう何かしらの能力(?)は、文句のつけようもなく有効なのである。
にしても…… いやはや、まさかここでラミちゃんがやってくれるとはね。ラミちゃんは確か、ガウンの推薦を受けて学園都市に入ったんだっけ? 意外とこの作戦立案も、ラミちゃんのものだったりするのかな?
「―――そんな訳だ。セルジュ、納得してくれたか?」
「納得? 私は最初からリオンちゃんとラミちゃんを信じていたんだぜ!? 疑うなんて、とんでもない!」
「……うん、そうか。それよりもラミちゃん、俺が気になっているのは、あの付与効果にどんな力が備わっているかでだな」
「おいおーい、今のツッコミどころ! 絶好のツッコミどころだよ!?」
「すまん、セルジュ。そろそろ俺もツッコミの残弾数が心許ないんだ」
「えー」
つか、そろそろこの戦いに集中したい。
「おっ、やっぱ興味あり味? いーよ、教えたげる。私がリーちゃんに貸したのはね、私の固有スキル、『疾風疾風』と『迅雷迅雷』なんよ!」
「……そこは素直に疾風迅雷じゃないのか?」
「名前については私が決めた訳じゃないから知らんし。けど、どっちもまーぢ鬼電なやつだから、頼りになる相棒になる的な? ま、今まではレベチな感じになるんじゃね? 知らんけど」
「知らんのかい!? ……あっ」
「ツッコミ入れてるじゃん」
クッ、貴重な残弾がッ……!
「……なるほど、ラミさんの力ですか。人類最高峰の力を持つリオンさんに、竜王の力が備わったなれば、確かにそれは脅威ですね。リオンさん、見せて頂けますか? その力が私に届き得るかどうかを」
「もちろん。じゃ――― 行くね!」
俺達がそんな馬鹿なやり取りをしている間にも、戦いは次のステージに進もうとしていた。そして馬鹿をしつつも、これを見逃す俺ではない。幾つもの『並列思考』を観戦の方に割いて、戦況の変化に備えていたのだ。リオンも言っていたけど、やはり備えとは大切なのである。で、そんな備えが功を奏し、リオンの姿がバリっと消えた瞬間を捉えた訳だが―――
「「「ッ!?」」」
―――速過ぎて、それ以降のリオンの姿を見失ってしまう。は? と、俺どころかセルジュやドロシーまでもが目を見開いていた。リオンの通った痕跡として、周囲に緑と紫の電流の残滓が走っている。察知スキルにも引っかかっている。完全に消えた訳ではない。が、リオンの移動スピードが常軌を逸していて、どれも残像しか認識する事ができない。
「アレは緑の電気、『疾風疾風』の効果ね」
「……今更だけどさ、疾風なのに電気なのか?」
「ケルヴィーン? あんま細かい事気にしてっと、禿げるのが早まるよ?」
「え、そうなの!? やべぇ、大分早まってる!?」
「うんうん、これからは気をつけなー? で、肝心の固有スキルの中身についてだけどー…… ヤバいくらいに速くなんのよ、アレ!」
「「………」」
思わず押し黙ってしまう俺&セルジュ。う、うん、それは見れば分かるんだが…… 恐らく、その『疾風疾風』とやらの効力は、『魔力超過』で最大強化した『風神脚』よりも上だろう。俺達の中で一番足の速いアンジェに、それを付与して五分。それくらいに今のリオンはスピーディーなのである。
「ま、効果は見ての通りなんだけどね? アレ、効果と同じくらい尻上がりで、実戦ではなかなか使えんのよー。そのせいで対抗戦では使えなかったし、まぢぴえん」
「そ、そうなのか…… しかし、尻上がりねぇ。付与してから一定時間経過しないと、あの効果が発動しないって事か?」
「時間ってよりも、使う前にたっくさん放電しないといけないんよ。赤魔法で言えば、S級魔法相当を数発分はいるっぽいかなー? バリバリ一杯電気使って、漸く慣らし運転が完了する的な? ぷぷっ、自分で言うのもアレだけど、使い勝手悪くてウケる。おまけに自分かズッ友にしか使えんって言う縛りもあるしで、がちしょんぼり沈殿丸……」
ウケたのかと思えば、割とガチ目にしょんぼりし始めるラミちゃん。しかし、なるほどな。様々な縛りを加える事で、発動時の効力を爆増させているって事か。使い勝手なら俺の『風神脚』、逆転の一手を狙うなら『疾風疾風』ってところかな。
「ラミちゃんラミちゃん、まだ落ち込んでいる場合じゃないって。ほら、他にも『迅雷迅雷』って能力もあるんでしょ? そっちの話は? セルジュさん、是非とも拝聴したいな~?」
「あ、そっちも聞いちゃう? 仕方ないな~、ラミちゃんがピンポンパンと教えちゃる! けどまあ、『迅雷迅雷』も発動条件は『疾風疾風』と同じでね? 改めて説明できんのは、能力の方くらいじゃね?」
「発動条件が同じって事は、もうリオンちゃんはそっちの力も使えるようになってるって事かな?」
「それなッ!」
待ってましたとばかりに、ラミちゃんがビシッと指差し確認。
「で、そっちの能力ってのは、一体どんなものなんだ?」
「改めて説明する必要がないくらい、ホンットに単純なもんよ。『迅雷迅雷』はスピードを破壊力に変換すんの! スピード=パワー、みたいな!」
「「………」」
俺は思った。多分だけど、セルジュも同じ事を思っていると思う。それ、まぢやばい事になんじゃね? ……と。そして、その予想は見事に的中してしまうもので。
「―――瞬斬牢」
「が、はぁっ……!」
これまで一切のダメージを受け付けなかったドロシーが、無数の斬撃によって斬り刻まれていた。




