第203話 秘匿された権能
山の方で力強い圧を確認。どうやら、ダハク達が本格的に十権能とやり始めたようだ。これで各所での反応は三度目となる。それに加えて、さっき全身ローブ姿の何者かとドロシーが、地面に潜って行くのがチラッと見えた。多分ローブの奴が十権能で、ドロシーはその後を追って行った流れだと思う。けど、何で十権能は地面の中に? ドロシーもドロシーで人魚っぽい形態に変身して、普通に地面を掘り進んで行っちゃったし…… 普通、人魚なら対応するのは水の中だろ? 何で土の中も対応可能になってんだよ。マジで万能か。
って、それどころじゃなかった。あの謎のローブが十権能となれば、残る十権能はあと二人だけって事になる。一人は未だ行方知れず、反応らしい反応も今のところは皆無。そして最後のもう一人ってのが、十権能の長エルドだ。先行したケルヴィムとそろそろ衝突しそうな予感のする、俺にとっての貴重な敵戦力である。
「一人で楽しむなんてもったいないぞ、ケルヴィム! 俺は共同戦線も嫌いじゃない、むしろ好きまであるぜッ!」
風神脚で上乗せした速度を活かし、俺は奴らの待つ『叡智の間』とやらに急いだ。そこに最上のご馳走がある。なら、急がなきゃ嘘ってもんだ。
太陽光に煌めく建造物群、その中心地に位置するひと際荘厳な神殿に、青春真っ盛りのヘッドスライディングを決める勢いで、俺は頭から飛び込んだ。セーフ、セーフか!?
「よし、まだ戦いは始まっていな、い……?」
そして、俺は見てしまったのだ。 ……裸一貫状態の、そう、文字通り何も衣服を身に着けていない、野生のケルヴィムの姿を。うわぁ、アウトだよぉ……
「おお、おい!? 何でまた裸なんだよ!? ケルヴィム、こんな時に趣味を晒すな! 馬鹿なのか!?」
「は? ケルヴィン、貴様こそ変な誤解をするな!」
何やらケルヴィムが弁明をしたい感じの雰囲気だが、既に俺のテンションはガタ落ちである。おい、マジでどうしてくれるんだ、この憂鬱な気分。
「好き好んでこのような格好になった訳ではない! エルドの権能を食らったのだ!」
「権能だって? ……はい、権能!?」
俺、思わず叫んでしまう。
「こんな時に馬鹿な冗談言うなって! 貸したあの装備、エフィルが作ったもんなんだぞ!? S級装備がそんな簡単に消えるもんか!」
「あったものは仕方なかろう!? 奴に接近した瞬間、装備が全て弾け飛んだのだ!」
「そんな訳あるかッ! 理性が弾け飛んだの間違いだろうが!」
「なければ俺だってこんな格好しておらんわッ! それにだ、バトルジャンキーの貴様に理性云々を言われたくないわ!」
「……フッ、合流して早々に口論とはな。これが我々を裏切った副官の末路なのか、ケルヴィム?」
ふと、何者かが俺達の会話に口を挟んで来やがった。真っ裸のケルヴィムの姿が強烈過ぎて、なかなか視界に入らなかったが…… ああ、居た居た。叡智の間の奥の方に、エルドと思わしき赤髪の男が居た。十権能は皆堕天使だった筈だが、なぜかこいつは普通の天使のような白い翼を展開している。いや、翼の形を模したエネルギー体か? ううん、これを目にした後でも、やはりケルヴィムの格好の方が気になると言うか…… いや、もう何も言うまい。
エルドが有している権能については、神話大戦時代に一度も目にする機会がなかったとかで、副官のケルヴィムさえも知らない状態にあった筈だ。少なくとも、本人からはそう説明されている。だからこそ、何かあると踏んで俺はここへと馳せ参じた訳だが…… 秘匿されていた謎の権能の正体が、相手を裸にする能力だった――― って、おい! 冗談にしたって笑えないぞ!? 十権能の長、お前はそれで良いのか!? いや、まあ確かにそんな能力だったら、人前で披露する訳にもいかないってのは、納得の理由だけれども!
「そう睨め付けてくれるな、ケルヴィン・セルシウス。最低限の挨拶だけでも、まずはしておこうじゃないか」
「いや、挨拶って…… 正直この状況が気になって、挨拶に集中できるか怪しいところなんだけど?」
俺が苦心して選んだ結果、協力者が全裸で敵の能力が相手を裸にするというもの――― おい、いくら俺でも泣くぞ? 流石にそんな状況そんな敵と戦いたくないって……
「フッ、なるほどな。よほど私の権能が気になっていると見受けられる」
「ああ、色々な意味で気になってるよ、ホントに……」
「ケルヴィン、精々気を付けろ。無暗に接近すれば、俺と同じ目に遭うぞ」
「ああ、精々気を付けるよ。これ以上カオスな状況にしたくないしな……」
「……? おい、心なしか戦意が低くなっていないか? 何をやっているのだ、この土壇場で! 貴様は俺が目を掛けた男なんだ! しっかりしろ!」
うん、俺も同じ言葉をお前らに返してやりたい。
一応、ケルヴィムの枷は相手が十権能である時に限り、制約が緩むように設定し直している。よって、ケルヴィムにこの戦いを一任するという手も、あるにはあるんだが…… いいや、ここまで来ておいて、それはないな。血の涙を流してでも、俺はこの戦いに参戦する……!
「悪い、ちょっと呆気に取られてしまったんだ。まさか十権能の長の権能が、相手を裸にするものだったなんて…… 普通、予想なんかできないだろ?」
「俺だってそうだ! エルド、やはり貴様は十権能の長に相応しくない! 潔く俺に敗北し、その座を明け渡すといい!」
「……フッ、何か勘違いしていないか? と言うよりも、まだ気付かないのか?」
「何がだ!?」
「この力について、だ」
そう言って、エルドは白の翼からエネルギーを抽出し、複数の剣を創造してみせた。ん? 待て、この力は、もしかして……
「お前、それはバルドッグの?」
「そう、バルドッグの権能『鍛錬』の能力だ。まさか、ここまで説明する必要があるとは、夢にも思わなかったぞ、ケルヴィム? お前は私が想像していたよりも、随分と頭が鈍かったらしい」
「貴様……! いや、今はそれよりも」
「ああ、エルドがなぜバルドッグとやらの力を行使しているのか、っての方が問題だな」
バルドッグと戦ったセルジュの話によれば、ええと…… 『鍛錬』は周囲の物質をエネルギー体に変換し、新たな物体を作り出す為の材料にする力があるとか何とか。となれば、ケルヴィムに貸した装備が分解されてしまったのも納得がいく。なるほど、そうか。ケルヴィムは趣味で脱いだ訳でなく、エルドの権能もそんなふざけたものではなかった訳だ。フッ…… マジで良かった!
「待たせたな、ケルヴィム。俺の戦意、ただ今満タン状態だ」
「……随分と急だな?」
「仕方ないだろ、急にやる気が出てきたんだ。それと…… おい、エルド。お前の権能、ひょっとしてお仲間の権能をコピーするとか、そんな類の能力なのか?」
「だとしたら、どうする?」
「決まってるだろ? ……最ッ高だよ! クハハハハッ!」
十権能の能力をコピーできる。それはつまり、俺が今まで戦う機会を逃した奴らとも、疑似的に戦えるって事だ! これが最高の展開と言わずして、何と言う!? 『鍛錬』『致死』『支配』『不壊』『魁偉』『間隙』『境界』――― そしてまだ見ぬ未知の力! 俺の選択は間違っていなかった!
「良い闘志、そして人とは思えぬ顔だな。この場にハオが居たならば、お前を心から歓迎していたところだろう」
「この場に居ない奴の話なんてするなよ。これ以上煩悩が増えたら、それこそ洒落にならん。それにだ、そう思うのなら、お前が俺を歓迎してくれ。何、他人の能力を十全に使えるとは思ってはいないさ。その代わり、コピー能力を活かした戦い方をしてくれるんだろう?」
「さて、どうだろうな? 期待しているところ、非常に言い辛い事ではあるのだが…… 私の権能である『統合』は、そこまで便利なものではないぞ?」




