第327話 縁の下の竜王
朝の目覚めは不思議と良いものだった。睡眠時間的には壊滅的な筈だったんだが、体と心がこれ以上ないくらいに漲っていて、起床後の眠気も殆ど――― いや、ごめん、これは流石に嘘だ。正直、疲れは完全に抜け切っていない状態である。スケジュールが押していて、朝早くに起きなければならなかったのも、もちろん理由の一つなんだが、それよりもシュトラが予定時間を超過してもやんややんや――― 要するに、あまり眠らせてくれなかったんだ。
「ケ、ケルにい、大丈夫? 何と言うか、昨日のコレットみたいな状態になってるけど……」
「だ、大丈夫だ…… 式はもちろん、“ちょっと待った”にも参加できるぞ……」
「いや、声色の時点で元気ないでしょ。で、そんなケルヴィンとは相反して、何でシュトラはすっごく元気そうなの? こう、肌ツヤがやたらに良いと言うか…… 何かあった?」
「え、ええと、その、幸せの恩恵、と言いますか……」
「幸せの恩恵? ああ、なるほどね! それだけ昨日の結婚式がシュトラに良い影響を与えてくれたと、そういう訳なのね! うーん、今から自分の式が楽しみだわ!」
「「ははは……」」
「ご主人様、後でこっそり精がつく料理を差し入れしておきますね」
「す、すまん、エフィル……」
流石と言うべきか、エフィルは今俺が求めているものを正確に察してくれていた。こんな状態でもエフィルの料理を食べれば回復するんだから、まったく、極めた料理とは凄いものである。ホント、今の俺にはなくてはならないものです。
ちなみに、トライセン・パーズ間の移動は転移門で済ませており、現在は屋敷で式予定の最終確認中。移動時間がなくなった事で、大分時間にも余裕が! ……なんて事はなく、それでも時間はカツカツだ。トライセンでのシュトラとの式同様、本日行われるリオンとの結婚式も、パーズ全体を巻き込んでの大規模なものになる予定なのだ。それこそ、街の混雑具合は俺の昇格式の時といい勝負になるかもしれない。冒険者ギルドや街の人々も全面的に協力してくれてはいるが、やはり主役はやる事が多くて忙しくなる訳で、それで時間もカツカツな訳でフフフ―――
「ケルにい、本当に大丈夫?」
「あ、ああ、大丈夫大丈夫。それよりもリオン、今日の予定をもう一度確認しても良いかな?」
「うん、もちろん! えっとね、まず基本的なおさらいなんだけど、僕達の結婚式の進行状況とは別に、パーズの街は朝からお祭りが始まっている状態なんだ。屋台とかステージとかお祭り用の演出魔法とか、見ての通り、もう街中が大盛り上がりしているところ」
「まあ、さっきからドンパチ花火っぽい音やら、酔っ払い達の笑い声やらが鳴り止まないからな」
窓に目をやり、朝とは思えないほどに賑やかな外の様子を確認する。うん、これは昇格式の時以上かもしれない。今日のパーズだけじゃなく、式の関係上、他の四大国でも連日になってお祭り騒ぎが展開される為、それ目当てで東大陸に来ている観光客も多いんだろうな。
そういや、半日ほどで国家間の移動が可能な観光用竜車なんてものを、この時の為に四大国が協力して発明したとか、そんな馬鹿みたいな噂も耳にした事がある。と言うか、実際に配備されていたのを目にした。なんでもトライセンの竜騎兵団が全面的に協力しているとか、観光客が乗る竜車部分にはトラージの技術が惜しみなく発揮されているとか、その材料となる木材にはガウンの最高級品が使われているとか、安全防止用の結界にはデラミス秘伝の魔法が施されているとか――― 大国の皆さん、本気出し過ぎじゃないですかね? 東大陸の大国全部が協力すれば、そりゃあ観光客の移動も容易になるだろうよ。お金も国に落ちるってもんだろうよ。まあ、仲が良いなら別に構わないんだけどなッ!
「で、そんな中で行われる僕達の結婚式なんだけど、挙式は屋敷の教会でやるよ! 直ぐそこの!」
満点の笑顔でそう言い切るリオン。普通であれば、なぜに屋敷? などと聞き返してしまいそうであるが、これには理由がある。前述の通り、パーズの街中はどこもかしこも人、人、人、エルフ、時々悪魔に天使で溢れ返っている状態であり、大勢の関係者で移動するのには適していない。なので、どうせなら屋敷の敷地内で式が完結できるよう、もうここに教会を建てて、直接やってしまえば良いのでは? という逆転の発想(?)を、大真面目に実行させてもらったのだ。
いやほら、これは本当に大真面目に考えた結果なんだよ。ダハクが一日もあれば立派なものを建造できるって言っていたし、実際立派な教会ができたし、これからコレットも泊まりに来るようになるんだから、祈りを捧げる相応の場所が屋敷にも必要になるしで、ほら、これしかないって感じだろ? まあ正直、想像以上に立派な教会がダハク農園の隣にできて、初見時は本気でビビッちゃったけど、まあ最終的には俺とリオンも納得の出来だったって事で、ここはひとつ。
「一応、式に招待されてはいないけど見たい人達用に、外のステージでもその時間は挙式の映像を流す手筈になっているんだって。いやー、ガウンから借りた映像機器って、相変わらず凄いね」
と、そんな補足をしてくれるアンジェ。我が盟友キルトが開発したマジックアイテムだから、まあ当然かな? フフン。リオンがお願いしに行ったら、快く貸してくれたそうだぞ、フフン。
「挙式が終わったら、今度は屋敷の庭で披露宴! ガーデンウエディングって言うんだっけ? 挙式は室内だったから、セミガーデン? うん、兎に角ガーデン!」
「ハハッ、なるほどな。道理でダハクが庭木やらの剪定を頑張っていた訳だ。 ……ん、またダハク?」
今更だけどダハク、滅茶苦茶頑張ってないか? 気合いを入れた教会の建造もそうだし、披露宴をやるだけの広さの庭の整備まで担っていたとなると、仕事量がとんでもない事になっているぞ? これが新時代の土竜王の本気、とでも言うのだろうか。マジですげぇよ、土竜王……!
「今日は天気も良いですし、開放的な雰囲気で臨めそうですね。ところで披露宴のお料理は、一体どのような形で?」
「本日のコース料理は私とクレアさんが担当致します」
「おお、精霊歌亭の出張版といったところですか! それは楽しみですね、ええ、とても楽しみです!」
欲望駄々洩れのメルの反応は予想通りとして、確かにエフィルとクレアさんという、この素晴らしき師弟の料理は楽しみだ。俺達にとってのパーズの料理と言えば、間違いなくこれなのである。
「ちなみに、野菜・果物・穀物類の食材は全てダハク農園から賄う予定です。今日の為にハクちゃん達が頑張ってくれました」
「そこも頑張ってくれたの!?」
あかん、竜王の皆さん、特にダハクにはもう足を向けて寝られない。このお礼はいつか必ず返さなければ……!




