第293話 確定
「―――てな事があってさ、もう俺の情緒が凄い事になっちゃったよ。いやー、将来が楽しみとは正にこの事だな!」
謝罪&弁償を終えた俺はララノアとリュカを連れて、長老宅へと帰還。そして、つい先ほど起こった出来事をエフィル達にも共有するのであった。
「ララノアがそのような事を!? だ、誰か怪我をされたりは……?」
「誰も危ない目には遭っていないよ。仮に暴発でも起こそうものなら、事前に察知して俺が止めていたしな。ララノアの魔法は凄くてさ、ものの見事に的へ一直線に飛んで行って、ズバン! だったよ。なあ?」
「うー……」
ララノアに話を振ってみるも、初めての魔法使って疲れてしまったのか、今は絶賛お眠中だ。さっきまであんなにテンション高めだったのに、赤ん坊とは感情の落差が大きいものである。
「そ、そうですか、良かったです…… ですが、勝手にそのような事をしたのであれば、後でキッチリ叱っておく必要がありますね」
「えっ、叱る、のか……? い、いや、確かに急に魔法を使った事には驚かされたけど、さっきも話した通り怪我人も居なかったし、ララノアはまだ赤ん坊なんだし、それよりもその使い方を褒めるべきで―――」
「―――ご主人様、親と言うものは子供が火遊びをしていたら、その経緯にかかわらず、まずは叱るものですよ? 褒めるべきところで褒め、叱るべきところではしっかりと叱る。そのどちらが欠けても良い教育はできないと、私はそう考えているのです。確かにララノアはまだ一歳にも満たっていませんが、こちらの言う事は朧気に理解している様子があります。めっ! 程度に軽く叱る様子を見せれば、ニュアンスで受け取ってくれるでしょう。ご主人様のララノアを愛する心が途轍もない事は、大変に素晴らしい事だと思います。ですが、愛するからこその厳しさも適度に覚えて頂ければなと、私はそう思いもするのです」
「は、はい、確かにその通りだと思います……」
エフィルの真っ当な教育論を受けて、俺は反省するばかりであった。確かにこのままでは、俺は我が子を褒めるばかりの駄目親父になってしまう。それは言うなれば、義父さんルートに突き進んでしまう事を意味している。となれば、過剰な愛が原因となって娘に嫌がれる事も――― 駄目だ、それはいかん! エフィルの言う通り、親父として厳格なところも多少なりは持ち合わせなければ! でないと、何だか凄く将来が不安だぞ!?
「ご主人様、すっごく反省してるみたいだけど、さっきメイド長が言ったみたいな感じに、本当にできるのかなぁ? 今までの様子からだと、正直想像できないって言うか……」
「リュカ、できるできないの問題ではないのです。大小問わず、そういった意識が心に芽生えているか否かの問題なんですよ。ご主人様が将来に危機感――― コホン。いえ、ララノアの将来を想うほどに、この事を意識してくださるでしょう」
「そ、そうなんだ……」
リュカは今、こう思ったのだろう。メイド長はやっぱりしっかりしているなぁ、と。色々な意味合いを含めて、そう強く思ったのだろう。だって、俺もそう思っているもの。
「ハッハッハ、どうやらケルヴィン殿も尻に敷かれるタイプのようですな」
「も? お父さん、もって言った?」
「ウィ、ウィアルもお父さん虐めはほどほどにしてくれ……」
ガックリと項垂れるネルラス長老の姿に、俺達は笑いをこぼす。何とも穏やかな光景だ。
……しかし、そんな最中に急な出来事が起こった。
「ふむ、どうやらエルフの長老はご息女に頭が上がらない様子。実に微笑ましい平和な光景だな」
「……おい、何でお前がここに居るんだ?」
唐突に誰かの感心するような声がしたかと思えば、俺達と同じように客間に座っている軍服にベレー帽スタイルの女を発見。俺の見間違いでなければ、こいつは十権能の一人、『間隙』のグロリアだ。いや、マジで何でここに居るんだよ?
「な、何者だ!?」
「グロリア・ローゼスだ」
「普通に名乗った!?」
ネルラス長老とウィアルさん視点では、見知らぬ者が突然現れた事になる。当然そうなれば、酷く驚く事に繋がる訳で。
「ネルラス長老、落ち着いてください。一応、彼女は俺の知り合いですから」
「そ、そうなのですか?」
「ああ、一応そのような関係だ。訪問時の挨拶もなしですまなかった。ここに謝罪する。規律的にも正面から来るのが筋だったのだが、森の周囲に展開している結界の様子から察するに、それだと騒ぎになりそうだったのでな。アダムスからの許可を貰い、私の権能で文字通り最短距離を移動してきたのだ。ここへはそこの開けっ放しの窓から入らせてもらった」
「あー、確かに開いているな、窓……」
なるほど、要は隠密行動で面倒事を避けて来たって事か。森の真上を『間隙』で駆け抜けて、最終的に窓を通してここへ降り立ったって感じだろうか。そういや俺とエフィルが初めて里を訪れた時も、結構な警戒態勢での歓迎を受けたんだっけ。まあ無茶な行動ではあるけど、効率を重視するのであれば、『間隙』で距離を無にして来たのも納得ではあるかな。
「わあ、よく見たらビシッとしていて綺麗なお姉さんだ! お父さん、ひょっとしてアレが噂に聞く、都で流行りの格好なの!?」
「え、いやあ、流行りと言われても、私には何とも……」
「フッ、流行りなどといったものは知らないが、これは古くからの私のスタイルだ。これを身につける事で、私は常に気を引き締めているのだよ」
「流行りに流されず、自分の流儀を貫いてる……! ストイックで格好良い……!」
ウィ、ウィアルさん? 何だか目が煌めいていませんか? いや、今はそれよりも。
「アダムスから権能使用の許可を貰ってまで、急ぎでここまで来たって事は…… 何かあったのか?」
「まあ、そんなところだ。アダムス、そしてマリアからの言伝を預かってきた」
「言伝?」
「ああ。つい先ほど、“ちょっと待った”に参加するメンバーの七人が確定したのだ」
「ッ! つ、遂に決まったのか!」
式に行う例の余興、“ちょっと待った”には結構な数の希望者が殺到したと聞いている。それこそ、参加する為の予選を行う必要があるほどだったとか。お前ら、そんなに俺達の結婚式を止めたいのかと、戦闘狂として、そして式の当事者として、嬉しいような悲しいような、そんな気持ちになっていたものだ。その詳細については楽しみは後に取っておくの精神で、誰々が参加しているかなど、敢えて情報を伏せてもらうようお願いしていたんだが、さて―――
「その確定した面子、どの式に“ちょっと待った”するのかも決まったのか?」
「ああ、色々と揉めはしたがな。どうする、その詳細についても話そうか?」
「あー、そうだなぁ……」
俺としては当日まで楽しみは取っておきたいけど。と、エフィルに向けてそんな視線を、敢えて送ってみる。
「私見ではありますが、ここからの不安要素は可能な限り排除するべきかと。学園都市で行われた対抗戦、そして先の十権能との戦いよりも、式の相手は手強いものになると思われます。わざわざハンデを背負う必要はありません。何よりも、私達は負けられませんから」
「……だよな」
エフィルの言う通り、アダムスやマリアクラスの敵が相手となる“ちょっと待った”で、これ以上の情報を遮断するのは無理がある。余裕も油断も不要だと、エフィルはキッパリと言い切ってくれた。ああ、今回に限っては俺も同意見だよ。対策込みで、全力でやらせてもらおう。
「……よし、決めた。グロリア、確定した面子と、それぞれがどの式で“ちょっと待った”をするのか、内訳を教えてくれ」




