第310話 挙式順を決める邪悪なる儀式
俺はコレットを救出した。二人の足元から回収するだけの事だったから、それ自体は特段難しい事ではない。が、その瞬間に幸せの許容量を限界突破してしまったらしいコレットは、口やら鼻やら目やら、兎に角色々なところから信仰心を吐き出してしまった。ああ、これは不味い、すんごく不味いと、柄にもなく恐怖を覚えてしまう俺。しかし、だからと言って体を硬直させている場合ではない。こんな惨状を一秒でも放置してしまえば、折角のお祝いの場が信仰心で塗れてしまう。そんな訳で瞬時に思考を切り替え、飛び散った諸々が拡散する前に緑魔法を発動。風を操り悲惨な飛散物の諸々を一ヵ所に搔き集め、抱えたコレットと共に手洗い場へと直行するのであった。
「おえぇぇぇ……」
「よし、吐けるだけ吐いてしまえ。今エフィルが酔いに効く特性味噌汁を作ってくれているから、それまでの辛抱だ」
コレットの背中をさすりながら、酔いの気持ち悪さを軽減させる魔法を使う。
「あ、ありがとうございます、ケルヴィン様…… しかし、ここで私の信仰心を全て吐き出す訳には……」
「俺が言うのも何だけど、それに信仰心と名付けるのは止めようか? 俺も以後気を付けるからさ」
「ご主人様、味噌汁が出来上がりました。適度な温度に調整済みですので、そのままぐっといってください」
「ありがとう、エフィル。コレット、頑張って飲めそうか?」
「うう、まだちょっと……」
「ちなみにその味噌汁、作るのにリオン様にも手伝って頂きました」
「いけます」
俺とエフィルの献身的なサポートが功を成したのか、味噌汁を一息で飲んだコレットは、その後大変に晴れやかな表情を浮かべていた。色々とスッキリしていらっしゃる。
「コレット、悪かったな。無理にメルに付き合わせてしまって」
「いえ、私が望み、自ら進んで参加したのです。メル様は何も悪くありません。むしろ、あのような場に私如きを置いてくださった事を、心から感謝しているくらいです」
「そ、そうか……」
その表情が晴れやか過ぎて、逆に心配になってしまう俺。つうか、この調子だと同じ場面に遭遇した時、コレットはまた同じ失敗を繰り返してしまいそうだ。うん、この分だと喜んで失敗しに行くわ。
「……であれば、今度からは飲む酒の量には気を付けてくれ。式の前にコレットに何かあったら、俺はもちろん、メルやリオンも悲しむからな?」
「か、悲しむ!? たたた、確かに、それはあってはならぬ事、です…… ううっ、何と私は愚かで視野が狭かったのでしょうか…… 申し訳ありませんでした、ケルヴィン様。このコレット、今後は自らも大切すると、ここに誓います! 絶対に! ケルヴィン様の名に誓って! 命を賭して!」
「わ、分かってくれたようで嬉しいよ。けど、命は賭すなって」
ぐいぐいと顔を寄せながらではあるが、どうやら反省してくれた様子だ。うん、分かったからそろそろ離れよう? 頬の摩擦がそろそろ凄い事になってるよ? ほら、煙が出てるって。
―――とまあ、摩擦で頬が若干焦げてしまったが、コレットは無事に復活した。身を挺した信仰活動(?)も、今度は控えてくれる事だろう。めでたしめでたし、である。さて、お祝いの会場に戻りますかね。
「三人とも、戻って来たわね! さあ、挙式順を決める邪悪なる儀式を始めるわよ!」
「……何て?」
戻った途端、セラからそんな意味不明な事を言われてしまう。おい、まさか酒を飲んだのか――― いや、それはないか。仮に飲んだとしたら、あんなに呂律は回っていない筈だ。意味不明ではあるけど、理性的に喋ってもいる。
「セラねえ、そんな事を突然言っても、ケルにいが混乱するだけよ……」
「え、そう? 流れで理解できるもんじゃないの?」
「うーん、流石に今のは無理があるんじゃないかなぁ? えっと、アンジェお姉さんが代わりに説明するね? リオンちゃんがルミエストを卒業して、各々の式の準備も順調に進んでいる昨今な訳ですが、実は未だに決まっていない、それはそれは重要な事柄が残っておりまして~」
「なるほど、それが式を挙げる順番か。了解、納得した」
「ああっ、まだ説明の途中だったのに……」
いや、そこまで聞けば、意味不明だったセラの台詞とも、ある程度繋がる訳で。セラが邪悪と言ったのは、神聖なる儀式を悪魔風に言い換えただけで、特に深い意味もないんだろう。全く、紛らわしい言い回しをしたものだよ。
しかし、式の順番決めか。これついては俺からの口出しは厳禁、エフィルら花嫁側が相談の上で決める、なんて話になっていた筈だ。まだ順番の連絡を受けていなかったから、そろそろ頃合いだとは思っていたが…… 一体どうやって決めるつもりだろうか?
「はい、あなた様の疑問は尤もだと思います。そこで私が提案するのはこちら、デデン♪」
リズミカルな音頭と共に、メルが何やらカラフルな箱を取り出した。箱の上部には丸い穴が開いており、そこに白い棒が七本、恐らくは式の数と同数のものが入れられている。ちなみに、俺の心を読まれる事に関するツッコミは、最早入れる暇も与えてくれないらしい。
「もうお察しでしょうが、ここは順当にくじ引きで決める事になりました。この箱に入れられた棒の先には、1から7の数字が記されています。つまり、その引いた数字がそのまま式を挙げる順番となる訳です」
「……バトルで決めるんじゃないの?」
「じゃないです。仮にそうだったとしても、あなた様は口出し無用の立場ですからね? 参加なんてできませんからね?」
「あ、はい……」
「ケルヴィンさんにはまだ報告していませんでしたが、どのようにして決めるかは、随分と前にグループ念話で話し合っていたんです。色々と案を出し合い検討した結果、これが一番公平な決め方だと、そう結論付けられまして。必要ないとは思いますが、念の為に不正対策も講じています」
「け、結構本格的にやってんのな…… けどさ、くじ引きだと豪運のセラが有利にならないか?」
まあ、順番決めに有利不利もない訳だけど。その順番が“ちょっと待った”に影響する事はあるだろうが。
「もち、それも考慮しているわ。具体的にはこのくじ引きをする瞬間だけ、ステータスの幸運が同じ値になるように、コレットが仕掛けを施してくれたの。ほら、コレットの父親とそのお仲間、そういう変わった技を持っていたでしょ? 『運命破棄』だっけ? それの応用よ」
「運命……? そんな技、あったか?」
「使徒時代のセルジュ様と刃を交えた際、お父様と古の勇者の皆様が使用した特殊結界が、その『運命破棄』です」
「あー、あの時はケルにいは居なかったもんね。この結界のお陰でフーちゃんの主人公補正がなくなって、僕達は対等に戦えるようになったんだ」
「ほほう?」
「ケルヴィン君、今興味を持つべきはそっちじゃないしょ? 兎に角、これで公平に引けるようになった訳。さっ、誰から引く? それとも、皆で一斉に?」
「「「「「「「……せいッ!」」」」」」」
一斉にくじを引いた結果は以下の通り。1→シュトラ(軍国トライセン)、2→リオン(静謐街パーズ)、3→コレット(神皇国デラミス)、4→セラ(グレルバレルカ帝国)、5→メル(白翼の地跡地)、6→アンジェ(水国トラージ)、7→エフィル(エルフの里)。
うーむ、マリアとアダムスが相手となる結婚式が終盤に固まっている辺り、作為的な何かを感じてしまうが…… まあ、楽しければ何でも良いか! 最後までバトルがたっぷりだもんな!




