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黒の召喚士 ~戦闘狂の成り上がり~  作者: 迷井豆腐
アフターストーリー2 白翼の地編
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第234話 逃走劇

 権能三傑の一人、ハザマ・シェムハザは残忍な神として知られていた。彼の心に慈悲というものは存在せず、自らが良しとするものしか認めない。たとえそれが正道から外れる行為であったとしても、目的の為ならば、何の躊躇いもなく実行する者であった。ハザマが神に相応しくないという声は、神々の間でも常に蔓延しており、自ら天罰を下そうと彼に戦いを挑んだ神も、決して少なくなかった。


 ……しかし、その中にハザマに勝利にした神は一人としておらず、皆が皆、敗北の後にハザマの腹の中に収まっていってしまった。


『ぐ、う……』

『ワシは常々こう思っておるのじゃよ。欲望の大きさは強さに比例する、と。つまり、お主がワシを憎む気持ちは、ワシの食道楽を愛する気持ちにも届かなかった。カカッ、まあどうでも良いか。つう事で、大人しくワシに食われてくれい。何、ちょいと咀嚼ん時に死ぬ思いをするだけじゃて。まあ、それで実際死ぬんじゃがな。カカカカカカッ!』


 ハザマが邪神アダムスから授かった権能『融合』は、食えば食うほどに肉を増やし、命のストックを増やしていく事ができる。単純であるが故に、強さの上限が存在しない強力な能力だ。神話大戦の時代にもこの力を大いに振るい、神の肉を食い漁ったハザマはより強力な肉体を手に入れ、その強さを更新し続けた。結果として彼は『蛮神』として、同じ神にも恐れられる存在となり、権能三傑にまで数えられる事となる。『融合』の弊害として、元となるハザマの容姿を維持する事ができず、常時大変に醜い姿となってしまった訳だが、大いなる力による欲望解消を最上の是とする彼にとって、それは些細な事であった。


 しかし、そんなハザマも敵わない、敵対すべきではないと考える者が、神の中に二人ほど存在していた。一人は邪神アダムス、神話大戦における自由の盟主であり、ハザマが唯一格上と認める神である。アダムスの強過ぎる力は、ハザマを以ってしてもその上限を推し測る事ができず、挑もうという気が一切起きないほど。アダムスは明らかに別格の存在であり、独善的で欲望に塗れたハザマでさえも、彼に対してだけは、機嫌を損なわないよう最大限の配慮を行ってきていた。


 そしてもう一人は、同じ十権能に名を連ねるケルヴィム・リピタ。『死の神』と呼ばれるその名の通り、『致死』の権能を持つケルヴィムは、対峙する相手に一撫するだけで平等な死を与える事ができる(正確に言えば斬撃を与えた相手が対象となるのだが、ケルヴィムは仲間達にもその事を秘匿している)。億の命を持つハザマであったとしても、それは同じ――― かもしれないと、ハザマは一方的にそう危険視していた。 ……まあ実のところ、ハザマの狡猾で慎重な性格が災いして、検証した事もなかっただけなのだが。


『じゃが、アダムスは無理であったとしても、ケルヴィム程度は状況次第で、いつかは…… カカカカッ!』


 欲望を燻ぶらせながら、いつか来るであろう下剋上の時に備え、ハザマは狡猾に力を蓄える。その日が来るとすれば、例えばそう、今日のような乱戦に乗じての奇襲だ。自身は無駄な戦闘を控え、消耗したケルヴィムを狙えば、勝機は十分にある。だからこそ、ケルヴィムが一目散にやって来るであろう、エルドの近くに陣取っていたのだ。ケルヴィムが敵側に寝返った今であれば、他の十権能やこれから復活するであろうアダムスから、とやかく文句を言われる事もない。状況次第では、エルドも労せず食う事ができるかもしれない。そうなれば正に一石二鳥、そこに侵入者が加われば一石三鳥と、笑いが止まらない状況になる訳だ。


 ……と、そのように企てていたハザマであったが、時は現在、予期せぬドロシーとの出会いを果たしてしまい、その全てを狂わされていた。


「ぐぅぅ……! あり得ん、あり得んぞ……!」


 今の彼の肉体は権能を顕現させた時よりも随分と小さく、肉体から発せられる背徳的な雰囲気も相当にランクダウンした状態にあった。


「ワシが、このワシが権能顕現時の姿を見せたのじゃぞ……!? そこまでした後に、再び逃走を選択する事になるとは、クソッ……!」


 その言葉の通り、ハザマは現在逃走中の身である。それも、命がギリギリのところで繋がれている、そんな最悪な状況での逃走だ。


 ハザマは最初に逃走した時とは比にならない数のデコイを、この大陸全土へ散らばるようにばら撒いた。ばら撒ける最大数を、可能な限り最大速で駆けさせた。そうする事で、敵対するドロシーの目を何とか欺く事に成功――― したのだが、その代償も大きかった。大量のデコイを切り捨てた事で、本体となるハザマ自身も相当に弱体化してしまったのだ。この短期間に、一体いくつ分のストックを消費してしまったのか…… 今のハザマの声からは、覇気が微塵も感じられない。


「ぐぅぅぅ……! じゃ、じゃが、一先ずは窮地を脱した。発する気を等分にし、動きも本体であるワシそのものにしておる。いくら化物染みた奴・・・・・・でも、直ぐにワシを発見する事はできまい……!」


 動揺する自らに言い聞かすように、ハザマは弱気な言葉を何度も口にしている。ほんの少し前に起こった、恐るべき事態。その時の光景が度々フラッシュバックし、ハザマの心を圧迫する。彼は今、深い深い絶望の中に居た。


『―――黄泉帰化すアンスタン

「ぐ、うっ……!」


 思い出すだけでも恐ろしい。あの時、ドロシーは何らかの魔法を唱えていた。それだけは分かった。それだけは何とか理解できた。しかし、その直後に起こった出来事が何なのか、一切分からないし理解もできなかった。


「……あの小娘の背後に何かが居た。その何かと目が合った、気がした。その後、ワシの肉体に起こったのは、圧倒的なまでの死の嵐…… 何が起こったのかは未だ分からないが、恐るべき速度で命が消失していったのは確かじゃ。ものの数秒で幾千万の命が費えるじゃと? あり得ぬ。あり得ぬ筈、なのじゃが…… クソッ、あの小娘、本当に何をしたのじゃ……!?」


 理解不能の攻撃を受けた後、ハザマは直ぐ様に戦いを放棄し、全力でその場から逃走。そして、今に至る訳である。呆れるほどの潔さであるが、実際あのまま戦場に留まっていれば、ハザマの命のストックは完全に消失していた可能性が高い。その狡猾さと諦めの良さが幸運を呼び、心に深い傷を負いながらも、ハザマは今も生き永らえている。 ……但し、今後どう行動すべきなのかが、最大の問題であった。


「ワシには分かる。アレは執念深く、性格も悪い。どこまでも追って来るじゃろうな。今は良くとも、いずれワシにも行き着く、か…… ならば、どうする? 最も近くに居るエルドと合流するか? いや、それは駄目じゃ。あそこにはケルヴィムがやって来る筈、今のワシでは手に負えん。ならば、同じ権能三傑であるイザベルかハオの下へ? ……イザベルは駄目じゃな。向かった先が遠過ぎる。ハオは――― むうっ!?」


 思考を高速で回転させる最中、途轍もない衝撃波がハザマを襲う。何事かと衝撃波が来た方を見ると、そこには激戦を繰り広げるハオと――― 桃色の怪物の姿があった。


「ハオと戦っているアレは…… 偽神、か? 彼奴はイザベルに封印されている筈、なぜ解放されておるのだ? まさか、イザベルがやられたのか? 馬鹿な、いくら義体の身だとはいえ、地上の者達に倒されるような女ではないぞ! ……い、いや、それよりもまずは自分の事じゃ。何か利用できるものは、ううむ……」


 ハオ達の戦いを警戒しつつ、辺りを見回すハザマ。


「見たところ、ハオ達の戦いは拮抗しておるのか…… ぬっ! 竜と人の気配を併せ持つ、不思議生物が三匹ほどおるではないか! しかも、ハオにやられたのか瀕死状態じゃ! あの三匹を食べれば、幾分かの肉体回復に充てられる――― いや、それは悪手か。ハオは自らの戦いを邪魔されるのを酷く嫌う。ワシが獲物に手を出した瞬間、最悪敵対するかもしれん。そのような事は絶対に避けねばならん。クッ、絶好の餌場がそこにあると言うのに、手を出せんとは――― いや、待てよ?」


 何を思い付いたのか、ハザマは未だ激戦の最中に居るハオ達の方を見ながら、その大口を歪ませていた。

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