第89話 森の狩人達
タイトルを試験的に変更致しました。
『古今東西召喚士』⇒『黒の召喚士 ~戦闘狂の成り上がり~』となります。
―――紋章の森
リオンは木々を器用に走り渡り、曲芸師さながらの軽業で目的地へと向かっていた。
(えーと、マップによるとこの先に敵がいるみたいだね)
エフィルねえの千里眼により、先ほど確認された敵の位置は、既に配下ネットワークのマップ上に記されている。僕は一直線にその場所を目指していた。
『僕の方はそろそろ着きそうだよ。セラねえとメルねえは?』
『私もそろそろ到着――― ってメルフィーナ、貴方もう戦闘中!?』
セラねえの言葉を聞いて、急いでマップを確認する。確かに、メルねえのマーカーは敵陣地のど真ん中にあった。
『ええ、絶賛交戦中です。一番乗りは頂きました』
『ああ、もう! 私の分も残しておきなさいよ!』
『保障はできませんね』
セラねえは相当悔しがっているようだ。最近、なぜかメルねえをライバル視しているような節があるんだけど、何かあったのかな?
『アレックス、ここでまた活躍できれば、ケルにいも僕たちの力を認めてくれるはずだよ。頑張ろうね!』
『ウォン!』
僕の影に潜んでいるアレックスが元気に声を返してくれた。
アレックスの固有スキル『影移動』は影から影へと移動、滞在することができる。影の向こう側がどうなっているかは分からないけど、ずっと僕の影の中にいるところを見ると、案外居心地が良いのかな?
アレックスと僕とでは、僕の方が敏捷が高い。今回は敵陣地に到着するまで僕の影に潜んでもらって、全速力で向かってる訳だ。
……メルねえには負けちゃったけど。
『リオン、ケルヴィンの情報じゃモンスターはB級レベルらしいわ。今の実力なら問題ないと思うけど、絶対無理しちゃ駄目よ!』
『そうです。自称中級者が一番危ないんですから』
『もう、二人とも心配し過ぎだよー』
心配してくれるのはとっても嬉しいけど、子供扱いは止めてほしいな。エフィルねえとだって、2つしか歳は違わないんだし。
……胸は完敗だけど。
いけない。変な方向にネガティブになってしまっている。
そうだ、世の中女性の価値は胸の大きさだけじゃないんだ。ケルにいだって、きっとそう考えてる! それに僕もまだまだ成長期、毎日ミルクも飲んでるし、前世と比べて健康的な生活を送っている。うん、まだチャンスはある!
よし、何とか気持ちを立て直した。
『ウウウ……!』
『ん、そうだね。そろそろ見えてくる』
アレックスが警戒態勢になったようだ。僕も目の前に集中しよう。
耳を澄ますと、静寂を保っていた森の奥から音が聞こえてきた。僕は更にスピードを上げ、一気に木々を駆け抜けた。
見えてきたのはモンスターの群れ。長老さんの話じゃ巨人ばっかりって聞いてたけど、大きなトカゲや、木に擬態した変てこなモンスターなど、多様な種類がいる。もっと奥からは人間らしき声も聞こえるけど、ここからじゃ見えないな。
所々に巨大な鳥や蝙蝠が地面に横たわっているのは、エフィルねえに撃ち落されたからかな。もう空には何かが飛んでいるような姿は見受けられない。
それに、互いに仲間であるはずのモンスター同士が戦っているところもある。仲間割れ?
「主である調教師が倒されたことによって、その配下モンスターのコントロールが効かなくなっているんです」
「あ、メルねえ」
荘厳な槍を片手に蒼く綺麗な鎧を着込んだメルねえが乱闘中のモンスターの群れの中から歩いて来た。戦っていたというのに、メルねえの装備には返り血や埃のひとつも付いていない。
ただ、槍の先っぽには誰かが宙ぶらりんの状態でぶら下がってるけど……
「それ、何? 拾ったの?」
「これですか?」
メルねえが槍を高く上げて見せてくれた。あ、謎の人の首が絞まってる。
「この部隊の司令官、大隊長の方です。一足先に捕らえてきました」
「ええっ! もうっ!?」
よくよく見ると男は質の良い服装をしている。かなりぐてっとした感じだけど、大丈夫かな?
『先を越されたー!』
大音量で前方の戦場から念話が届く。どうやらセラねえも僕より先に到着していたようだ。
「セ、セラねえ……」
「フフ、今回は私の勝ちですね」
ドヤッと嬉しそうな顔をするメルねえ。こんな顔、エフィルねえの料理を食べているところでしか見たことがない。案外、メルねえもセラねえをライバルとして意識しているのかも。
「そっかぁ、出遅れたかー……」
かなり急いで来たんだけどなー。
「セラは残党狩りに向かいましたが、リオンはこれからどうしますか?」
「まだ全然何もしてないし…… 僕もセラねえを追おうかな」
「なら一緒に行きましょうか。やはり心配ですし……」
「もう、だから子供扱いしないでよー。でもメルねえ、その人はどうするの?」
槍にぶら下げたままだと戦闘に邪魔じゃないかな。
「少々お待ちを」
『あなた様、対象を捕らえました。クロトの召喚をお願いします』
『了解。今送る』
すると、僕たちの直ぐ目の前に小さな魔法陣が現れ、ポンッと小型サイズのクロトを召喚した。
「あっ、クロトだ」
『そのクロトが俺のところまでそいつを運んでくれる。俺の配下であるメルフィーナやセラ、同じパーティであるリオンの近くなら遠距離の召喚も可能だから、上手く使ってやってくれ』
『ありがとうございます』
メルねえはクロトに男を引き渡す。クロトは自分の体で男をグルグル巻きにしていき、そのまま里の方向へと走っていった。
「とまあ、こんな具合です。それでは行きましょうか。まだまだ奥に別働隊がいるようですしね」
「メルねえ、僕の見せ場も残してくれると嬉しいんだけど」
まだまだ実力差は埋まりそうにないなー。
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―――紋章の森・東端
「……定時連絡がない。何かあったか?」
混成魔獣団の副官、ウルフレッドは本陣に主力部隊を置き、モンスターを偵察に出していた。戦場の動きを逐一確認する為だったのだが、先ほどから一匹もモンスターが帰ってこない。
それだけではない。大隊長2人が率いた2部隊からも何の報告もないのだ。普通であれば、足の速いモンスターを連絡役として飛ばしてくるのだが。
「報告、報告ー!」
「やっと来たか」
森の闇から先行していた部隊の兵が現れる。余程急いで来たのか、騎乗していたモンスターは乗り潰してしまったようだ。それを見て、ウルフレッドはやれやれと首を振った。
「副官殿、い、一大事でございます!」
「落ち着け、獣王でも出てきたってか?」
「ガウンではありません! エルフの集落目前で敵が出現! 先行した第4部隊は壊滅し、カゼナ大隊長は敵に捕らわれました!」
「何っ!? ガウンでないっつうと、どこの軍だ? トラージか!? デラミスか!?」
「軍ではなく、冒険者らしきパーティであります! 正体は不明ですが、現在確認できているのは女が3人に、影の狼が1体! 全員怖ろしく強く、B級モンスターでは歯が立ちませぬ! 更に、頭上より知覚できない矢のような攻撃が雨のように降り注ぎ、進軍できない状態です!」
「何、だと……!? たった数人で、か!?」
獣王を想定して編成した部隊が、ものの数分で壊滅。見通しが甘かったのか、それとも想定を越える化物が現れたのか。ウルフレッドには判断がつかない。
「ディル大隊長率いる第5部隊がただ今交戦中ですが、陣が崩壊するのも時間の問題です! 副官殿、どうかご指示を!」
「……くそっ! おい巨人の王、起きやがれ!」
ウルフレッドの背後に跪いていた巨人が起き上がる。立ち上がった巨人の背丈は森の木々の高さをゆうに越していた。
「おお、これが噂の……!」
「どんな奴だろうが、S級モンスターには勝てん! 巨人の王を主体として敵を殲滅する、他のモンスターは補助に回れ! ……おい、聞いているのか!?」
明後日の方向を向く兵に、ウルフレッドは叱咤を飛ばす。
「ふ、副官殿……」
だが、その兵は震えていた。その方向を指差し、ガタガタと震えている。
ウルフレッドは嫌な予感がした。いや、そんなはずはない。いくらなんでも早過ぎる。それに、そこにはウルフレッドが率いていた主力の第2部隊もいたのだ。頭で否定しながら、その方向に目をやる。
「あら、もう敵部隊を抜けてしまいましたね。まあ、残りはセラに任せれば大丈夫でしょう」
「見て見て、あの巨人すっごく大きいよ、メルねえ! 漫画みたい!」
そこには、まるで街に遊びに来たかのような、そんな調子の美しい少女達がいた。
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タイトルを変更しましたが、これからもよろしくお願い致します!




