第276話 姫王の助言
『他の神に会った事はありませんが、多少なりの知識はあります。例えばですね―――』
メル曰く、今の神々は自らが管轄する世界を、基本的には自らの力のみで管理しているんだそうだ。言ってしまえばそれは、閉じられた世界の中で働いているのと同義であり、わざわざ他の神の力を借りるような事もないんだと言う。まあ管理と言えば聞こえは良いが、実際のところは特に何をする事もなく放置している場合が殆どで、あったとしてもちょっとした神託を下すのみ、酷いところは本当に何もしないんだとか。今の神々にとっては如何に平和的で有意義な暇潰しをするかが重要で、それをするが為だけに仕事をぶん投げ、遊び惚けている事も珍しくないという怠惰っぷり。ちなみに今のトレンドは自作のトレーディングカードゲームなんだそうで、神々の大いなる力を利用して、それはそれは凄い事を――― なあ、そろそろツッコミを入れても良い?
『何かもう、放任主義が極まってるな……』
『悠久の時、それも平和な時間が長く続けば、どのような神だって堕落するものですよ』
そんな怠惰が蔓延している中、例外なのは俺達の住むこの世界。アダムスが封印されているからこそ、何かが起こったら神々にも害が出るってもんで、転生神のみが日々汗水をたらして働いている訳だ。今の俺がメルと最初に出会った時、有休消化をしますって高らかに宣言していたもんな。そんだけ忙しかったんだろう。尤も、あの時の説明にはクロメルが仕込んだ嘘も含まれていた訳だが。前世の俺が不幸な事故で死んだとか、それは他の神がやらかした手違いだったとか。
『ともあれ、今の神々の状況がやばいって事は分かった。神話大戦の時代、主神とやらはアダムスに勝ったらしいけどさ、今のそんな状態でもうひと決戦したら、今度は負けちまうんじゃないか? 思いっ切り堕落しているんだろ?』
『そこまでは分かりかねますね。他の神々は兎も角として、最高神に位置する主神は、以降表に出て来た記録が殆どありません。全盛期のアダムスに勝利した事を加味すれば、むしろ今は義体の身であるアダムスが不利かもしれませんよ?』
むう、そういう考え方もできるか。話を纏めると、今の神々は怠惰の極み、その戦力もかつてよりは低下しているものと思われる。但し主神については不明点が多く、実際にアダムスと戦うとなれば、どちらに勝利が転がり込むかは分からない。また、怠惰は神全体に蔓延っている為、アダムス側からアクションを起こさない限りは、奴が復活した事に気付かれる様子は今のところなし。マリアの言う通り今のうちにアダムスを封印すれば、現体制を維持する事は可能と思われる。 ……そんなところか。
『あっ、そろそろ私の番が回ってきそうです。あなた様、一度念話を切りますね』
『私の番? ……メル、今どこで何をしているんだ?』
『とある隠れ家的名店の行列で待機を、かれこれ一時間!』
『そ、そうか。なら、名店の味を堪能してくれ』
『もちろんですとも! さあ、見定めさせてもらいますよ。将来私が執筆する予定である、女神様のグルメツアー(仮)に掲載するに値するかどうかをッ……!』
そんな言葉を残して、メルからの念話は切れてしまった。何かもう色々と指摘したい事はあるけど、まあ夢があるって事は良い事だよな? 妻が楽しそうで、俺としては何よりだよ。 ……店の在庫状況には気を配ってほしいけど。
にしても、どうすっかな。各々の陣営の事情については分かったけど、このままじゃマリアとアダムスがいつかは激突してしまう。双方ともこの世界の平和を維持したいって考えは一緒だから、その戦闘による被害は出ないとは思う。 ……が、このままだと不味い。俺が一切戦闘に関与できないって点で不味い。何か良い手はないものだろうか?
「ケルヴィンよ、何やら悩んでいる様子じゃな?」
「え? ああ、ツバキ様」
いつの間に移動していたのか、ツバキ様が俺の真横にちょこんと座っていた。かと思えば、腕が触れ合うくらいに間近にまで接近して、そのまま腕を絡め始め――― あの、ツバキ様?
「世界の在り方だの神だのと、何やら妾の理解の範疇を超える話が続いておるな。実に摩訶不思議な事よ。してケルヴィン、お主もこの件には何かしらの形で絡んでいると、そう考えも良いのかの?」
「ええ、まあ……」
完全に腕を組んだ形へと移行するツバキ様。あの、当たっているんですけど?
「更に言ってしまえば、ケルヴィンはあの二人の間に挟まり、共に戦いに参加したいとも考えている。一体どう話を丸め込めば、二人が納得した上で自らも楽しめるだろうか…… と、そんな風に考えておるな? ククッ、仕方のない奴よのう」
「ええと、ツバキ様……?」
そこまでの説明はしていない筈なのに、全てを見通しているかのように答えを引き当てるツバキ様。俺に対する理解があり過ぎません? つか、最早完全に俺と密着している状態なんですけど?
「仕方がないのう。どれ、このトラージの姫王ことツバキが、そなたに妙案を授けてやろう。ほれ、ちこう寄れ。そして耳を貸すのじゃ」
「もうこれ以上寄れないくらいに近いですってば……」
あと一応結婚を控えている身なんで、距離感を考えて頂ければ――― って、ええっ!? い、いや、流石にそれは、ううーん……?
「あの、ツバキ様? 流石にその誘いじゃ、あの二人は乗ってこないと思うのですが…… 確かにそれが実現すれば、俺としては嬉しいんですけどね」
「いいや、十中八九乗る。酒宴を共に過ごした仲じゃ。付き合いは短くとも、大体の性格と趣味嗜好は把握した。騙されたと思って、今教えた提案をしてみるといい」
「……本気ですか?」
「妾は常に真剣じゃよ」
そう言って、カラカラと笑うツバキ様。未だに俺は半信半疑なんだが…… いや、それ以前にその提案は、俺一人では決定できない案件だ。実現する可能性は低いと思うけど、念の為に念話で確認はしておくか。
『何それ、楽しそう! 私は大歓迎よ! ドンと来い!』
『わあ、そんなのってアリなの? あ、僕は沢山の人に来てもらいたいから、賛成に一票で!』
『それは大きなお祭りになりそうですね。フフッ、里の方々も大いに盛り上がりそうです』
『エフィルちゃんがオーケーなら、私が反対する訳にはいかないかな? むしろ盛り上がる分には良いと思う!』
『であれば、それに相応しいトライセンの銘酒を確保する必要がありますね。ええ、万事私にお任せください。どのような事態にも対応してみせます』
『おかわりを! 引き続き特盛でお願いします!』
『わ、私もメル様と同じく、おかわりで…… けぷ……』
快諾、まさかの全員快諾である。ラストのメルとコレットは少し空気感が違った気がしたけど、付き合いの長い俺は、その言葉を肯定と捉えた。つか、もしかしなくても今一緒に居る? 一緒にご飯食べてる?
「……念話で確認が取れました。やっても良いとの事です」
「おお、それは僥倖。ならば、後は誘うしかあるまい?」
「ここまで来たら、俺も腹を括りますよ」
俺がそう言うと、ツバキ様は絡めていた腕を解いてくれた。さあ、行けという合図である。
「マリア、アダムス、俺からちょっとした提案があるんだが、良いかな?」
「ん? な~に?」
「ただの我が聞く耳を持とう」
「その、だな。今度俺、結婚式を挙げるんだよ。二人にも出席して、余興に参加してもらいたいんだ。数日に亘って執り行う、かなり変則的な式になるんだが―――」
「―――ええっ、ウェディング!? 出る出る、妾、絶対出席する!」
マリアが喰い付いた。何か凄い勢いで喰い付いた。




