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黒の召喚士 ~戦闘狂の成り上がり~  作者: 迷井豆腐
アフターストーリー3 結婚編
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第289話 ちょっと待って

「えと、“ちょっと待って”、ですか? それって、あの“ちょっと待って”の事です?」

「うん、“ちょっと待って”じゃなくて“ちょっと待った”だけど、認識としては合ってるんじゃないかな? 当然、君のパパさんに関係しているアレの事さ」

「?」


 ニトの突然の質問を、クロメルはよく分かっていない様子だった。いや、もちろんその質問の意味合いは理解しているのだが、どうして自分にそれを? という、そもそもの理由が分からなかったのだ。また、同席しているカトリーナは全てがさっぱりであった。


「私、“ちょっと待った”には出ませんよ? 出るには力不足ですし、何よりも出る理由がないないさんです」

「そうなの? おじさんはてっきり、ルキル辺りと結託して参加するものだと思っていたよ」

「ルキルさんと? お話の流れがますます分からないさんです……」


 困ったクロメルが、文字通り困った表情を作る。


「私もよく分かりませんが、クロメルさんが困っている事だけは分かります! ギリ変質者でない貴方、クロメルさんを困らせないでくださいな!」

「いやあ、困るも何も、おじさんは彼女の真意を確かめに来た訳だしね。これくらいの質問は許してほしいな――― っと」


 次の瞬間、ニトはカトリーナに対し、彼女が認識できない速度での手刀を放った。首の後ろに精密な衝撃を与えられたカトリーナは、その場に座ったまま気絶してしまう。傍からすれば、突然彼女が眠ってしまったかのように見えただろう。


「ニ、ニトおじさん、何を!?」

「おじさん、スマートに話を終わらせたくてね。ああ、お友達は気絶させただけだから、その辺は安心して。それよりもさ、もう猫被る必要はなくなったよね? この辺りの人間も、彼女と同じように全員気絶させた訳だし、もうおじさん達を見ている奴は誰も居ないよ?」

「ね、猫被る……? 全員……?」


 困惑しながらも、クロメルは辺りを見回した。そして、気付く。いつの間にこのような状況になっていたのか、周囲には人の気配が一切なくなっていた。アイスを買いに行っていた友人達も、街を出歩いていた、或いは自分と同じくフードコートで談笑していた筈の人々も、等しく気絶させられていたのだ。


「どうやって、なんてつまらない質問はしないでくれよ? 元使徒として、まあこれくらいは能力に関係なく余裕なんだからさ。ちなみにこのお友達だけが無事だったのは、元気で正義感たっぷりな彼女が、良い目暗ましになると思ったから。お友達が起きている間、騒がしい彼女ばかりが目に入って、周りは気にならなかったでしょ? 何だかんだでおじさん、色々と考えているんだよー。見直してくれた?」

「あ、あう……」

「いや、そんな泣きそうな顔をされても困るんだよねぇ。猫被った上でそんな表情を作っているのなら、大した役者さんだけどさ」


 カチャリと、ニトが刀の柄に手をかける。


「この学園都市で対抗戦が行われた時、その裏では堕天使の一派が動いていた。彼らは君を勧誘、いや、誘拐かな? まあ、そんな悪事を企んでいたみたいなんだけど、なぜか上手くいかなかったみたいなんだよね。生徒を人質にまでしていたのに。おじさんの見立てじゃ、君はこの学園の生徒としては突出した力を持っているが、それでも他の実力者ほどじゃあない。人質を取った堕天使が相手じゃ、尚更に分が悪い。なのに、どうして君は無事だったのかな?」

「そ、それは、パウルさん達が助けに来てくれて……」

「ああ、ケルヴィン君が指導してるあの冒険者達? うーん、彼らは彼らでどうかなぁ? 正直なところ、君と実力は大差ない感じだと思うんだよねぇ。まあさ、おじさんが何を言いたいのかって言うと…… 君、昔の記憶を取り戻してないかな?」

「う、ううっ…… な、何を言っているのか、分かりませ―――」

「―――ごめん、もうおじさんの間合いだった」


 そう言葉を発するよりも速くに抜刀を済ませ、ニトは刀を振るっていた。狙う先はクロメルの細首、たとえ刀を鞘に納めた状態であっても、ニトはこれを斬り落とせる自信があった。瞬間的に殺意を爆発させ、本気で首を取りに行くつもり・・・で、凶刃を振るう。 ……が。


「ハァ…… 自らの身を武器として振るいますか。命は投げ捨てるものではないですよ?」

「いやいや、おじさんは斬り捨てるつもりだったんだけど?」


 神速に達した筈のニトの刀は、クロメルの首に触れる寸前のところで止められていた。突如として現れた不気味な触手が刀に巻き付き、その勢いを殺していたのだ。


「だったとしたら、とんだ大根役者さんでしたね。わざとらしい殺気の飛ばし方に、寸前で止める気が丸分かりの攻撃――― どれもとても酷いものです。わざわざ私が防御しなくても、最初から殺す気なんてないんですもの」

「おーおー、早速散々言ってくれるじゃないの。なら、おじさんの攻撃をガードする必要もなかったんじゃない?」

「これはガードしたのではありませんよ。ニト、貴方の命を握る為に、こうして絡ませているのです」

「ああ、なるほど~」


 ニトの固有スキル『帰死灰生きしかいせい』は不死と化す能力などではなく、刀自体が本体である彼が、人の形をした自身の分身を作り出す能力だ。分身はいくら殺されようとも復活するが、本体である刀はそうもいかない。破壊されればそれまで、なのだ。


「ええっと…… そんなに力強く握らないでくれない? 刀って意外と繊細なのよ? それはもう、おじさんの心のように繊細なのさ」

「ふふふ、力比べさんなのです♪」


 天使のような笑顔でそんな言葉を口にするクロメル。刀を捕縛する触手の力は底知れず、ニトの力では対抗する事ができそうにない。では斬ってやろうかとも思ったが、斬撃に耐性があるのか、触手には傷ひとつ付ける事ができなかった。これはこれで、おじさんにとってはショックである。


「でもまあ、君が相手なら仕方なしかなぁ…… で、これは初めましてが合ってるのかな? それとも、やっぱり猫被っていた感じで?」

「どちらも違いますよ。簡単に言ってしまえば、今の私は幼いクロメルが急成長した、そんな状態です。容姿は据え置きですが、肉体と精神、その両方が私という存在のピーク時に達しています。まあ、ひょっとしたら知識も豊富になっているのかもしれませんが」


 先ほどまでの笑顔が嘘であったかのように、今のクロメルの表情は冷酷なものへと変貌していた。声にも遊びの色は一切見られない。元使徒であるニトをもってしても、実力の底が全く知れない――― まるで最高位の神と対峙しているかのような、そんな圧迫感がこの場を支配していた。


「ああ、そうなんだ。それは笑えないな。じゃ、おじさんが代わりに笑える言葉をひとつ。おじさん、大人しく降参―――」

「―――こんな無茶をしておいて、それが通るとでも?」

「ちょちょちょちょッ! ちょっと待って! いや、ちょっと待った!?」


 刀身の真横に絶妙な圧が加えられ、刀が徐々に軋み始める。あ、これおじさん死んだかも。と、ニトは本気で思い始めていた。だが、しかし。


「ハァ、どうやらここまでね…… クロメル、その辺にしてあげて」

「……ベルさん?」


 ニトと刀が悲鳴を上げているところにやって来たのは、学園で友人達と談笑していた筈のベルであった。


「そのギリ変質者に今回の件を依頼したの、実は私なのよね。だから、責めるのなら私にしておきなさい。そんなギリ変質者でも、死んでしまったら目覚めが悪いもの」

「………」


 暫く沈黙するクロメル。その間、ベルも決して視線を逸らさず、クロメルの冷たい瞳を注視し続ける。 ……一方でおじさんは、ベルにまでギリ変質者と呼ばれた事にショックを受けていた。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  距離があってケルヴィンがクロメルをさっちできなくても発動するのね、『怪物親』……。 [一言]  こんな危険なハシ渡らせといてギリ変質者扱いはひどくない?  ……ギリ変質者って、それただ…
[一言] え?え!?え!何がどうなってんの!!?
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