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黒の召喚士 ~戦闘狂の成り上がり~  作者: 迷井豆腐
アフターストーリー2 白翼の地編
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第231話 追走劇

 ゴルディアーナとハオが不意を打たれたその時から、少しばかり時間を遡る。彼らに不意を打った張本人、権能三傑の一角『蛮神』のハザマ・シェムハザは、誰よりも早くにドロシーと相対し、この大陸内で一番最初に戦闘を開始していた。


「カカカカッ、全くおかしな女子おなごじゃわい! まさか土中ここまで付いて来るとはな!」

「そういう貴方こそ、よく高笑いしながら土の中を掘り進めるものですね。真似はしませんが、感心はします」


 いや、戦闘を開始したと言うには、少し語弊があるだろうか。現状況を見てみるに、二人が激戦を繰り広げている! と、そう言える状態ではなかった。


 状況を整理しよう。出会い頭にドロシーから黄泉飛ばすモールの攻撃を受け、胸部に大きな穴を空けたハザマであったが、彼は何もなかったかのように腐り落ちた肉を再生し、挑発する形でドロシーとの対話に興じていた。更にはローブ下から不気味な肉の触手を伸ばし、如何にも戦闘開始間際という、緊張感溢れる雰囲気を醸し出していたのだ。


 が、この期に及んで何を思ったのか、ハザマはドロシーに背を向け、そのまま大地に潜り、姿を消してしまったのである。ドロシーは最初、土中からの不意打ちを狙うつもりなのかと身構えた。しかし、いくら待ってもハザマは地面から姿を出さず、攻撃らしい攻撃も全く来る様子がない。眉をひそめたドロシーは、当然こう考えた。


(……逃げた?)


 十権能、それも権能三傑に数えられるほどの猛者が、逃げた? ドロシーは頭に浮かんだその考えを疑った。だが、やはりハザマは何もしてこない。しかも、彼の気配はドロシーからどんどん離れていくばかり。となれば――― と、ドロシーの疑念は確信に変わる。あろう事かハザマは、ドロシーとの戦いから尻尾を巻いて逃げていたのだ。それも迷う事なく、堂々と。


『罠のつもりか、それとも信じられないほどに臆病なのか』


 ドロシーは相変わらず無表情だが、少しばかりカチンとはきているらしい。言葉に圧が感じられる。


『カカッ! お主の相手は面倒そうじゃからのう。エルド辺りに相手を譲って、ワシはもう少し弱そうなのを倒すとするわい!』

『……まあ、どちらにせよ逃がすつもりはありません。お覚悟を』


 その瞬間、彼女の周囲に不可視の弓と矢が幾つも顕現する。それらの矢先は地面下へ、そう、ハザマへと向けられていた。


散々黄泉飛ばすイディオモール


 彼女の声を共に、何本もの腐食の矢が解き放たれる。白翼の地イスラヘブンの大地に潜り込んだ矢群は、威力を一切弱める事なく、土の中へ逃げ込んだハザマの気配を追跡。ぐんぐんとその距離を縮め、今度は肉体の一部だけでなく、その全てを消し去らんと迫っていた。 ……だが。


『……気配が分かれた?』


 矢が命中する寸前のところで、ハザマの気配が分かれたのだ。それも、一つが二つになったというものではない。気配の数は軽く百を超え、更にその数を増やし続けていた。また、それらが発する気配はどれもハザマそのものであり、一切の違いが感じられない。どれが本物なのか、ドロシーには全く見当がつかなかった。


『………』


 ハザマとは初対面、かつまだ顔も拝んでいない筈のドロシーであるが、なぜかハザマの嘲笑うような表情が目に浮かぶ。それほどまでにあのハザマという神は、どうしようもないほどに性格がねじ曲がっている。ドロシーは既に、そう確信したようだ。思い込みが激しいようにも思えるが、まあ実際のところ、彼女のその読みは的を射ていた。


『―――最大効率で標的を射線上に再捕捉、追撃と共に次弾装填』


 神威しんいの儀を終えたドロシーの魔法操作能力の柔軟さは、対抗戦でケルヴィンと戦った時の比ではない。それまで一つの標的に向かっていた矢が、彼女の言葉一つで一斉に別方向へと散らばり、標的をより多く仕留めようと、ハンターの如く猛追する。増殖を続けるハザマの気配全てを倒すには至らないが、仕留める数と増殖する数は拮抗、いや、次弾となる矢も次々と放たれているので、時間が経つにつれ、偽物の総数は着実に減り始めていた。


『ほう、力技で囮を葬るか。しかし、あのような強力な魔法を、これだけの規模で使うとは…… おかしいのう、底無しの魔力を持つのは『死神』の方ではなかったのか? 全く、堕天使共の報告は当てにならんものじゃわい。カカカカッ!』

『そうなんですか? なら、ご自分で体験されては如何です?』

『む?』


 腐食の矢が豪雨の如く降り注ぐ土中にて、そこに居る筈のない可憐な声が聞こえてきた。その声の主は言うまでもなく、地上にて攻撃を乱射している筈のドロシーのもの。こんなところに聞こえてくる筈のないものだ。しかし、だ。夢か幻なのか、ハザマが背後を振り向くと、そこには確かにドロシーが居た。下半身を人魚のそれに変貌させ、土の中を荒々しく泳ぐドロシーの姿が、確かにあったのだ。


『おいおい、これはどういう事じゃ!? さっきとは随分と姿が違うではないか! カカカカッ、それも速い!』


 この姿となったドロシーは、神威の儀で融合した神柱、神鯨ゼヴァルの固有スキル『世界遊泳』が使用できるようになる。世界を泳ぐ事を可能とする力、それすなわちどのような場所であろうとも、水の中と同じ速度で移動する事が可能である事を示す。もちろん、呼吸の問題もない。


 土の中に潜り込む『土潜』のスキルと能力が類似する点もあるが、泳ぐ事で最高速度を叩き出せる分、こちらが完全な上位互換の能力だと言えるだろう。気色の悪い触手を使い、器用に土の中を掻き分け進むハザマも恐ろしく速いが、人魚となったドロシーの速度はそれを大きく上回っていた。


『つうか、よく本物のワシの居場所が分かったのう? デコイとしてばら撒いたワシの種は、ワシと同じ気配を発していた筈じゃが?』

『いちいち教えてやるほど、私も暇ではないのです。さっさとその気色の悪い足を止めて、仕留められてください』


 ドロシーは決して手の内を明かさない。解き放った不可視の矢、その全てから土中の戦況を読み取っていたと説明しても、何のメリットも彼女にはないからだ。ヒットした敵がそのまま消滅したかの確認、他の個体と比べて怪しい動きをしている者は居ないかの観察、その他諸々の要素を矢を通して感知――― そうした結果、彼女は本体であるハザマを捜し当てる事に成功していた。


 また確実に屠る為にも、こうしてドロシーが直々に手を下しに来た訳だが、ここからが更に難しいところだ。下手な攻撃でいくら肉体を欠損させようと、ハザマは直ぐ様に肉体を再生させてしまう。狙うのであれば肉体全ての消失、或いは頭や心臓といった人体の弱点だが、果たしてそれらが有効的な手段なのかは、まだ謎である。


散々黄泉飛ばすイディオモール


 ドロシーは展開させていた不可視の弓(彼女同様、こちらも土中で使用可能)から、幾本もの矢を放出。矢はハザマの頭部や心臓と思われる箇所に見事命中、更には肉体を丸ごと消滅させるつもりで、何度も何度もハザマを射抜いてみせた。


『―――カカッ! 本当に容赦のない娘っ子じゃわい! チクチクとよう動き回るものじゃて! ワシでなければ死んでおったぞ、おおん?』


 が、腐り落ちた頭部や心臓さえも、ハザマはそこから直ぐに肉が膨張させ、一瞬にして再生してみせた。彼が纏っていたローブは見る影もない状態だが、肉片の一つでも残っていれば、ハザマ自身はどんな状態からも、一瞬で元通りにまで再生できるようである。


『……どうやら、想像以上に面白い体をお持ちのようですね』

『カカッ、お主には言われたくないのう!』


 その後もドロシーとハザマの追走劇は、今に至るまで続いているという訳だ。ドロシーの魔力が尽きる様子はないし、ハザマの体力が尽きる様子もない。そして双方とも、諦める様子は一切なかった。このままでは延々と追って追われてを続けていそうでさえある。


 S級時魔法【堕ち尽くエテルネル】で時間を止め、有無を言わさずに仕留める、という方法もあるにはあるが、ドロシー自身と相手が土の中に居る現状では、それも難しい。と言うのも、世界の時間が停止している間、ドロシーは自由に身動きする事ができなくなってしまう為だ。現在使用している『世界遊泳』も機能しなくなり、そうなれば周りの土も邪魔となってしまう。そういった点で、時間停止系の『時魔法』と『世界遊泳』は決して万能ではなく、噛み合わない場合も時にはあるのだ。


「さて、流石に逃げるのも面倒になってきたのう。ならば、そろそろ反転攻勢と行こうか」

いよいよ本日からアニメ版『黒の召喚士』の最終話が放送されます。

素晴らしいアニメ化で作者は大満足でした……!


それと、現在『黒の召喚士』は土曜日更新、『黒鵜姉妹のキャンプ飯』は3日に一度の更新頻度でしたが、次回の更新からこれを逆にしたいと思います。


勝手ではありますが、ありがたい事に『黒の召喚士』の書籍化が原作に追いついてきたので、そろそろストックの貯金をしたいなぁと思い…… まあ、そういう感じです。


何かと設定の繋がりの多い両作品ではありますが、今後ともよろしくお願い致します。

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