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第84話 魔法騎士団

 ―――トライセン・魔法騎士団本部


「はぁ、何で俺がこんなところに来なきゃいけないんだ……」


 白銀の鎧を装備した男が渋顔で溜息を付く。彼は鉄鋼騎士団副官のジン・ダルバ。鉄鋼騎士団将軍のダンの一人息子だ。一向に召集に応じる気配を見せない『魔法騎士団』将軍のクライヴ・テラーゼを呼び出す為に、副官の彼自ら魔法騎士団本部にまで足を運ぶ。本来であれば、もっと末端の人間が行うような役目であるが、今回の召集は円卓会議だ。一兵卒など入室することさえ許されない。その役目を負える境界線上ギリギリに立っていた彼が自動的にこうなったという訳だ。


「昔なら喜び勇んで覗きに来たもんなんだけどな……」


 トライセン軍の一角である魔法騎士団は女性のみで構成される。名家の出身で慎ましく、麗しい容姿の者が多い、何かと男臭い軍隊の中では高領の花とされる部隊であった。あの男が来るまでは―――


 ジンはイライラと待つ父親の顔を思い出しながら重い足取りを何とか前に進ませ、本部内に存在するクライヴの部屋へと辿り着く。


 ここに辿り着く間に女性騎士と何度かすれ違ったが、それなりに位の高いジンに対して軽く会釈をするくらいしかされなかった。これが一昔であれば、その場で立ち止まりピシッとした敬礼をされたものなのだが。


(そもそも何か心ここに有らず、って感じなんだよな)


 目に光がなく、生気を感じないと言うべきか。頭の片隅でそんなことを考えながら、ジンは扉をノックする。一間置いて部屋から返事が返ってきた。


「ん~? 鍵はかけてないから入っていいよ~」


 澄み切った美声ではあるのだが、何とも気の抜けた言葉遣い。扉を開ける前にもう一度溜息を付いてから、ジンはドアノブに手をかける。


「失礼します!」


 勢い良く開けられた扉を越えて広がったのは、香を焚いているのか異質な臭いのする暗い部屋。暫く嗅いでいると頭がおかしくなりそうだな、と自分の危険察知を読み取りながら前を向く。カーテンは閉められ、隙間から僅かに光が差し込むが十分な光源には至っていない。部屋の奥では巨大なベッドの上でモゾモゾと何かが蠢いているようだが、ジンの立つ場所からはよく見えない。だが、ベッドの下に女物の衣類が散乱していることは嫌でも目に入った。


「あれぇ? 部下の子じゃないじゃん…… 君、誰だっけ?」


 暗闇から人影が現れ、首だけをこちらに向ける。背丈はジンと同じく180センチほど。一見優男の印象を受けるが、程好く引き締まった筋肉からそれが良く鍛えられたものだと見て取れる。何よりも印象的なのは、まるで理想を描いて作られたかのような絶世の美青年だという事だ。そこいらの村娘や町娘であれば微笑まれるだけで落とされてしまうだろう。いや、貴族も例外ではないか。現にそこで今も倒れているのだから。


「鉄鋼騎士団副官のジン・ダルバであります!」

「……ああ~、ダンさんのとこの」


 クライヴは思い出したかのような仕草を取る。


「国王より円卓会議の招集がかけられております。クライヴ将軍、大至急参じて頂きたい!」

「面倒だなぁ…… 僕、今とっても忙しいんだよぉ」


 再びクライヴの人影が闇に消え、ベッドの軋む音が鳴り始める。そろそろジンもいい加減にしろよと頭にきていたが、ここは根気の勝負、父親の顔に泥を塗るようなことはできないのだ。


「将票が行われています。議題についてはここでは伏せますが、現在の票は2対2で割れております」


 蠢きがピタリと止まる。


「……それ、提案者は誰?」

「ここでは申し上げられません」

「ん~……」


 仕方ないな、と言いたそうにクライヴがベッドの上に立ち上がる。


「シュトラちゃんが提案者だといいな~」


 調和のとれた端麗な顔が、暗闇の中で醜く歪んだように見えた気がした。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 ―――ケルヴィン邸・地下牢


「こいつから吐き出させた情報はそんなところですね」

「……ふうむ、トライセンが遂に動いた、と言うことか」


 昨夜、俺の屋敷を監視していた集団の司令塔らしき男を捕らえることに成功した俺達は、黒風の時と同様にセラの黒魔法で根こそぎ情報を吐かせた。オットー君はどうやらトライセンの暗部という組織に所属する隊長の一人らしい。彼の話によるとトライセンの軍隊は5つあり、その中で将軍、副官、大隊長、隊長と序列が存在する。オットー君の部隊は小規模なものになるそうだ。まあ、暗殺やスパイ行為をする奴が大勢で来る訳もないよな。


 クリストフ達については本当にトライセンの英雄だと思い込んでいるようで、盗賊の頭として断罪した俺や刀哉達のことを親の仇のように恨んでいた。末端とは言え軍内の隊長クラスでこれなのだ、おそらくトライセンの真実は一部の上層部にしか知られていないのだろう。情報統制とは怖いものだね。


 粗方情報を聞き出した後はセラの儚い夢ヒュプノーシスを強めに施して、急遽地下にこしらえた牢屋にポイッ。ギルド長のリオに事の顛末を伝え、今に至る。


「これまで黒風との関連性を否定し、事を荒立てぬよう徹していたトライセンが暗殺を目論む、か。この件の実質的な黒幕は第1王子のアズグラッドのようだが、情報がまだ足りないかな。 ……実はね、ここ最近になってトライセンとの国境付近を中心に、各所で大小の動きが見られるんだ」

「……と言うと?」

「今までもガウンとの軽い小競り合いは幾度かあったが、それでも表立った行動はしてこなかった。まして平和の象徴であるパーズや、食料を賄うのに重要な相手となるトラージには気を使っていたはずだ。それが今では近隣への威力偵察や奴隷調達――― 穏健派から過激派に、何らかの理由で内部事情に変化があったのかもしれない。このままではトライセンが侵略行為を行う可能性もある」

「戦争、ですか」

「ああ」


 黒風の件が発覚して以来、トラージ、デラミス、ガウンは協同してトライセンへ非難を浴びせ、糾弾を開始した。トライセンからは知らぬ存ぜぬの返答ばかりだったが、それをするには証拠が揃い過ぎていた。追い詰められたトライセンが、苦し紛れに3国を相手取って戦争を仕掛けようとしているのだろうか? 理性的に考えれば、それはあまりに無謀過ぎると思うのだが……


「今の段階ではまだ私個人の予想に過ぎない。だが、十分に気をつけてくれ。こやつの証言が正しければ、ケルヴィン君もまた狙われる可能性が高い」

「……そうですね、肝に銘じます」


 何はともあれ、警戒するに越したことはない。リオン用の装備もペースを上げて作ろうかな。


「ああ、そうそう。ケルヴィン君にお願いしたい依頼があったんだ」

「ギルド長の特別依頼ですか? 久しぶりですね」

「いや、今回は私のではないんだ。獣国ガウンの獣王、レオンハルト・ガウン様からだよ」


 リオは懐から煙草を取り出すかのような軽いノリで、やたらと豪華な封筒を取り出した。

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