第76話 リオン
「僕からもお願いします! 仲間に入れてください!」
理桜を落ち着かせ、転生させたこと、自分も転生者であることについて詳しく説明する。どうやら理桜は生前から冒険者に憧れていたらしく、話を聞かせていると段々に眼を輝かせていた。これからどうしたいかを尋ね、改めて俺達の仲間にならないか勧誘したところ、即答で受けてくれた。
「もっと考えなくていいのか? 俺としては助かるからいいんだが……」
「ううん、いいんだ。ケルヴィンさんにはとっても感謝してるし、恩返しもしたい! 僕にとっても、ケルヴィンさんに付いていければ安心なんだけど、僕じゃ力になれないかな?」
「そうか。なら、これからよろしく頼む」
右手を差し出し、理桜と握手を交わす。歳に違わず、とても小さく暖かな手であった。続いて、全員の紹介を―――
あ、召喚解除しているんだった。エリィにMP回復薬のおかわりを持ってきてもらう。うう、飲み過ぎで腹がたぷたぷしてきた……
一先ず必要値まで回復し、全員を再召喚。突然の召喚に理桜は何が起こったのか分からず、目を点にしている。
「ええと、あそこで寝ている人は?」
理桜が指差す先にはスヤスヤと眠るセラの姿があった。
ああ、解除している内に眠ってしまったのか。エフィルがクロトから毛布を取り出し、セラにかけているところだ。
「セラだ。眠気に負けちゃったか…… 今日は疲れているみたいでさ、彼女の紹介は明日にでもするよ」
セラ以外の紹介は無事に終える。そうだな、まずはある問題の解決から取り掛かるとしよう。
「理桜、君の名前について少し問題があるんだが、少しいいか?」
「名前? あ、日本人っぽい名前だと異世界じゃ目立つかな?」
「いや、リオと言う名前自体はこの世界でも一般的なんだが、その…… この街のギルド長のおっさんと名前が被ってる」
「……それはちょっと嫌かな」
そうだよね。女の子としては複雑だよね。
「『命名』スキルがあれば名前の変更ができるんだが、それにスキルポイントを割り振るのも勿体ないよな。あれ、青字で表示されるし」
「あなた様、その必要はありませんよ」
「ん?」
「理桜は転生したのです。当然、名前の変更権利も持っています。そして、その権利はまだ使われていません」
「うん。天使さんにも言われたけど、取り合えず保留にしておいたんだ。異世界でどんな名前が使われているか分からなかったし」
「え、転生にそんな権利あるの? 俺の時はなかった気がするけど」
「あなた様は記憶を消される前に変更致しましたから」
ケルヴィンってのは自分で付けた名前だったのね……
「ま、まあこれで問題解決だな! 理桜、どんな名前にする? ちなみにファミリーネーム…… 苗字は貴族や王族しかないものだ。そっちはなくて問題ない」
「んー、それじゃあ…… リオンで!」
「……良い名だと思うけど、あまり変わってないぞ?」
理桜に一文字足しただけだからな。
「僕、よく自分が物語の中に入れたらって妄想しててさ。その中で使っていた名前が『リオン』だったんだ。やっぱり、これがしっくりくるかな」
「そっか。なら、今日からリオンと名乗るといい。 ……と言ったものの、どうやって変えるんだ、メル?」
「ステータス画面を開いて、ご自分の名前の欄を見てください。編集ボタンがあるはずです」
「あ、本当だ」
理桜、もといリオンがステータス画面を開き確認する。無事に発見できたようだ。
「これでいいかな?」
鑑定眼でリオンのステータスを見る。
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リオン 14歳 女 人間 軽剣士
レベル:1
称号 :パーズの勇者
HP :20/20
MP :23/23
筋力 :4
耐久 :2
敏捷 :7
魔力 :4
幸運 :3
スキル:斬撃痕(固有スキル)
剣術(S級)
軽業(C級)
交友(C級)
剛健(A級)
成長率倍化
スキルポイント倍化
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名前は大丈夫だな。それよりも驚くべきはステータス・スキルの高さ、そして倍化スキルを所持していることだろう。これは成長が楽しみだ。
「ああ、ちゃんとリオンになってる。それにしても、倍化スキルは自力で発見したのか?」
「うん。これでも異世界に転生するお話はいくつも読んできたからね。成長率を上げるスキルがあるかもって探してみたら、案の定あったんだ! あとはスタンダードにハズレの少なそうな剣術スキルを極めてみました」
「正解だ。レベル1のうちに倍化を会得しておくメリットはでかい。他にも色々と覚えたようだな」
「あはは、他のスキルはちょっとね…… 生前の苦手意識からって言えばいいかな。ほら、僕って生前体が弱くってさ。死んだ原因も病気のせいだったんだ。それで『剛健』にかなりポイント振っちゃったんだ。『交友』も友達ができるか不安だったから……」
リオンが下を向いてしまう。俺が考えているよりも深く、トラウマとして残っているのかもしれない。
「別に恥じることじゃない。レベルの高い『剛健』は病だけでなく、状態異常にもかかり難くなる。『交友』だって、自分の気持ちを伝えるのに最適なスキルだぞ。要は使いよう、それぞれのスキルをリオンの為に使ってくれ」
「……うん!」
よかった。暗い雰囲気は一掃できたようだな。それじゃ、もう1つ景気付けに言ってやろう。
「では改めて…… ようこそ、剣が鍔迫り合い、魔法が飛び交う異世界へ! 俺達はリオンを歓迎する!」
「―――! リオンです! まだまだ何も分からない新米ですが、一日でも早く皆さんに追いつけるよう頑張ります! よろしくお願いします!」
皆が拍手でリオンを迎える。新たな仲間を無事に迎え終え、ちょうど今日一日が終える時間に差しかかろうとしていた。
……ってことで、もう格好付けなくていいよね? 勢い良く地面に座り込む。
「ご主人様!?」
「何事だ!?」
「ああ、大丈夫大丈夫。正直さ、魔力を使い果たして立っているだけでやっとだったんだ……」
これまでにないほどの倦怠感。思えば、これまで魔力を使い果たす経験はなかった。肉体的に疲れている訳ではないのだが、物凄く眠い。
「クロちゃん、一番効果の高い魔力回復薬を出して」
エフィルの言葉にクロトが保管から秘蔵の回復アイテムを取り出す。そのままエフィルに飲ませてもらう。
「んぐっ、ぷはぁ。生き返った。だがもう飲めん……」
「び、吃驚したよ…… MPがなくなるとそうなるんだね」
「ええ。ですから、リオンも気をつけてくださいね。あなた様、悪例を意図的に出すことで用心を促してくださるとは、流石です」
「そうだったの!?」
「……実はそうだった」
実はそうじゃないけど見栄を張ってしまう悲しい男の性。
「くっくっく…… そうじゃな、流石は王じゃな!」
「お母さん、やっぱりお兄ちゃ、じゃなかった…… ご主人様は凄いね!」
「そうね。でも今は静かにしていなさい、ね?」
メルフィーナのフォローに感謝です。はい。
「さて、そこそこ良い時間帯だ。今日はもう寝るとしよう。リュカ、準備しておいた客室にリオンを案内してくれ。正式な部屋はまた明日決めよう」
「はーい。リオンお姉ちゃん、私に付いて来て!」
「うん、ありがとう。あ、そうだ。ケルヴィンさん」
部屋を出る寸前にリオンが振り返る。
「僕、明日からどんな立場で過ごせばいいかな?」
「ん? 普通に仲間として過ごせばいいと思っていたけど」
「僕みたいなレベル1の新人が行き成りケルヴィンさんの仲間になって、家にまで住み着くって変じゃないかな?」
「あー…… 確かに、他人から見たら相当おかしいか」
下手をしたら変な噂が立つ。そしてリオに目を付けられる。
「でしたら、腹違いの兄妹という設定にしてみては? 遠い異国から兄であるあなた様を追いかけて、パーズまでやってきた妹のリオン。お二人とも、ここでは珍しい黒髪ですし」
「まあ、顔立ちは似ておらんが…… ギリギリいけるかのう」
「確かにトラージではそこそこいたが、パーズではそうそう見ないな。リオンはそれでもいいか?」
「僕もそれで構わないよ! えへへ、僕1人っ子だったから、何だか嬉しいな」
はにかみながら笑うリオン。顔が少々赤いのは気のせいだろうか。
「それじゃあ、おやすみ、リオン。明日から忙しくなるぞ。ゆっくり休んでおけ」
「うん。おやすみなさい。僕頑張るね、ケルにい!」




