第277話 メインキャスト
「ねえねえ、式はいつ挙げるの? 変則的ってどんな感じ? お嫁さんの数だけ一杯挙げるって事? 妾が参加するからには、それだけ盛大にやらないと駄目だよ? で、妾は何をすれば良いの? メイン? ひょっとしてメイン? メインキャスト? それって主役って事だよね? 花嫁を差し置いて主役に躍り出ちゃうって事だよね!? あ、いくら妾が超絶可愛い世界最強系アイドルだからって、ベールガール役は駄目よ? それだけは絶対駄目、和ませ役は禁止!」
「待って、ちょっと待って」
予想以上にマリアからの圧が凄い。いくらツバキ様印の提案をしたからって、ここまで喰い付くものなのか? 結婚式ってワードだけでこれだぞ? どんだけ思い入れがあるんだよと。
「マリアは乗り気のようだな。しかし、死神よ。ただの我はその提案に賛同できん。酒宴を共にした仲なれど、所詮はその程度の仲に過ぎぬ。未だ敵味方も曖昧な関係の相手を、そのような重大な儀式の場に呼ぶものではないわ。たとえ人生の伴侶の許可があったとしても、誠実な行為とは言い難い。儀式の場にいつ暴発するかもしれない、危険な爆発物を自ら持ち込むようなものだぞ?」
「そ、それはそうなんだが……」
対してアダムスの方からは、反論のしようもない正論を叩きつけられてしまう。あまり邪神らしくない発言ではあるが、至極真っ当な発言故に、これ以上俺からは何とも…… すみません、ツバキ様。アダムスは駄目だったっぽいです。こいつ、見た目と名前に反して真っ当な事しか言わないです。
「そう言われると言葉もないな。いや、変な事を提案してすまない。アダムスの考えは尤もだ。式には世界に名を轟かす銘酒から、幻と謳われる伝説の酒まで、ありとあらゆる手段でありとあらゆる酒を手配する予定だったんだが…… アダムスの言う通り、俺達だけで楽しませてもらうとするよ。残念だけど、正論には勝てないからな」
「おい待て死神よ、なぜそこで諦める? 正論など所詮は常識的な考えに過ぎず、時代の移り変わりと共に変化していくものよ。一度拒否されたからなんだ。そこまで残念に思うのであれば、諦めない心持こそが大切なのだ。それにその者が素直な性格でないとすれば、二度目の誘いで受けるかもしれんのだぞ? そう、実のところただの我は、所謂ツンデレという属性を所持していたのだ。これほどの秘密を開示した今であれば、次は招待を受けるかもしれんぞ? ああ、きっと受ける。受けるに違いない。さあ、どうする? お前がすべき次の行動は何だ? 死神よ、勇気を出して言葉にしてみるといい。ただの我は待つ。待っている」
邪神様、アンタこそ待ってくれ。それまで力強くも落ち着いた語り口調だったのに、急に何でそんな別人みたいになってんの? 早口でそんな長文を捲し立てられたら、俺も困惑しちゃうんですけど?
いや、まあ何となく察してはいたけど、酒が絡むと急激に駄目になるっぽいぞ、この邪神。普通、ツンデレを自称してまでやるか? 神と酒は切っても切れない関係だとか何とか言っていたけど、ただ単にアダムスが酒好きなだけだろ、これ。
「さあ、さあ、あとは想いを言葉に乗せるのみぞ」
「……えっと、念の為にもう一度誘ってみようかな? うん、勇気を出してみよう。アダムス、やっぱり出席してほしいんだけど、どうしても駄目かな? アダムスが来ないと始まらないんだ。お願いだ、この通りッ!」
ここまで来たらとことん付き合ってやる。そんな気持ちを前面に出すように、俺は勢いよく頭を下げた。フッ、頭を下げるのが何だ。その先にバトルが待っているのであれば、この程度の事はいくらでもやってやるよ! だから、お願いしまっす!
「ふむ…… 敵でも味方でもないただの我であるが、そこまで懇願されると流石に無下にはできまい。本意ではないが、ただの我も参加するとしよう。参加するからには多少なりの助言もしてやろう。儀式で使用する酒は、先に言った通り最高級品を用意するといい。そこを疎かにしてはならん。質と量、その両方を極めるのだ。さすれば、儀式は滞りなく進むであろう。滞りなく進まない事態になったとしても、ただの我が問題を解消する。うむ、するとも。余興? 無論、するとも」
「そ、それはどうも……?」
果たしてこれはツンデレなんだろうか? という疑問が物凄く残るけど、アダムスがここまで協力的になってくれたのは、酒の件を含めても正直予想外である。
「のう、言った通りだったじゃろ?」
開いた扇子で口元を隠しているが、勝ち誇った表情が透けて見えるツバキ様。そしてまた距離が近い。
「……正直、ここまで上手く事が進むとは思っていませんでした。ツバキ様、本当にここまでの展開を読んでいらっしゃったんで?」
「当然じゃ。これを機に妾を惚れ直しても良いぞ?」
「惚れ直すはさて置き、その観察眼には感服しました」
「さて置くでないわ。感服はせんで良いから、惚れ直すが良い」
「感服しました」
「むむっ、素直じゃない奴め」
惚れ直すも何も、そもそもの話、前段階の惚れたとお伝えした記憶が過去にないもので。しかしながら、ツバキ様のお陰で俺の望む展開に一歩前進したのは確かだ。これはある意味で、刀をプレゼントされた久遠よりも大きな借りができてしまったのかも? ……後が少し怖い。
「ねえねえ、式はいつ挙げるの? 妾、早速準備に取り掛かるから、詳細の日程を教えて!」
「うむ、いつの時代も詳細な説明は必要なものだ。どこの土地でどのような歴史を辿って醸造された酒がどの程度集まるのか、ただの我にも教えてほしいものだな」
「だから待てって。熱烈に期待してくれるのは嬉しいけど、二人とも少し落ち着いてくれ。式を挙げるのはまだ大分先の話だよ。リオンが学園を卒業する必要があるし…… あ、メルとの結婚式の日は、ルキルも来てくれるのかな?」
「ルキルちゃん? 今はまだ静養中だから何とも言えないなぁ。でも、ルキルちゃんの目的ってそのメルちゃん? 関連だし、やっぱり参加したいよね? ……うん、安心して! 妾が責任を持って連れて来るから!」
「そ、そうか。それは心強いな。それで、ルキルの静養期間はどれくらいになりそうだ?」
「大体半年くらいって聞いたかな? 妾を召喚するのに、かなりの無茶をしちゃったみたいだからね」
「そんなにか……」
後から聞いた話だけど、ルキルは培養したデラミスの巫女の腕を自らに移植し、その力を無理矢理に行使できるようにしたんだそうだ。しかしその代償は大きく、未だに長期的な療養を余儀なくされている。回復魔法を施しても、効果が殆どないって話だ。ちなみにその療養場所は、某悪魔のビューティー医療施設だったりする。
「そんな状態だと、仮に回復できたとしても余興に出るのは無理っぽいか。流石に病み上がりはなぁ……」
「ううん、そこも心配しないで。妾が何とかするから」
「え?」
「何とかするから♪」
ニコニコ顔のマリアを見て、俺は猛烈な不安を覚えた。これは絶対何かを企んでいる様子だ。嫌な予感がするような、俺としては逆に嬉しい予感な気もするような。
「当然であるが、ただの我から十権能にも話を通しておく。奴らも喜んで参加する事だろう。酒も飲むだろう。うむ、沢山飲む」
「お、おう、無理強いはしなくて良いからな?」
ともあれ、こうしてマリア(ルキル)陣営とアダムス陣営の式参加が決まったのであった。予定日はおおよそ半年後、それまでに準備を進めておく必要がある。さあ、これから忙しくなるぞ。




