第286話 魔力超過
―――英霊の地下墓地・第6層
『おいおいおい! お前、俺の話ちゃんと聞いてた!? 頭を使えって言ったよね、頭を!』
玉砕覚悟の鉄砲玉のように一直線に光竜王に向かうダハクと、巻き添えを食らう俺。当然ながら抗議のひとつも上げたい訳で、念話にて物申しているところだ。独力で敵わないのであれば、徒党を組むなりして敵を打破する策を練れば良い。が、誰が単独で突撃しろと言ったよ!
『俺なりに頭も使ってるッスよ。いつかは夢見た竜王打倒。この時の為に俺らはクロト先輩の指導の下、苦しくも辛い血反吐を吐く鍛錬をしてきたんス。ケルヴィンの兄貴やジェラールの旦那に知られぬよう、言わば秘密の特訓ッス!』
クロト先輩! 噴水でプカプカと遊び戯れているのかと思ったら、分身体でそんなことしてたんスか!
俺の驚きへの返事なのか、ローブの中でクロトがプルンと震えた。
『本来であれば突破口を開くのはボガの仕事なんスけど、スピードが倍加したんならいっちょ俺が行くっきゃないっしょ! それに兄貴が付いて来てくれりゃあ、それこそ怖いもんなしッスわ』
『だからって俺を道連れにするなって……』
『何言ってんスか。兄貴は普段からこう言ってます。戦いにおいて、利用できるものは全て利用しろと! それに兄貴が戦闘に介入せずに我慢できるなんて全く思ってないんで!』
『それは、うん、まあ……』
―――否定できない! それどころか否定したら皆に心配されてしまう。たぶんガウンでやられたような集中治療を準備されてしまう。
『姐さん方に聞いたッスけど、あの半人前の勇者との戦いもリオンお嬢に譲ったらしいじゃないッスか。 ……病気ッスか? 何か変なものでも食ったんスか?』
『お前、俺を何だと思ってんの?』
『『『『『え?』』』』』
ほらー、ここにいない面子にまで疑問に満ちた返答を返される始末だ。そんな反応されちゃうと我慢するのも馬鹿らしくなってしまう。
『……とどめを取られたからって、後で泣きつくなよ』
『分かってますって! じゃ、行くッスよ!』
ダハクが更に加速する。
「主を乗せて正面からとはまた豪胆だ、なッ!」
煌く光。光竜王による息吹の迎撃。まあ、何もせず見過ごす筈もないよな。威力が最初のものよりも増している。あれが全力ではなかったという朗報に喜びつつ、どう対処するか考える。ダハクは速度を落とさないところを見るに、避ける気はないらしい。まあ、あんな極大の光線を避けるのも難儀な話なんだけれども。
『あくまで正面からか。で、どうやって防ぐつもりだ?』
『さっきの通り、俺の腐敗の息じゃ太刀打ちできやせん! ってことで兄貴の出番ッスよ。やっちゃってください!』
お前…… 何て主想いな竜なんだ。特訓の成果はどこに行った、ならば事前に言っておけと述べたくもなったが、ちょっと感極まってしまった。戦略的にはNGなんで後で叱りはするけどな。
だがあの息吹は強力だ。下手をすれば螺旋護風壁をも貫く威力を有している。だとすればこちらも迎え撃つしか方法はないのだが、魔法の詠唱にかける時間もそれほどない。大風魔神鎌で真っ二つにするのが最も手っ取り早いが、ちょっと間に合いそうにないな。思考は追いついても、杖に施し振るうまでの行動が追いつかないんだ。
『……実践で使うのは初めてになるか』
『何がッスか? ってか、そろそろお願いします! マジで!』
眼前に迫る光竜王の息吹を前に、ダハクが急き立てる。だから急かすくらいなら前もって言えと。
『俺の固有スキル『魔力超過』がだよ』
『えっ? ってやばいやばい!』
高速で会話できる念話でさえ焦り出すダハクは置いておき、俺はそう言いながら即時唱えられる魔法を組み出す。今の俺であればB級程度の魔法であれば、即時に放つことができる。できるが、アレを撃退するにはもう一歩も二歩も威力が足りない。そこで今回お披露目となるのが俺の『魔力超過』だ。
通常、魔法の威力は発動者の魔力とその魔法を使用するに当たって消費したMP量で決定される(メルフィーナ談)。発動者の魔力はそのままの意味だから分かりやすいだろう。ステータスに表記されているあの魔力の数字のことだ。
ここで重要になるのが後者の消費MP量。魔法にはその種類によって多少の差異はあるが、基本となる必要消費MP量が各々決まっている。例えばF級緑魔法【風刃】であれば必要消費MPは2になる。そしてそして、この消費MPはその詠唱者の魔法の熟練度によって消費するMPをかさ増しさせることができるのだ。俺が時たま余計に魔力を使っていた理由はこれに起因する。
だが、一言に消費量を増やすと言ってもこれは並大抵のことではない。剣術で言えばスキルの『剣術』に頼らない地力の部分を上達させる行為であり、微々たる消費量を上げるとしても扱う魔法への理解を深め繰り返し詠唱し、そういった地道な努力の上に漸く成り立つ代物。高名な魔導士でも会得する魔法スキルの種類が多くとも2、3個なのはこの為でもある。
「煌槍Ⅱ」
俺が選択したのは煌槍。ビクトール戦から世話になっている古参の魔法だ。使い慣れた白き光の槍は一直線に極大の息吹に向かっていく。
「光を司る崇高なる我を相手に白魔法で、それもB級の煌槍で対抗だと!? 舐めるでないわっ!」
怒りで攻撃が更に強化されているのは嬉しい誤算だな。まあ、お怒りはご尤も。規模の開きは一目瞭然、奴が放つ攻撃に対して俺の煌槍はあまりに貧弱に見えるのだ。その力に誇りを持つ光竜王の目からしてみれば、俺がふざけているように映っているのかもしれない。
「舐めてねぇよ。敬意を払った上での攻撃だ。受け取れ」
「―――ッ!?」
衝突する光と光。対立するものと比較して小さく、か細かった光の槍は――― 巨大な光の束を蹴散らしながら光速での前進を続ける。先端の中心部から抉られ四散する光の残滓。それらが部屋中に撒き散らされてある種無差別攻撃となっているのだが、そこは弓の名手であるエフィルが全て迎撃しているので安心だ。ムドファラクの撃ちたそうな気持ちが意思疎通越しに伝わってくるが、攻撃倍化の温存の為かこれには参加していない。
「何だ、今度は避けなかったのか」
「ガアアアァァアァァ!」
苦痛に耐える光竜王の右肩には大きな穴が開いていた。大き過ぎるが為に右腕は腋の部分で皮一枚のところ繋がり、殆ど死滅している状態。息吹を全て粉砕した煌槍が、そのまま奴を貫通したのだ。
「グアア……! ば、馬鹿な。何なのだ、この力は!?」
いくら使い古したと言えど、俺の限界までMP消費を高めた煌槍もここまでの威力は出せない。ならばなぜ、ここまで規格外の威力を出せたのか? ……ああ。お察しの通り、固有スキルである『魔力超過』のお蔭だ。普通であれば自ら突破しなければならないMP消費量の壁を、このスキルは無条件で取っ払ってくれる。それこそ、俺のMP残量が許す限り威力を高めることを可能とする。今使用したⅡは威力を2倍にまで押し上げた魔法に銘うったもの。その効果はご覧の通りだ。上手く使っていけば、低級の魔法も上位以上の効果を発揮してくれそうだ。
「困惑してること悪いが、足元にも注意した方がいいぞ?」
「何を―――」
狼狽しつつも光竜王がチラリと足を見る。今更見たところで遅いんだけどな。
―――ぎりっ。
奴の両足には部屋の床より芽生え、生長仕切った強靭な植物が絡みついていた。それは巨人の手のように、がっちりと掴んでいる。当然、犯人はあいつしかいない訳で。
「捕まえたぜぇー! 墜ちろやぁー!」
ここ一番とばかりに気合いの入った叫びを上げ、掴んだ足を引っ張り地上に光竜王を落下させようとするダハク。虚を突かれグンッと振り落とされそうになる光竜王であったが、流石は種の頂点か。翼を羽ばたかせ、傷口から血を流しながらも堪えている。
「この程度で、崇高たる我は―――」
「重風圧Ⅱ」
「ビクともおぉぉぉぉ……!?」
おー、見事に墜落したな。ここ最近効果の薄い日々が続いていた重風圧も再び日の目を見る機会が増えそうだ。




