第332話 字余り
バトルフィールが激しい電撃に塗れ、雷の落ちる音が絶え間なく鳴り続ける。その度にピカピカと雷光が広がり、連続でフラッシュを焚かれているが如く、非常に目に悪い環境が構築されていた。これがテレビ画面からのものであれば、苦情殺到は確定な酷さである。現に俺とラミちゃんを除く見学席の皆は、あまりの眩しさに目を覆い隠していた。
「うわああああッ! まぶ、まぶっ、眩しいぃぃぃ~~~!?」
「まるで雷神の怒りのようで候…… 皆の者、直視してはいかんでござるよ!」
「なるほど。視覚だけに頼るのではなく、五感全てで戦いを感じろと言う事か。リオンもなかなか厳しい事を言うものだ」
「えっ、そんなメッセージがあったんスか?」
「さ、流石はエドガー様、何という洞察力なんだ……!」
……何だか無駄に深読みされてしまっているようだが、多分リオンはそんなメッセージなんて発していないんじゃないかな。今のリオンが最優先すべきは、ドロシーとの闘いに勝利する事、その一点に尽きる。この雷光による点滅も、戦いの渦中に居るドロシーの目を直に攻撃するのが目的だろう。どんなに強く強靭な肉体を持つ奴も、人体の構造上、強烈な光を直に目で受け止める事はできない。非常に単純な手段ではあるが、目眩しは格上にも通じる、立派な戦法の一つなのだ。
ちなみにだが、例外的に俺とラミちゃんは戦いを直視している。フッ、こんな事もあろうかと、俺はサングラスを持参していたのだよ。で、ラミちゃんの方は―――
「おーおー、二人ともテンションブチアガってんねー! うんうん、良い電気流してるわ、まぢエレクトリカルパレード!」
「………」
―――何で素の状態で直視しているんですかね? アレか? 雷竜王だと目の構造も特殊なのか? それとも、そういうスキルがあったりするのか? 光を司っている筈のうちの光竜王様だって、これくらいの光だと普通に眩しいって言うのに…… ううむ、謎である。
「ラミちゃん、ガン見してバイブス上げてるとこ悪いんだけど、直に見て眩しくないの?」
「へ、何で? つか、そう言うケルヴィンだって、めっちゃ見てる――― って、何その面白眼鏡? 割とウケるんですけど! オシャレ? オシャレなん!?」
ああ? 何だおめぇ? サングラスかっこよぢゃんかよ? ……いや、何か俺もテンションがおかしいな。ラミちゃんの影響だろうか?
「それよりも、今は二人に集中してけー? ほら、今なら皆も見えっから」
「む……」
話を逸らされた感があるが、確かにあれだけ激しい点滅を繰り返していた戦場が、今は光と音も鳴りを潜めていた。時折、宙をバリバリと紫電が走っているようだが、戦いを注視するには問題のないレベルだろう。まさかとは思うが、本当に戦いが終わっていたりはしないよな?
「……流石だね、シーちゃん。僕の攻撃、全部直撃したと思ったけど、上手くダメージを防いだのかな?」
「いいえ、それは違いますよ、リオンさん。貴女の攻撃は確かに直撃しました。これ以上ないと言うタイミングで、最高の当たり所で、その全てが直撃しました」
そんな会話が聞こえて来た辺りで、漸く全景が見えて来る。まず視界に入ったのは、漆黒。あの激しい点滅の影響なのか、床が真っ黒に焦げてしまっていたのだ。一体どれだけの雷を落とし、電撃を食らわせられたんだろうか。床の張り直しが急務である。ああ、いや、今はそれよりも……
「ですが、それでも私にダメージは通りませんでした。ガードもせず、自ら隙を晒し、敢えて罠にかかって尚、一切負傷する事はなかったのです」
「………」
黒焦げ床の上に立つ、リオンとドロシーの姿を捉える。床はもう瀕死状態だって言うのに、双方にダメージらしいダメージは見受けられない。本当にあの激光りの中に居たのかってくらい、どちらもノーダメージだ。この結果に俺はひと安心――― したら、駄目なんだよなぁ。
「まあ、ある程度予想していた事ではあったけど…… ドロシー、まぢで桁外れだな。どんなステータスをしてんだよ?」
「そんなに気になるのなら、『鑑定眼』で確認してみたら? まっ、意味ないと思うけどね~」
セルジュに言われるまでもない。ダメ元でドロシーのステータスを覗こうと、既に『鑑定眼』は試している。で、その結果がこれだ。
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ドロシアラ 1339歳 女 神柱 時魔導士
レベル:おい
称号 :死神
HP :勝手に
MP :覗き見
筋力 :するな
耐久 :ぶっ倒し
敏捷 :ますよ?
魔力 :字
幸運 :余
スキル:り
補助効果:。
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―――字余るなと! と言うか、何で俺に名指し!? ……い、いや、冷静になって考えれば、この場に高位の『鑑定眼』でステータスを確認しようとする者が、俺くらいしか居ないからか。多分だけど、『偽装』のスキルでステータスの表記を改変して、こんなメッセージを作ったんだろう。数字を弄るくらいはすると思っていたけど、まさかそんな使い方をして来るとは…… ドロシー、面白い子!
「リオンさん、もう正直に言ってしまいますね? 先の攻撃でそれなりのダメージが通ったら、実は負けても良いかなって思っていたんです、私。最初こそケルヴィンを張り倒すつもりでいましたが、まさかこんな展開になるとは思っていませんでしたから」
「でも、ダメージは通らなかったね」
「ええ、全く通りませんでした。これでは負けようがありません。同時に、リオンさんの勝機も潰えました。なので―――」
そんな事を考えていると、何やら戦いの空気がシリアスな感じになっていた。さっきとの落差が酷くて、風邪をひいてしまいそうである。
「―――どうか降参してくれませんか、リオンさん?」
「……冗談のつもり?」
「いいえ、大真面目に言っています。大勢が決した今において、もう悩むべき事はそう多くありません。リオンさんをどう負かすか、私が“ちょっと待った”に勝ってしまった事での後始末を、どう穏便に済ますか――― まあ、安心してください。どう転んだとしても、悪いようにはしませんよ。私はリオンさんを傷付けません。降参を宣言しなくても、無傷のまま負かしてあげます。“ちょっと待った”に負けたとしても、どうにかケルヴィンさんと結婚させてあげます。だから、安心してください」
穏やかな表情を顔に張り付けながら、そう言い切るドロシー。彼女の表情と言葉からは、リオンを安心させたいという気遣いが感じられた。だが普通に考えれば、それは逆効果でしかない。リオンは神に勝つべく、真剣に勝負を挑んでいるんだ。いくら表面だけを取り繕っても、それはリオンの気持ちを逆撫でする行為でしかない。 ……と、俺はそう思った訳だが、リオンの反応は如何に?
「……シーちゃんは優しいね」
「「えっ?」」
俺とドロシーの声がハモる。って、いや待て、確かに予想外の回答だったけど、何でドロシーも俺と同じ言葉を発するのよ?
「え、ええと……?」
「そうやって僕の気持ちを掻き立てて、更なる力を引き出させようとしているんでしょ? ヒーローは土壇場で強くなる。物語りでは王道の展開だ。フーちゃん辺りに教えてもらったのかな?」
「「………」」
その瞬間、ドロシーとセルジュが揃って視線を逸らした。お前ら……
「気を遣ってくれて、ありがとう。けど、現実ではそんな都合の良い展開って、なかなかないんだよ。そんな事で急に強くなったら、誰も苦労はしないもんね。本当に大事なのは、それまでにどれだけ努力して、必要な修練を積んだか。あとは、そうだなぁ…… その戦いに向けて、どれだけ備えたか、かな?」
「ッ!?」
直後、纏っていたリオンの稲妻が、全くの別物に切り替わった。緑と紫の電流が複雑に絡み合う、俺でさえも見覚えのないものだ。いや、本当にアレは何だよ? 『稲妻超電導』の発展型か? 感覚的な感想だが、リオンが今まで使っていた赤魔法とは、何かがまるで違うような…… むむむ?
「リーちゃんアゲちゃってー! 準備万端、やるなら今しかないっしょ! 疾風迅雷、テンアゲかましてけー! イェーイ!」
そんな風に考えている最中、ラミちゃんの特大の声援が俺の耳を素通りしていった。うごごご、なんつう大声……!? 耳が、耳がッ……!




