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第92話 暴風

 ―――エルフの里・弓櫓


 男はポカンと目を丸め、その美顔で信じられないと大袈裟に振舞う。


「うわー、最高に臭いセリフだね~! リアルで言う奴初めて見たよ。恥ずかしくないの? うん?」

「エフィル、防壁に移動しろ。櫓を解体する」

「おいお~い、今度は無視ですか~?」

「は、はい! ……ご主人様、ご武運を」


 エフィルは隠密を使い、姿を消す。今頃は櫓を降りているところだろう。


「ああっ!? エフィルちゃんどこ~!?」

「……もう黙れよ、お前」

「君が黙ってよ、僕が用があるのはエフィルちゃんなんだか―――」

「黙れ」

「―――!」


 俺の右手が振るわれると同時に、男とその仲間が真横に吹き飛んでいく。怒りのまま割と本気で吹き飛ばしたので、どこまで行ったかは俺にも分からん。方向的にはトライセンの方だ。里周辺で戦うよりはマシだろう。ここまできて被害を出す訳にもいかない。


 奴らが宙に浮いているのは緑魔法の『飛翔フライ』を使用している為。あたかも翼があるかのように飛行する魔法だが、『飛行』スキルを会得していない限り、意図しない風に弱い。


 ならば、ドラゴンを吹き飛ばすほどの暴風を男と部下の女達に浴びせるまで、だ。


飛翔フライ風神脚ソニックアクセラレート


 奴らと同様に飛翔フライを施し、スピードも強化しておく。これから追いつかなければならないからな。


 トンッと櫓から飛び、宙に浮いてから弓櫓の解体作業を行っていく。これらを絶崖黒城壁アダマンランパートの応用で再構築していき、目的の物を新たに作り出していく。


剛黒の黒剣オブシダンエッジ4本作成、完了」


 櫓の姿形をとっていた絶崖黒城壁アダマンランパートを身の丈ほどある剣の形状にまで圧縮し、それを4振り生み出すことに成功する。更に、この剣にも同一の補助魔法をかけておく。


「……あそこか」


 千里眼で奴らの位置を確認、まだ吹き飛ばされている最中のようだな。あそこまでなら一瞬だ。飛行スキルは持っていないが、何せうちの仲間には翼持ちが二人もいるからな。コツはもう掴んでいる。


 衝撃波によるソニックブームを撒き散らしながら空を翔る。これだけの高度であれば地上に影響はない。何も心配することなく、本気で走ることができる!


「見つけた」


 男はいち早く体勢を立て直したようで、既に空中で止まりかけていた。部下の女はまだ復帰する気配がない。男の目の前で停止し、衝撃波の余波を直に食らわす。だが、男は周囲にバリアらしきものを張っていたらしく、ダメージを与えるには至らなかった。


「く~…… モブのくせにやってくれちゃって~」

「誰がモブだ」


 失礼な、これでも戦闘中の笑顔が素敵とうちの女性陣から評判なんだぞ。


「ふん、すこ~しだけ驚いたよ~。主人公である僕をコケにするなんてね。トリスタンに頼まれて来ただけのことはあったかな~。エフィルちゃんとも運命の出会いをしちゃったし」


 イラッ。


「主人公、ね…… 物語の主役気取りか?」

「あはは~、気取りじゃない。主人公そのものなんだよ! まあ、一端の脇役である君には分からないだろうけどね~」

「……お前、転生者?」

「うん? 何で分かるんだい?」


 ああ、やはりそうか。言動が怪しいとは思っていたが、こいつも現代からの転生者だった訳か。


「仕方ない。寛大なる僕が自己紹介してあげようかな! 僕の名は―――」



=====================================

クライヴ・テラーゼ 18歳 男 人間 緑魔導士

レベル:91

称号 :魔法騎士団将軍

HP :847/847

MP :2050/2400(+1600)

筋力 :234

耐久 :263

敏捷 :355

魔力 :802

幸運 :488

スキル:魅了眼(固有スキル)

    緑魔法(S級)

    鑑定眼(A級)

    魔力察知(A級)

    隠蔽(A級)

    胆力(A級)

    精力(S級)

    話術(B級)

    保管(B級)

    成長率倍化

    スキルポイント倍化 

=====================================



「クライヴ・テラーゼ。トライセンの魔法騎士団将軍か」


 緑魔導士、つまりは風と土のどちらか、或いはその両方を操る。初撃の不意打ち攻撃は風属性の魔法だろう。所持しているスキルも柔軟性を重視した構成だ。


「あれ、何で知ってるの? まあ、僕は有名人だから当然と言えば当然かな~」


 はあ、A級の隠蔽スキルを持っている為か、自身のステータスが見られているとは全く思っていないらしいな。それに……


「お前、転生のときに容姿を変更しただろ?」

「……何のことかな~」

「そんな理想を追求し切った不自然な顔、そうそうあってたまるかよ」


 つか度が過ぎて逆に気持ち悪いんだよ。刀哉が天然物のイケメンだとすると、こっちは人工的に改造した、って感じだ。


「ひょっとしておたく、同じ転生者?」

「これくらいの知識、一般常識さ。それよりもいいのか? 間合いだぞ?」


 言葉と共に3本の剛黒の黒剣オブシダンエッジを撃ち放つ。猛スピードで突き刺そうとする剛黒の黒剣オブシダンエッジはクライヴのバリアと接触し、ギリギリと拮抗する。


「ハハッ! いきなりだね~」

「それはいきなり俺達を攻撃してきた奴のセリフじゃねえな」

「でも無駄だよ、僕の螺旋護風壁ヒーリックスバリアは物理だろうが魔法だろうが、何物も通さない。普通であれば触れたものは粉砕されるんだけど、随分と頑丈な剣じゃないか!」


 鑑定眼でステータスと一緒にバリアについても確認はしている。クライヴのバリアは風を螺旋状に高速回転させ、外界からの侵入をシャットアウトする働きがあるのだ。下手に触れると風に斬り刻まれ、奴の言う通りの結果になるだろう。


「なら、こっちはどうだ?」

「―――! 上か!」


 クライヴの真上に高速移動し、手元に残していた剛黒の黒剣オブシダンエッジを垂直に降下させる。


「だから無駄だって~。螺旋護風壁ヒーリックスバリアは縦横無尽、死角なんてないのさ」


 結果は変わらず。バリアにより遮断されてしまう。


 暫く攻撃を継続させたが、変化はなし。これ以上は魔力の無駄か。


「……戻れ」


 全ての剛黒の黒剣オブシダンエッジを手元に戻し、俺の周囲に停滞させる。


 しかしながら、しっかりと俺の速さに付いて来ている。魔力察知で俺の魔力の残滓を追っているのか。なるほど、中身とは裏腹に場数を踏んでいるようだ。


「ちょっと~、何その顔? 気でも狂った?」

「ん? いや何、久しぶりに血が滾るって言うかさ。楽しくなってきた」


 思わず頬が緩んでしまう。


「気持ち悪いな~。早く死んでよ」


 広範囲から危険察知を感じ取る。瞬時にその全てを把握し、本来は無差別攻撃である烈風刃ショットウィンドを並列思考による個別操作で正確に迎撃する。


「やっる~。でもさ、そうこうしている内に、僕の子猫ちゃん達も戻ってきたみたいだよ」


 クライヴの背後には4人の女騎士。どうやら復帰したようだ。


「この子達は僕のお気に入りでね。結構強いよ?」

「はん、仲間全員に魅了をかけるとは、とんだ主人公様だな」


 この女達も隠蔽でステータスを隠しているが、俺の目には通用しない。状態異常として『魅了状態』と全員に記されていた。


「今時の主人公のあり方は色々なの。それにこの子達もきっと喜んでいるさ。僕のような超絶美形の主人に仕えることをね」

「身勝手な妄想だ」

「そんなことはないよ。きっと、エフィルちゃんも僕の良さを分かってくれると思うよ? 主に、ベッドの上でね」

「そうか。なら、しっかり殺さないとな」

「不気味な笑みを浮かべながらそんなこと言わないでよ。マジで気持ち悪いな~…… でも、いいの? 今の状況、5対1だよ? 多勢に無勢だよ?」

「気にするなよ。案外そうでもないから」


 彼方から爆音が轟く。紅き煌きは闇夜を切り裂きながらクライヴに向かっていく。


「なっ!」


 不意のことに若干の動揺はするが、魔力察知が働いたのだろう。紙一重でクライヴは回避行動をとった。だが、バリアにそれは接触した。


 攻撃の正体はエフィルの極炎の矢ブレイズアロー。貫通力に特化したそれは、クライブのバリアを打ち破ることに成功する。


「くそっ、螺旋護風壁ヒーリックスバリアが……」

「おいおい、余所見するなよ」

「―――!?」


 俺の周囲にいたものは4体のゴーレム。里の守護として森に配置していたものだ。俺とセラ共同開発の最新作である。外見はジェラールの鎧を参考に仕立て上げ、意匠にも拘った。見た目は完全に騎士だ。まあ、そんな騎士がホバリングしているのは異常な光景だが。その4体のゴーレムは剛黒の黒剣オブシダンエッジをそれぞれ持っていた。


「多勢に無勢が、何だって?」

日間ランキング2位に入りました。


これに慢心せず、これからも頑張りたいと思いますので、よろしくお願い致します!

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