第278話 まったりティータイム
ケルヴィン達が焼き鳥屋で親交を深める(?)その一方、十権能の生き残りであるケルヴィム、レム、グロリア、イザベルの四名は、西大陸に位置するとある洋館を訪れていた。どうやら漆黒の天使の輪と翼を消し、人間の姿に擬態した状態のまま、山中の洋館まで歩いて来たようだ。
「ぜぇ…… ひぃう…… し、死んじゃう……」
ちなみに間近の街からこの洋館までは、山道を含めて相当な距離がある。その為、あまり肉体派ではないレムは、文字通り死ぬほど疲労しているようだ。それはもう生まれたての小鹿のように、疲弊し切った両脚を震わせながら歩いている。
「だらしないな、レムよ。能力にかまけて身体能力の強化を疎かにしているから、そのような有様になってしまうのだ。そんな調子では権能三傑にはなれんぞ?」
「ケルヴィム、権能三傑でもない貴様がそんな事を言っても意味がないぞ。せめてイザベルね――― イザベルに勝てるようになってから、偉そうな口を利くのだな」
「黙るがいい、グロリア。お前が何と言おうとも、エルドが居なくなった今において、十権能のリーダーはこの俺だ。何と言っても、あのアダムスが直々に指名してきたのだからな。最早この現実は覆らん」
「アダムスに酔い潰され、その詫び代わりに仮任命されただけだろう。情勢が落ち着けば、イザベルが次の長となるのは分かり切っている。それ以前に、貴様が裏切りを働いた事を忘れていないからな」
「グググ、グロリア、私の事はいいから、言い争いはもうその辺にししし、しましょう……! たた、確かにケルヴィムは私よりも弱いかもですし、空気を読めない時が多々ありますが、誰にだって欠点はあるものですから……!」
「おい、お前の方が滅茶苦茶言っていないか!?」
徒歩での道のりは長かったが、なかなかに会話が弾んでいた事もあって、時間はあっという間に過ぎていった。
「ぜぇう、はひ…… だ、誰か、おぶって……」
尤も、不必要に目立たず、能力の使用も控えるようにとアダムスより言い付けられていた事もあって、配下を出す事のできない約一名が既に瀕死ではあるが。結局、レムはグロリアに背負われる事となったようだ。
「あ、見えてきましたね。あのお屋敷が目的地、なのでしょうか?」
「うむ、我々の隠れ家としてケルヴィンが用意した場所だ。調度品も一式揃っていると聞く。交渉した俺に感謝するがいい」
「交渉と、言うか…… 酔い潰れたケルヴィムを、不憫に思ったケルヴィンが…… 用意してくれた、だけだと思う……」
「レム、貴様まで何を言うか!? と言うか、背負われて余裕になった途端にそれか!?」
「こんなにも歩いたのは久し振りだな。どれ、早速有効活用させてもらおうか」
「ですね。良いお茶っ葉があれば良いのですが……」
「うう、ぐすっ…… 本当に疲れた…… ソファに横になりたい……」
「あっ、おい!」
不満気なケルヴィムをスルーし、その他の一行が洋館へと入って行く。
「ほう、これはなかなか。十分に及第点を与えられそうだ」
「わあ、とっても素敵ですね」
「ソファ…… ソファ……」
山中に位置してはいるが、洋館はそれなりの規模を誇っていた。備え付けの家具は高価なものばかり、食料も数週間分は貯蔵され、内部も清掃が行き届いている。問題なくそこに住む事ができる状態だ。
「キッチンを見つけました。今、お茶を淹れますね」
「イザベル、私も手伝おう」
「ソファ、私の疲労を癒して……」
「お前ら、順応し過ぎじゃないか?」
ともあれ無事に人数分の茶が淹れられ、一同はリビングルームで一息つくのであった。壁に背を預けるケルヴィム、テーブル席に腰掛けるグロリアとイザベル、そしてソファに倒れ込むレムは、まったりタイムに突入する。
「―――って、何をまったりしているのだ、俺は……!」
「あ、あの、思案されているところ申し訳ないのですが、そろそろ現状についての説明をお願いしたくて、ですね」
「イザベルの言う通りだ。この隠れ家に来たは良いが、我々は殆ど現状を知らされていない。捕虜の身であった私はなぜ解放された? なぜ皆との合流を許され、この隠れ家が提供されている? 特定の行動を禁止する魔法は、相も変わらず付与されているようだが、だとしてもこの待遇は異様だ。浮遊大陸が破壊されたせいなのか、義体の縛りも消失したようだし…… ケルヴィム、リーダーを自称するのであれば、諸々の説明をちゃんとしろ。さあ、さあ!」
「ええい、相変わらず口煩い奴め! そこまで言うのであれば、教えてやろう! 傾聴せよ!」
「うう、疲労が良い感じに眠気に変換されて、もう……」
「こらそこ! 柔らかソファの魔力に負けるんじゃない! これから大事な話をするんだぞ!?」
ケルヴィムの奮闘も虚しく、レムは敗北を喫した。神を駄目にするソファの前には、アダムスの腹心も抗えなかったようだ。
「神を駄目にする故、仕方なし、だな」
「で、ですね。あの、私達がレムの分もしっかり聞くので、それで許してあげてください……」
「ッチ、レムに甘い奴らめ……! まあいい、幸いにも時間はある。お望み通り、じっくりまったりしながら説明してやる」
ケルヴィム曰く、現在の十権能は停戦状態にあるのだと言う。アダムスが復活した事で、地上の者達に危害を加える理由が十権能にはなくなった。また、白翼の地での戦いに参加した者達以外に犠牲者が出ていない事、己の欲望に忠実そうなハザマが戦死した事などから、条件付きで囚われた者達を含め、十権能全員を解放する事に繋がったんだそうだ。
義体の制限が解除された理由は未だ不明だが、きっと今頃、アダムスが話し合いでその事をルキル陣営から聞き出しているだろうと、ケルヴィムは豪語する。 ……実際のところはさて置き、ケルヴィムはそう信じているようだった。
「条件とはアダムスの許可なしに権能の力を使用しない事、そしてケルヴィンからある魔法を付与される事だ」
「つい先ほど私が言ったものだな。クッ、厄介極まりない……!」
「むにゃ…… ケルヴィン以外に攻撃しちゃ駄目とか、そんなのだったっけ……? 何でケルヴィンには攻撃しても良いの……?」
「それは奴が変態だからだ」
「ふえっ……」
そんな変態に付与された魔法は果たして安全なのかと、レムは不安そうで泣きそうだった。ちなみに話の流れの通り、ケルヴィムやグロリアと同様に、現在はレムとイザベルにも鷲掴む風凪が付与されている。
「ふん、こんな縛りを課さずとも、我々は話し合いに応じると言っているのに…… ケルヴィンも心配性な奴だ」
「……あ、あの、ケルヴィムさん?」
「む、何だ?」
「少し気になっていたんですけど、その…… 行動抑制の魔法とは別に、ある種の洗脳のような呪いが貴方にかけられているのですが…… 気付いて、ます?」
「は、呪い? お前は何を言っているのだ? 俺は正常だぞ?」
「い、いえ、自然とそう思わせるタイプの呪いのようでして。巧妙に隠されているので、私も今気づいたくらいなんですが、え、えっと、その…… 勘違いだったらすみません!」
「フッ、ならばお前の勘違いだろう。この俺が知らぬうちに呪われていただと? そんな馬鹿を見るような事、ある筈が―――」
「―――イザベル、さっさとこの馬鹿を解呪してやれ」
「あっ、はい」
「お、おい、貴様ら!?」
グロリアが不意打ちで拘束魔法をケルヴィムにかまし、阿吽の呼吸でイザベルが解呪を試みる。流石は姉妹と言うべきか、そのコンビネーションは絶妙であった。そして、解呪は直ぐに完了する。
「……俺は、馬鹿だった?」
「良かったな、真実に気付けて」
ケルヴィムはシュトラの『報復説伏』により、強制的な思い込みをしていた。その事を知った彼は頭を垂らして跪き、大変にショックを受けている様子である。
「お、落ち着いてください、ケルヴィムさん。状況から察するに、ルキルも同じ呪いを受けている可能性が高いです。だから、その、恐らく回避は難しかったのかな、と……」
「まあ結果的にだが、アダムスも話し合いには前向きな様子だった。これはこれで良かったのではないか?」
「私もそう思う、かな……? 正直、あの吸血鬼の実力は未知数…… アダムスとは言え、復活直後にアレと戦うのは得策ではなかった…… ケルヴィム、お手柄……」
「……やはり、そうか? 俺も薄々そうでないかと思っていたのだ。意図せずリーダーを全うするとは、流石は俺だな」
「「「………」」」
が、直ぐに復活。女性陣三名は、何とも言えない視線をケルヴィムに向けていた。




