第216話 遥か天空での決着
天へと舞い上がる神殺しの矢、そしてその矢を更に押し上げようとする神罰の体現。その一撃だけで世界を滅ぼしてしまいそうな攻撃が、重力に逆らって突き進む流星の如く、不適の王へと迫る。
「「「「「縺上▲縲∽ス輔′襍キ縺薙▲縺滂シ?シ」」」」」
数秒ほど呆気に取られていた不適の王であったが、攻撃を視認する事で我に返る。多くの魂の上に成り立っている形態である為なのか、どうも思考速度はそこまで早いという訳ではないらしい。
「「「「「蟆冗飭縺ェ縺?シ」」」」」
迫り来る矢を脅威と認識したのか、不適の王は再び大口を開けてのエネルギー砲を放とうとしていた。が、しかし―――
「……!?」
―――どんなに魔力を籠めても、どんなに迎撃を試みようとしても、エネルギー砲は一向に出る気配がない。この不測の事態に、不適の王は大混乱に陥ってしまう。
「クフフ、誠に残念ですが、それはさせませんよ」
そんな不適の王の様子を目にして、ビクトールが再び口角を吊り上げていた。あのエネルギー砲は現在、ビクトールの『魔喰』によって食べられている状態にあり、この力で取り込まれてしまった魔法の類は、ビクトールに使用権限が一時的に譲渡されてしまう。つまり、今の不適の王はエネルギー砲が使えない状態にあるのだ。『魔喰』の能力について知っていなければ、今の不適の王のように狼狽してしまうのも、まあ致しかたない事だろう。世界には戦闘中にその力を分析してしまう戦闘狂も居はするが、それはあくまでもレアケースなのだ。
「アハハッ、とんだ初見殺しだねっ! けどレムちゃん、呆けている暇はないよっ!」
「「「「「縺ャ縺?s縺」?」」」」」
セルジュの警告通り、矢はもう膝の高さにまで迫っていた。エネルギー砲が撃てない謎は、未だ解明されていない。したがって不適の王は、より直接的な迎撃手段を選択する。その選択とは、巨体には似つかわしくない俊敏な動きで巨腕を振るい、拳で矢を叩き落とす事だった。
『あの拳、見た目通り頑丈そうですね。セルジュ、貴女の矢は運良く敵の迎撃を躱したりはしないのですか? このままだと激突コースですよ?』
『躱す? いやいや、メルフィーナさんは何を言っているのやら。あの矢、聖殺の鏃が付いているんだよ? そんなまどろっこしい事なんてしないで、神はただただ食い破るのみさ!』
―――ブゥオンブゥオン!
セルジュの言葉に返事をするかのように、やかましい機械音が真上から聞こえてきた。そう、聖殺矢とは聖殺を、無理矢理に矢の形態へと変形させたものであったのだ。ドロシーとの特訓中に聖殺矢を身につけたセルジュは、早速実戦にこの反則技を持ち込んだのである。最早チェンソーの原型は、鏃部分の回転刃しか残っていない。
しかし、その威力と神殺しの性質は本物だ。向かって来た不適の王の鉄拳を真っ向から嚙み砕き、一切勢いが衰える事なく、その内部へと潜り込む。更に後追いで放出されたビクトールのエネルギー砲が、その傷口に容赦なく叩き込まれていった。
「「「「「縺薙?遞句コヲ窶補?補?包シ?シ」」」」」
天を切り裂き、大地を割るかのような叫びが上がる。相変わらずの声量兵器、しかし不適の王の声には、明らかに苦痛の色が混じっていた。更にはそうこうしているうちに、聖殺矢は右腕の根本にまで突き進ん行く。恐ろしいまでの破壊力と速度である。
『……なるほど、これが神殺し。話には聞いていましたが、想像を軽く超えてきましたね。しかし、それ以上に恐ろしいのは、私の溜め込んでいた魔力量です。まさか、これほどまでの魔力に達していたとは…… 我ながら、自分の食欲が恐ろしくなってきましたよ』
『ああ、それについては私も同意しておくよ。日頃の食費の事を考えると…… うん、笑えねぇや。ケルヴィン君も大変だなぁ』
『セルジュお姉ちゃん、この場合に一番大変なのは、調理をするエフィルお姉ちゃんだよ! 今はお休みしてるけど!』
『同じ料理人として、彼女の苦労が窺えますねぇ。その食欲、少しでもセラ様とベル様にもあれば良かったのですが。幼い頃のお二人は小食で、如何に沢山食べて頂くか色々と試行錯誤したものです。ああ、貴女の胃の大きさが羨ましい』
『み、皆さん、戦いと関係のない話を今しないでください! まだ戦闘中ですからね、戦闘中!』
ふと自分の言葉が切っ掛けとなり、食欲についての総ツッコミを食らってしまうメル。流石にちょっと気恥ずかしくなってしまったのか、露骨に話を逸らそうとするのであった。
『あはは、念話が便利でついつい。でも戦闘中とは言ってもさ、もう私達ができる事は全部やったんだよね~。これで倒せなかったら? よし、その時は潔く負けを認めようじゃないか!』
『認めようじゃないか、じゃないですよ! と言いますか、本当に大丈夫なんですか!? このまま腕の中突貫コースだと、矢が敵の肩から突き抜けてしまいますよ!? 腕を破壊するのは良いですか、支配の神にも当てて頂きませんと!』
『も~、ご飯を食べていない時のメルフィーナは口うるさいなぁ。大丈夫だって。私の『絶対福音』はさ、女の子にモテモテにさせてはくれないし、ギルドの総長さんみたいな、攻撃に特化した能力でもない。けどね、あれだけ丹精込めて放った一撃だったんだよ? 今日くらいは期待に応えてくれるって』
そう言ってセルジュは、メルに自らの両手を広げて見せた。彼女の両手はズタズタに引き裂かれており、場所によっては骨が見え隠れしている。目にするだけでも痛々しい、酷い状態だ。
『貴女、その負傷はもしや……』
『もち、さっき聖殺矢をぶっ放した時に負ったやつ。メルフィーナもそうだと思うけど、今の私、魔力がすっからかんなんだよね。この怪我を白魔法で治す余裕もなくってさ。これがいてぇのいてぇのって、洒落にならない感じ? けど、そんな無茶をした甲斐あってさ―――』
空を見上げたセルジュに倣って、メルも視線でそれを追う。
『―――都合の良い事にレムちゃん、あのデカブツの右肩に居てくれたみたい』
二人の視線の先が遥か空の上でぶつかり合った、丁度そのタイミングの事である。遂にあの巨大な右腕を丸々食い破ったのか、聖殺矢が不適の王の右肩より飛び出し、それと同時に気を失った状態のレムが、不適の王の外へと放出されていた。レム自身に矢に射られた様子はないが、その代わりに彼女が持っていたヌイグルミが、聖殺矢の鏃の先に突き刺さって――― 否、鏃チェンソーによって、ズタズタに引き裂かれていた。
「「「「「菫コ驕斐′縲∫ァ?#縺後?∝ヵ驕斐′豸医∴繧銀?ヲ窶ヲ??シ溘??鬥ャ鮖ソ縺ェ鬥ャ鮖ソ縺ェ鬥ャ鮖ソ縺ェ縺√=縺?シ」」」」」
それは最期の断末魔だったのだろうか。魂の器であるレムのヌイグルミが破壊された事によって、不適の王の体もまた、崩壊を開始する。強大過ぎた王の体は、最早指先一つ動く事はない。悲惨な状態にあるヌイグルミの後を追うかのように、不適の王も粉々に砕け散っていくのみだ。
『……あの、支配の神を倒していないようですが?』
『え、何言ってんの? 私が可愛い女の子を殺せる筈ないじゃん。レムちゃん、魔力切れで気絶してるみたいだし、それでもう十分でしょ? デカブツは壊れた事だし』
『いえ、それにしたって…… 何であの破滅的な攻撃を受けて、気絶しただけの無傷な状態で済んでいるのですか? ご都合主義にもほどがありますよ?』
『いやあ、主人公補正様々ってやつ? あ、待って待って! ビクトール、レムちゃんを助けに行こうとしてない!? それ、私の役目だから―――』
―――その後、負傷しているセルジュに代わって、ビクトールが落下するレムを紳士的にキャッチ。狡い狡いとセルジュはこれを猛烈に抗議していたが、シュトラに両手を治療してもらい、最終的にはご機嫌な様子で落ち着くのであった。




