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第62話 バカンス

 青い海、青い空、白い砂浜。たまの休息日として俺たちが訪れたのは、トラージの有名観光地である海水浴場だ。最近はギルドからの依頼漬けだったからな、こんな日くらいは仲間達に存分に遊んでもらいたい。


「あ、ご主人様…… ええと、どうでしょうか?」


 水着に着替え終えた俺を迎えたのはエフィルだった。エフィルの白い肌を纏うのは淡い色のワンピース水着。普段肌を露出することがない為か、ほんのりと頬を赤く染めている。恥らう姿が実にグッドだ。奴隷として買った時は痩せ細っていたが、今はほど良い肉付きだ。


「うん、エフィルによく似合ってる。もうこのまま持ち帰りたいな」

「あ、ありがとうございます! でも、まだ海に来たばかりですよ?」


 冗談に対して真面目に返してくれるエフィルもまたいいものだ。


「そういえばセラの姿がまだ見えないな? 一緒に着替えに行ったんじゃなかったのか?」

「セラさんなら先に海へ行かれましたよ。少々興奮気味だったようですが……」

「ああ、そう……」


 セラめ、我慢しきれずに先に泳ぎに行ったな。初めての海で楽しみにしていたとはいえ、着替える時間くらい待っていてほしいものなのだが。


「エフィルさん、集合場所はここですか?」

「胸、圧倒的戦力差……」


 刹那に奈々、そして雅も水着姿でやってきた。何やら雅は自分の胸に手を当て、奈々とエフィルを交互に見ながら思案している。大丈夫だ、君も小さい訳じゃない、控えめなだけだ。ただ、幼い姿とは裏腹にエフィル並にある奈々を比較対象にするのは自殺行為である。一方で刹那は一見細身であるが、日々鍛錬に励んでいることもあり、よく鍛えられている。しかし決して筋肉質という訳ではなく胸もほどよい大きさ…… ってさっきから何考えてんだ。まだおっさん思考になるには早いはずだぞ、しっかりするんだ、俺!


『いやいや、これだけの美少女が水着姿でおるんじゃ。盛りの年齢である王は正常じゃよ。逆に何も思わんかったら心配になるわい』

『……ジェラール、俺の思考を読むんじゃない』


 ジェラールは騎士たる者鎧を脱がないと言う、いつものよく分からない理由で俺の魔力内に居残っている。それならば釣りにでも行ってはどうか、等と色々と提案していたが頑なに断っていたのだ。もしや、これが理由か?


『ふはは、王にとっては眼福じゃろうが、ワシにとっては孫の水遊び姿みたいなものじゃ。どちらかと言うと王を茶化しにきた』

『よーし、海の中に召喚するぞー』

『待てぃ! 冗談じゃ、冗談! ワシ錆びちゃう!』

『安心しろ、海水くらいじゃお前の鎧は錆びないから。沈む可能性はあるが』

『クロト、お主からも何か言ってくれ!』


 ついでながらクロトも俺の魔力内にいる。本当であれば出してやりたいが、前回同様トラージでクロトは表に出しにくいのだ。パーズに帰ったら良い物食わせてやるから、我慢してくれな。


『ほれ、クロトもああ言っておるぞ!』

『はいはい。これの何が面白いのかは知らんが、好きにするといい』

『若いもんの元気な姿を見るのは老いぼれの生き甲斐みたいなものじゃ。まあワシのことは気にせんで、王も楽しむがよい』


 まあ、それでジェラールがリフレッシュできるなら良いけどさ。


「ええ、お待ちしておりました」

「今更ですが、いいんですか? 私たちまでお邪魔してしまって」


 刹那が申し訳なさそうにこちらを窺う。


「気にしないでくれ。こういうイベントは大勢の方が楽しいもんだ」


 俺としても眼福…… いや、何でもないぞ。


「それにしても、この水着という衣類、凄いですね。水でぬれても平気だなんて」


 エフィルは水着に関心があるようだ。俺もこの世界に水着があることには驚いた。何でもトラージ国内の竜海に住む人魚の集落の特産品だそうなのだ。その製法は知られておらず、トラージが人魚を保護することを条件に特別に交易しているらしい。運が良ければ2本足状態の人魚を街中で見掛ける事もあるそうだ。魔法で足を生やすのだろうか?


「色合いは元の世界の水着に比べれば地味だけど、それ以外は遜色ないよね」

「謎の技術」


 見ての通り、例の勇者達も今回一緒に海へ来ている。まあ一風変わったアジトでの顔合わせではあったが、このトラージで会ったのも何かの縁。という訳で、お互い交流を深めることにしたのだ。ただし……


「ケルヴィンさん、置いていくなんて酷いじゃないですか!」

「……いや、すまん。早く海を見たくてさ」


 刀哉、お前の『絶対福音』は要注意だ。何かあっては手遅れだと考え、刀哉よりも先に集合場所へと来てみたが、案の定エフィルが一人で待っていた。これがラブコメ漫画であれば、刀哉がどんなトラブルが起こすか分かったもんじゃない。実に危険だ。このバカンス、悪いが常時察知スキル全開でいかせてもらうぞ。


『そこまで気合入れんでも大丈夫じゃと思うがのう』

『やるからには万全を期す』


 全員集合し、決意を新たにしたところで一行は海辺へと向かう。すると、仁王立ちで待ち構える人物がいた。


「ケルヴィン! 泳ぎ方が分からないわ、教えて!」


 ビキニを着込んだセラである。ボン、キュ、ボンを地で行く見事なそのスタイルは実に刺激的、すれ違う男は全員が振り返るだろう。雅がこれまで以上に絶望した表情をしているほどだ。真赤なサイドポニーを海風でなびかせながら、やけに自信満々な表情で俺たちを待っていた。しかし、水着は若干海水でぬれている。さてはちょっと海に入って諦めたな。


「セラ、なぜそんな状態で海に単身乗り込んだ……」

「慢心していたわ!」

「ご主人様、恥ずかしながら私も……」


 エフィル、お前もか。でも恥ずかしがっている姿が可愛いから許す。


「刀哉、悪いが二人に少し泳ぎを教えてくる。まずは4人で海を堪能していてくれ」

「それなら、俺も泳ぎ方を教え―――」

「「駄目だ(よ)!」」


 俺と刹那の叫びが重なり、木霊する。ふと思ったが、刹那はいつもこんな苦労を背負っているのか。彼女も普段から苦労しているんだな……


 ちなみにセラは5分も経たずに泳ぎをマスターし(ほとんど教えてない)、バタフライで海を爆走。今更だが翼の抵抗は大丈夫なのだろうか? エフィルも帰る頃には人並みに泳げるようになっていた。危惧していた刀哉の絶対福音の影響も見られず、最高の休暇となったのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 水着会をダラダラやらないのは好きだわ〜 ハーレムモードになって何話も続くとだれるのよねー あ、でもまたたまにやってくれてもいいんですよ?
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