第242話 不気味
「クハハハハハッ! すまんな、エルド! 話が長くてつい手が、いや、この翼が出てしまってなぁっ!」
「まあ、あんだけ隙を見せてれば、つい手も出ちまうわな。実際、俺も剣を出しちゃった訳だし。しかし、親玉の幕切れとしては正直あっけないと言うか、メル風に言えば食い足りないと言うか……」
そう言って、俺はエルドを見下ろした。翼を失い、更には『致死』を受けた奴は、地上へと墜落した。現在はサンゼルスの一角に横たわっている状態で、もう言葉を発する事も、肉体を動かす事も、生気を表に出す事もない。増強していた筋肉はそのままだが、それもそれ以上の変化を起こす事はないだろう。少しばかり拍子抜けな戦闘終了――― なのかは、まだ半信半疑な状態だ。
如何に十権能の長と言えども、直撃した即死技を無効化する事はできないだろう。ハザマの『融合』による命のストック? とやらもないようだったし、まず間違いなく奴は絶命している。ただ、奴の戦い振りには未だに疑問が残るし、いくつか気になる点もあった。
「あいつ、お前の翼を受ける間際に、権能の顕現を宣言していなかったか? 口がそんな風に動いていたように見えたぞ」
「………」
ついさっきまで高笑いを決めていた筈だが、いつの間にかケルヴィムは瞳を閉じ、静かになっていた。何だよ、不気味だな。
「おい、聞いているのか、ケルヴィム?」
「ん? ああ、すまんな。エルドをこの手で屠る事ができた喜びが、全身を駆け巡っていたところだ。長年の夢が叶った今の俺は、凄まじく気分が良い。これまでの歩みで、これほどまでの爽快感を覚える事はなかったと断言できる」
「………」
うん、まあ、ある意味爽快感があるかもしれない(?)格好をしているからな…… いや、俺が今言いたいのは、そんな事じゃなくて!
「権能の顕現、だったか? さあな、俺は奴の権能が『統合』であった事さえ、今の今まで知らなかったのだ。アレが真の力を発揮させたところで、一体どんな力を持つようになるのかなんて、知る筈がなかろう?」
「まあ、そりゃあそうなんだろうが……」
「フッ、だが安心しろ。俺の『致死』の力は絶対、そして間違いなく効果を発揮させた。奴がどのような力に目覚めたところで、最早手遅れというものだ。クククッ、そう、俺がエルドを屠ったのだ!」
再び高笑いモードとなってしまうケルヴィム。その台詞、俺からしたらフラグにしか聞こえないんだよなぁ。で、まだ気になる事が一つ。
「……それに、だ。結局エルドからは、最期まで勝つ気が感じられなかった。本当にアレが奴の実力だったのか?」
「まだそんな事を心配しているのか、ケルヴィン? 案外心配性なのだな、貴様も。まあ、確かに以前のエルドと比べれば、些か手応えがなかったようにも思えるな」
「ん、以前の? どういう事だ?」
「言葉通りの意味だ。これでも俺は十権能の副官だぞ? 奴の権能を知らずとも、組織に所属する者達の大よその実力は把握している。エルドは自らの権能を誰にも明かそうとしなかったが、その代わりに戦時には、黒い光を発する魔法を愛用していたんだ。お前風に言えば、白魔法と黒魔法の合体魔法とでも呼ぼうか」
「なっ!? そ、そんな隠し玉を持っていたのか、あいつ!? 劣化コピー能力なんかよりも、そっちの方が強かったんじゃ!?」
「だから、そう言っているだろう。いくら他の権能を使えるようになったとしても、唐突にそれらが十全に使えるようになる訳じゃない。不慣れな劣化品を頼るよりも、十分に手に馴染ませた得物を使う方が、相手をする側からすれば厄介に決まっている。フン、まあつまるところ、あいつは最期まで哀れな選択をした訳だ。いや、この場合はそんな権能を授かってしまった事自体を、哀れんでやるべきか? まあ、今となっては―――」
ケルヴィムのありがたい解説がまだ続いているが、それよりも俺は受けたショックがでか過ぎて、もうショックショックの大ショック状態だ…… エルド、何でそっちの力を使わなかったんだ…… 絶対黒い光を使った方が、勝算があっただろうに……
「うう、エルド、今からでも生き返ってくれないかな……」
「何を言っているのだ、お前は!?」
「いや、まあ流石に今のは冗談だけど、俺の落胆っぷりは半端ないぞ。それだけは理解しておいてくれ」
「そんな事を言われても、俺はそうかとしか言えないぞ……」
後々に俺の気持ちを汲んでくれれば、それで十分です。まあ、そんな不満はさて置いて、まずは不安の方を解消しておこうか。空いた左手に魔力を集める。
「おい、何をするつもりだ?」
「ケルヴィムの話からしても、やっぱエルドの行動はかなり解せない点が多い。だから、分かりやすく不安を解消しようと思ってさ」
「……なるほど、更に攻撃を加えるのか」
「理解が早くて助かるよ。『鑑定眼』を使ったところ、エルドのHPが0になっているのが確認できた。が、ステータスの数字ってのは当てにならないもんだからな。何か妙な胸騒ぎがするし、一応、きっちり止めは刺しておこうと思う。死体に鞭打つのは、正直趣味じゃないんだけどさ。 ……お前は反対か?」
「いいや、エルドは用心深い男だ。それくらいの事をしたって、罰が当たるような事はないだろう。フッ、この『死の神』であるケルヴィム・リピタが保障してやろう!」
「え、あ、うん……」
裸の神にそう言われても、信用性がいまいちなんだが…… まあ、良いか。予期せぬ事が起こり、戦闘が継続されるのは俺も歓迎するところだ。だが、だからと言って手を抜くつもりはない。ケルヴィムの了解は得た。エルド、悪く思うなよ。
「煌槍・Ⅳ!」
極太に生成した光の槍を、エルドに向けて全力放出。通常型よりも速度は遅めだが、その分威力は強力。無抵抗のまま命中すれば、かなりエグい事になる攻撃だ。さあ、どうなる?
―――ズゥガァァァン!
煌槍はエルドの胸部ど真ん中に向かい、そのまま見事命中。地面と共にエルドを串刺しにし、胴体に大きな穴を開ける結果となった。上半身と下半身が皮一枚で繋がっているような、そんな悲惨な状態だ。
「……全く動かなかったな」
「ああ、あの攻撃が当たった際も、瞬きの一つもしていなかった。どうやら、俺達の杞憂だったようだな。エルドは死んだ。これで確定だ」
「………」
そうか。結局、不完全燃焼で終わってしまってしまったのか……
「ハァ、まあ仕方ないか。じゃ、次の話題」
「む?」
「当初の目的だったエルドは倒せた訳だが…… どうする? 一応の協力関係はここまでにしておいて、早速バトろうか?」
そう、エルドの件は残念だったが、まだお楽しみは残っている。共通の目標を打破した後、ケルヴィム、ルキルとの協力関係は解消されるんだ。不幸中の幸いと言うべきか、俺達はどちらも無傷に近い状態だ。このまま戦闘に突入しても、何ら問題はない! 戦闘に関しては俺に近い思考を持っているケルヴィムなら、きっと喜んで―――
「―――ケルヴィン、お前は何を言っているんだ?」
「えっ?」
と、俺はそう考えていたんだが、予想に反してケルヴィムは、呆れたような表情を作っていた。てっきりやる気だとばかり思っていたから、普通に聞き返してしまう。
「よくよく思い出せ。エルドを倒したその後の事については、キッチリ話し合いで決めると、出発前にあの小娘とそう約束したではないか! まずはルキルと合流し、速やかに会談の場を設けるぞ。戦うのであれば、話し合いが決裂した、その後だ!」
「……ッ!」
そ、そうか! シュトラの固有スキル『報復説伏』で、協力関係が解かれた後の事は話し合いで決めるようにって、そう認識させていたんだった! クッ、確かに俺の趣味趣向をさて置いて普通に考えれば、話し合いで決まるのが最もスマートな方法だ! 話術に長けたシュトラなら、ケルヴィムとルキルを相手に無双できる可能性も大いにある! やべぇ、反論の余地がない! それ以上に、折角シュトラが整えてくれたこの状況を無下にはできない! つまり、つまり――― 詰んでる!
「……おい、さっきから百面相に興じているようだが、大丈夫か?」
「だ、大丈夫、きっと、だいじょ―――」
「「―――ッ!?」」
その瞬間、俺達は何も言わずに背を合わせ、最高レベルでの周囲警戒に移行した。おいおい、何だよ、これは? 四方八方から、美味しそうな気配がクソほどするぞ……!




