表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/1031

第66話 旅立ち

 ―――トラージ港


 邪竜を討伐した翌日、西大陸への出航許可が刀哉達に下りた。出発の準備自体は数日前に既に終わっていたらしく、その足で船が停泊しているトラージ港に行くこととなる。俺達はその見送りだ。


「勇者様! 出航の準備が整いました!」


 トラージの船員が活気ある声で叫ぶ。それに対し、刀哉は苦笑いで返事を返す。


「はは、勇者様は止してくれよ。俺達はただの冒険者、そういう設定だろ?」

「あっ、すいません! 俺としたことが……」

「これから気をつけてくれればいいさ。すぐに船に乗るから待っててくれ」


 船員が船に戻って行くのを見送り、4人はこちらに振り返る。


「ケルヴィンさん、それに皆さん。短い間でしたが、お世話になりました」

「俺が勝手に巻き込んだことだ。礼を言われる筋合いはないよ。それにしても、出航の許可は今さっき下りたばかりだぞ。もう行くのか?」

「本当であれば数日も前に出発していたんです。それに、何時までもご迷惑をおかけする訳にもいきませんから」

「だから別に迷惑なんて……」


 背後にいたジェラールが俺の肩に手を掛け、言葉を止める。


「こやつらなりの覚悟じゃよ。黙って見送ってやれ」

「ふう、一直線なところは結局変わらなかったな…… 餞別だ、受け取れ」


 クロトの保管からある物を取り出し、4人それぞれに投げてやる。


「わっとっと…… ケルヴィンさん、これは?」

「ペンダント、かしら」

「ああ、即席で作った。ま、御守り代わりだと思ってくれ」


 投げ渡したのは各々の属性を模ったペンダント。極小のステータス上昇効果と、もうひとつ秘密の効果を備えた装備だ。使われないに越した事はないが、もしもの時に役立つと思う。鍛冶スキルはアクセサリーに対応していなかったので、トラージの装飾具職人から悪食の篭手でスキルを借りてきた。


「……ツンデレ?」

「雅、お前は最後まで一言多いのな」


 少し気を利かせたらこれである。まあ、それが彼女の持ち味なのだろう。


「わあ…… 私のは氷の結晶の形だ。ケルヴィンさん、ありがとうございます! 大切にしますね」

「ああ、奈々もムンと一緒に頑張れよ。そのドラゴンも、そろそろ幼竜から成竜に進化するかもしれないぞ。リュックに入りきれなくなるかもしれないな」

「ギャウ!」

「もう、ムンちゃん! そんなこと言ったら駄目だよ」


 何と言ったのかは定かではないが、ムンは奈々のリュックの中がお気に入りらしい。車の窓から顔を出す犬みたいだな。甘やかし過ぎは良くないのだが……


「トラージでは気苦労が少なかった気がします。これもケルヴィンさんのお蔭かもしれませんね。この正義馬鹿の性根を叩きのめしてくれたこと、感謝します」

「刹那はこれからも大変だと思うが、気を強く持つんだぞ? あれでも一応はお前ら勇者のリーダーだ」

「はあ…… 頑張ります……」

「何か散々な言われ様だ!」


 しかしながら、刀哉も心身共に成長している訳で。刹那の気苦労も多少は緩和されているんじゃないかな。多少は。


「西大陸で何が起こるか分かりませんが、精一杯やってきますよ!」

「刀哉、お前は頑張る方向を間違えないようにな」

「はは、信用ないな」


 刀哉達には自分の固有スキルの効果を口外しないようにと、徹底して言い付けてある。例え俺達であったともしてもだ。鑑定眼でステータスを見られたとしても、効果の分からない固有スキルはそれだけでアドバンテージとなる。そのせいで刀哉の『絶対福音』と、刹那の『斬鉄権』の詳細を知ることはできなかったが、命に比べれば些細なことだ。


「それではケルヴィンさん、俺達そろそろ行きます」

「おっと、もうそんな時間か。エフィル」

「はい。こちら、簡単なものばかりですが、お弁当です。船の中で召し上がって下さい」


 すぐに出発すると聞いて、エフィルが大急ぎで作った4人分の弁当だ。中には昨日食べたおにぎりやサンドイッチなど、現代風に仕上げている。


「エフィルさん! マジでありがとう! 本当に!」

「神っ!」

「またエフィルさんの手料理を食べれるなんて……!」

「大切にムンちゃんと一緒に食べるね!」


 ブンブンと手を掴みながら礼をする4人。おい、お前ら。俺の時よりも随分素直じゃねーか。特に雅。エフィルの料理が相手では分が悪いのは確かなんだけどさ! 俺も胃袋をつかまれてるけどさ!


「間もなく出航します! 乗船する方はお急ぎください!」


 船員が大声を張り上げ、出航の準備が整ったことを伝える。


「ほれ、乗り遅れるぞ」

「ああっ、急がないと! 皆、走るぞ!」

「わわっ、待って!」


 刀哉達は船の甲板まで走り乗り、手すりからもう一度顔を出した。


「ケルヴィンさん、貴方から教えてもらったこと、絶対に忘れませんからねー!」

「また会いましょうー!」

「今度は勝てるくらいまで強くなって来ますからね! ありがとうございました!」

「上に同じー! 次は負けないー!」


 結局4人は船が見えなくなるまで俺達に手を振り続けてくれた。俺の気紛れに付き合わせただけだってのに、ちょっと罪悪感を感じてしまう。


「ご主人様は本当にお優しいです」

「うむ、奴らも晴れ晴れとした顔付きになっておったな」

「何馬鹿なことを言ってるんだ。酔狂で付き合っただけだよ。そろそろ昼時だ、俺達も飯を食いに行こう」

「もう、照れちゃって」

「照れてない!」


 ……それにしても、西大陸か。リゼア帝国もそこにあるんだったな。


 ジェラールに念話を送る。


『ジェラール、仮に俺達が今、リゼア帝国に喧嘩を売ったら勝てるかな?』

『何じゃ? 藪から棒に』

『お前との契約だよ。ジルドラって奴に敵討ちする約束だろ?』

『ガッハッハ! 覚えておったか、忘れたのではないかと思っておったぞ!』

『こんな大事なことを忘れるかよ』


 そう、ジェラールとの契約はジルドラを倒し、祖国アルカールの敵討ちをすることだった。俺はまだその願いを実現させていない。


『さて、な…… ワシが生きておった時代とはまた状況が違う。ジルドラがまだ帝国に在籍しているかも分からん。それに帝国は西大陸随一の強国じゃった。デラミスと未だにいがみ合っている辺り、力が衰えているとも言えんじゃろうな。いくらワシらが強くなったとは言え、帝国を相手するのは危険じゃよ』

『そうか…… まずは情報収集からだな』

『ワシは別に急いでおらんよ。 ……腹を割って言ってしまえばな、契約した時は無理だと思っておった』

『おいおい、そんなんで俺と契約したのかよ』

『まあ聞け。あのまま城に篭ったままよりは、望みがあると考えていたんじゃ。最初はそんな薄い望み。それが王と旅をするようになって、エフィルが仲間になり、セラが仲間になった。今ではS級モンスターも倒せるまでに至った』


 ジェラールは天を仰ぐ。


『王よ、感謝する。不可能だったワシの望みは、今や実現可能なレベルにまで引き下げられた。契約が成し遂げられた時、ワシは王を真の主と認めよう』

『ああ、それまでは仮の主で十分―――』


 ぐふっ…… セラが背中にのしかかってきた。


「ちょっと、何二人でコソコソ話をしてるのよ?」


 エフィルもローブの袖をちょこんと掴んで顔を見上げる。


「仲間外れは嫌です……」

「わかったわかった! ちゃんと二人にも話すからセラは降りろ! エフィルは悲しむな!」

「ガハハ! 王よ、一先ず食事としよう。話はそれからじゃ!」


 ズンズンと先導するジェラールを追う。セラを背負い、エフィルの手を繋いだまま、仲間の重みを直に感じて。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] うーん。圧倒的に面白い。 [気になる点] 竜は召喚しなくてよかったんですか? [一言] 否定的な意見は無視して頑張って続けてほしいです。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ