第222話 血染の騎士王
―――血染の騎士王。セラとジェラールという百戦錬磨の二人が融合する事で、『守護神』イザベルの力にも届き得る凶悪な力を生み出す秘儀。神をも討ち滅ぼすであろうこの力は、裏で二人の持つ固有スキルが奇跡的に噛み合い、相互に働く事で成り立っていた。原理としては次の通りである。
まず、セラがジェラールの鎧を装着するのだが、当然そのまま着る訳ではない。『血操術』で血を操り、現時点で体外に放出可能な限界量の血で、ジェラールの鎧内部を満たす。これが全ての始まりだ。鎧内部を自身の血で一杯にしたセラは、更にそこから『血染』を発動。血で満たされたジェラールの鎧に、限界以上のポテンシャルを発揮できる装備に進化するよう、つまりはセラにとっての最強の装備になるように、命懸けで命令したのだ。自らの肉体の一部として動かせるように、今身につけている装備をも取り込み、全ての要素を活かす力となるように、頭の中で描く最強の自分をイメージするように――― セラの血は鎧内部から外へと流れ、その装甲全てに血と命令を行き渡らせる。
そして、ジェラールはセラの願いを叶えるべく、とある力を発動させた。身につけた武具の性能を向上させる、固有スキル『自己超越』の力を。セラの『血染』によって通常以上の能力を発揮させたジェラールは、己自身を、またセラの血をも装備に見立て、性能を超向上させるに至ったのだ。だが、これで終わりではない。セラの血の性能が上がれば、『血染』による命令の力もまたパワーアップする事に繋がり、そうなると更にジェラールの『自己超越』もパワーアップして――― とまあ、ある種の無限パワーアップ機関がここに誕生。今の限界を疾うに超えたセラとジェラールの融合体は、こうしてイザベルの前に立ったのである。
「「何という太刀筋! だが、見える! 見えるが故に学べるというもの! 食ってやる、アンタの全てを食ってやるぞぉ!」」
「この期に及んで何という向上心! そして途轍もない吸収力! 分かります、私には分かります! 刃を交えるこの間にも、貴方達が猛烈な勢いで成長している事が!」
両者の剣はどこまでも互角、いや、互いが互いの剣をより研ぎ澄ませ、互角のままより高みへと登っているとも言えた。無限成長機関を持つセラとジェラールは、それを絶えず働かせて。神生における喜びの絶頂を堪能するイザベルは、目の前の我が子の為に培った全てを解放して。剣を交える度に、双方は更に強くなっていく。
また、今この場で激しい攻防を繰り広げているのは、二人が持つ二本の剣だけではなかった。つい先ほど展開させた別種の刃達が、同時進行で全身全霊の戦いに興じていたのである。
―――ズゥガガガガガァァァン!
たった今、その戦いの影響で白翼の地の大地の一部が崩落した。一体何をされたのか、それを理解する為には、まず状況を把握するのが一番である。
片や、イザベルが展開した殺戮結界『至適刑戮』。紙のように薄く大変に柔軟なこの結界は、風に煽られてゆらゆらと宙を舞っているようにも見える。物騒な名前の割にどこか牧歌的な見た目で、その光景に拍子抜けしてしまう者も居るかもしれない。が、実態はそんな牧歌的なものでは決してなかった。
途轍もなく長い刃はこの空間に広く展開されており、イザベルが命令を下したその瞬間に、予測もつかない角度から獲物へと襲い掛かる。上下左右前後は当然として、この刃は分離までもが自由自在。気が付けば、そこかしこにギロチンの刃が飛び回っているという、そんな冗談みたいな状況が出来上がる訳だ。しかし、その展開力以上に恐ろしいのが、その結界に備わった刃の残酷なまでの切れ味である。分離して通常のギロチンサイズにまで小さくなった刃(それでも常識的には大きいのだが)でさえも、直撃した白翼の地の大地を最下層までぶった斬るに至ったのだ。それはつまり、斬撃が浮遊大地の地盤の全てを通り抜けた事を意味する。そんなギロチンが無数に乱舞する状態になったとすれば、白翼の地はどうなってしまうだろうか?
……答えは明白だろう。前述の結果は被害のほんの一部でしかなく、現在白翼の地の小間切れ化が、着々と進んでいるところである。最早、心臓部がどうこうの心配を通り越して、この浮遊大陸の全てが切り刻まれるのではないかという、そんな馬鹿馬鹿しい心配をする必要が出てきた訳だ。イザベルのテンションの高さを代弁するかの如く、現在変幻自在のギロチン台は暴走状態にある。
そしてもう片や、セラとジェラールが創造した、不気味で血塗れな蛇腹剣『邪帝尾剣』。そもそも蛇腹剣はカテゴリー自体が物珍しく、満足に扱える者は更に少ない特殊な武器である。ワイヤーで繋がれた特殊構造の刃は遠くまで伸縮し、剣でありながら鞭のようにしなる。通常の剣では想像もできない軌道を描く為、見切るのが非常に困難な得物だ。尤も、そんな構造しているが故に扱いが困難で、メンテナンスも手間がかかり、この世界においても作り手が殆どいない。浪漫は溢れているが、全体的に不遇な扱いの武器だと言えるだろう。
但し『邪帝尾剣』に限っては、その全てが例外扱いとなる。確かにこれまで、セラとジェラールは蛇腹剣など使った事がなかった。だがこの得物は今、セラ達の体の一部と化しているのだ。生まれ持った体の一部であれば、手を動かすが如く自在に扱える。また体の一部かつ剣でもある為、セラの『格闘術』とジェラールの『剣術』の適用範囲にも入る。要するに、セラ達はこの蛇腹剣を十全に扱う事ができるのだ。しかもこの蛇腹剣自体が、イザベルの『至適刑戮』に匹敵するほどに凶悪であった。
全方向から迫り来るギロチンの刃に対し、セラの尾から伸びるこの剣は縦横無尽に宙を駆け巡り、鮮血を撒き散らしながら迎撃を行う。どこまでも伸縮し、その度に備わる刃の枚数も増えていく為、ギロチンとの手数での勝負は一進一退。また切れ味においてもギロチンと対等であるらしく、刃を交えた瞬間にどちらの刃も砕け散っていった。しかし、蛇腹剣はそう素直に破壊はされない。何度も言う通り、この蛇腹剣はセラの体の一部、つまりは再生速度もそれに準じており、一瞬のうちに元通りになってしまうのだ。無数にあるギロチンに対し、こちらは不死身の剣となって何度も壊れては、何度も復活を果たしていく。
「恐るべき再生速度、素晴らしい! しかし、それも無限ではありません! 再生すればするほどに、貴方達は着実に消耗していっている! いえ、この時点でもとっても素晴らしいのですが!」
「「それはアンタも同じ事じゃろうが! 白翼の地におる限り、権能自体は使い放題かもしれん! が、結界を作り上げる為に消耗する魔力は全くの別! 先に消耗するのはアンタじゃて!」」
「いいえ、それは流石に慢心が過ぎます! そもそも、その素晴らしい姿がそう長続きするとは思えません! 素晴らしいが故に、それ相応の弱点が存在するものなのです! 本当に素晴らしいと思いますけど!」
「「全く同じ反論をしよう! 久しく本気を出していなかったアンタの体が、これほどまでに強大なパワーを全力で出し続けられる筈がない! 本物の神であった時ならまだしも、今は義体の身じゃろうがぁ!」」
「それでも私は―――」
「「それでも私達は―――」」
―――勝つ。と意気込むのは良い事だが、ここで問題が現実のものとなる。そう、遂に白翼の地に限界がきてしまった。辺境とはいえ、これほどまでの超規模戦闘が地中で起こったのだ。大陸を形成していた大地は著しく変形し、心臓部は木っ端微塵に破壊された。その結果として巻き起こったのは、白翼の地の墜落である。




