第291話 暫くして
結婚式にて“ちょっと待った”を執り行う事が決まり、どれほどの時が経っただろうか。あれから俺は嫁さん達と世界各地を回り、式を挙げる為の諸々の準備を進めている。
各式の開催地も無事に決まり、エフィルがエルフの里、セラがグレルバレルカ帝国、リオンがパーズ、メルが白翼の地諸島、コレットがデラミス、シュトラがトライセン、そしてアンジェとの式がトラージで挙げる事となった。 ……うん、最後の場所以外は納得の決定なんだけど、なぜアンジェとの式がトラージで? なんて疑問が、当然浮かぶ事だろう。これには海よりも深い事情が――― なんてものは特になく、結構浅い理由で決まっていたりする。
『ケルヴィンよ! なぜにパーズ、ガウン、トライセンにデラミスと、東大陸の各所で式を挙げると言うのに、妾のトラージだけは無視するのじゃ!? 焦らしか? 噂に聞く焦らしプレイと言うものか!? さては妾に婿入りする決意を遂にして、ギリギリまで告白しないつもりか!? どうなのじゃ、ケルヴィンよ!?』
『ええー……』
……とまあ、どこから式の情報を手に入れたのかは分からないんだが、トラージの姫王ことツバキ様より、そんな強烈なお言葉を頂いてしまったのだ。確かに、言われてみれば東大陸の各所で式を挙げる予定であったが、トラージだけは抜けてしまっていた。別にそんな事を狙っていた訳ではないんだが、ツバキ様的にこれは面白くない事だったんだろう。またあわよくばと、俺の婿入りも冗談半分で考えていたりするんだろう。これでも結構長い付き合いである。それくらいの事は瞬時に理解できた。だからこそと言うべきか、式の場所に迷っていたアンジェが手を挙げたんだ。
『それなら私の式、トラージで挙げても良いですか?』
『な、何と! 良いのか!? い、いや、別に無理はせんでも良いのじゃぞ? 妾としても、相当に無茶な文句を言っている事は理解しておるのだ。と言うか、これを口実に遊びに来ただけだったり……』
『いえいえ、無理なんてそんな。実は最近まで迷宮国パブも候補にしていたんですけど、それだと東大陸から遠くなっちゃって、仲が良かったギルドの元同僚を呼び辛いんですよね。かと言って、パーズもリオンちゃんと場所が被っちゃうから、正直どうかな~と思っていたりで。その点、トラージはパーズのお隣さんですし、立地的な問題が殆どないんですよ。観光に力を入れているだけあって、食事も海も温泉も何でもアリな欲張りセット! 逆に今まで誰も手を挙げなかったのが不思議なくらい! ね、ケルヴィン君もそう思うよね?』
『え? あ、うん、じ、実は俺もそう思っていたんだ! ツバキ様、そんな訳なんですけど、おすすめの式場とかあったりしますかね?』
『ッ……! フッ、そこまで頼られてしまっては仕方ないのう! どれ、妾が一肌脱いでやろう!』
……とまあ、そんなアンジェの機転により、トラージでも式を挙げる事になったんだ。念の為に、この後に本当に良かったのかとアンジェに確認もしたんだが、挙げる場所については他の皆ほど拘りがないから大丈夫、という事だった。トラージには和装という独自のウエディングドレスがあるから、オリジナリティが出せてむしろアリでしょ! お世辞抜きに食事も環境も世界屈指だし! と、逆に力説されてしまうくらいである。アンジェ、君はどこまで良い嫁さんなんだ。
で、そんな感じでアンジェを惚れ直した後、前述の通り式への本格的な準備が始まった訳だ。基本的には嫁さん達主導で行う事にはなっているが、だからと言って俺も何もしない訳にはいかない。可能な限り嫁さんに同行・相談相手となり、式に協力してもらう方々とも交流を深めたりと、自分なりにできる事に尽力している最中だ。
そして今日もそれは変わりなく、エフィルが式を挙げようとしているエルフの里を訪ねているところである。最近になって首が座ったララノアも一緒で、基本的には抱っこひもを使いながら、俺があやしているといった状態――― なのだが、どうにもララノアは人気者気質であるらしく。
「おおっ、ララノアちゃんが私の指を握りましたよ……!(小声)」
「そ、そうですね……」
「お父さん、ララノアちゃんのほっぺも凄いです……! この世のものとは思えないくらいの柔らかさです……!(小声)」
「何……!? そ、それは大変だ……! 一刻も早く、私も体験しないと……!(小声)」
「お、起こさないように気を付けてくださいねー……」
現在、すやすやと眠るララノアを抱っこしている俺は、エルフの里の長老宅に居る訳で。そしてそんな俺達の眼前には、この家の主であるネルラス長老と、その娘さんが居る訳で。お邪魔してから今に至るまで、二人は初対面となるララノアに夢中になっている訳で。小声で気を遣ってくれているのはありがたいが、テンションがぶち上がりなのは丸分かりな訳で。
いやはや、いくらララノアが超絶可愛いからと言って、長老も娘さんも夢中になり過ぎである。まあ? その気持ちは分からなくもないけど? ララノアは見ての通りのプリティーさですし? ほっぺの柔らかさも天下一ですし? フフン。
「お二人とも、そろそろララノアを解放してあげてください。眉が八の字になりかけていますので」
「っと、申し訳ない……! 彼女を見ていると、つい見惚れてしまって……!(小声)」
「わ、私も……! 里には赤ちゃんが滅多に生まれないので、つい……!(小声)」
未だに小声な二人である。いや、本当にありがたい心遣いなんだけどな。
しかし、ネルラス長老は兎も角として、その娘さん――― ええと、ウィアルさんと言ったかな。彼女と対面するのは、一応これが初めてになる。 ……なるのだが、昔、里を防衛していた時に獣王レオンハルトが化けていた姿が彼女のものだったから、何だか凄まじい違和感があるんだよなぁ。ないとは思うけど、今も獣王レオンハルトが彼女に化けているのでは? なんて、色々と勘ぐってしまう。
「それにしても、ケルヴィン殿とエフィルさんとの間に子ができ、更にはこれからご結婚される事となるとは…… フフッ、遂にこの時がきた、といったところですかな? いやはや、時の流れとは早いものです」
「あはは、ちょっと順番が違う感じになっちゃいましたけどね」
「いえいえ、そんな事は決してありませんよ? 我々エルフ族は寿命が長い故に、様々な場面で停滞を選択しがちな傾向にあります。ですから子ができたなどの何かしらの大きな出来事がないと、なかなか結婚には踏み込めず――― かくいう私なども、結婚をする前に娘ができたものでして」
「ネルラス長老も、ですか?」
「え、そうだったの、お父さん!? 私、初耳なんだけど!?」
「あっ、不味い……」
いや、娘さんも知らなかったのかい。
「ハ、ハハハ…… ええと、ああ、そうです。エフィルさん、もうお体の調子は良いのですか?」
「あからさまに話を逸らした!」
「ま、まあまあ」
何となくだけど、基本的に俺の周りに居る父親は娘に弱い気がする。無論、俺も含めて。
「フフッ。ええ、もうすっかり元気です。今までお休みを頂いた分、粉骨砕身の精神で働きますよ」
「わっ、エフィルさんは働き者なんですね!」
「んー、それはそれで考え物と言うか…… 俺としては、もう暫くは安静に過ごしてほしいんだよ。せめて粉骨砕身の精神を数ランク落として、徐々に働くようにするとかだな―――」
「―――ご主人様とララノアのお世話をする事が、何よりも私の栄養になりますので。言わばこれは、ご主人様にとってのバトルと同じようなものなのです」
「そ、そうか」
これ以上ないくらいの笑顔でそれを言われちゃうと、反論できないんだよなぁ。
「お父さん、今のって惚気ってやつ?」
「うーむ、二人目の子供ができるのも、時間の問題だろうか?」
こらそこ。
4月25日発売の19巻書影が公開されました。
活動報告からご確認ください。




