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第280話 代償

 ―――英霊の地下墓地・第8層


 白銀が散りばめられた荘厳なる佇まい。灯火は淡く、だがそれにより形成される影とのコントラストが神々しい。英霊の地下墓地第8層、ダンジョンと言うよりは神聖なるものを崇める神殿といった表現が違和感を感じさせないこの階層でも、凶悪なモンスターとの戦闘が繰り広げられていた。対するは、ケルヴィンの召喚術によって一行の先頭を走っていたメルフィーナとジェラールである。


「「「うおおおおーーー!」」」


 語弊があるとするならば、出現するモンスター達がどう見ても人間、或いは亜人種であることだろう。種族、装備、階級――― 何もかもが統一されていない騎士らが目を血走らせながら襲撃を仕掛けてくる。例えるならば名高き騎士団の実力者が補助魔法の支援を惜しみなく受け、自らの命を顧みずに突撃する様に酷似している。更に第3層がそうであったように、倒しても倒しても湧いて出る。そのような死地にて剣翁と微笑の2人は―――


這い寄る氷フロストバウンド

「ハァ!」

「「「ぐぎゃっ!」」」


 大して苦戦することもなく順調に歩みを進めていた。突貫する騎士らの足をメルフィーナが氷漬けにし、ジェラールが一太刀にて複数の敵を両断する。先ほどからこの単調作業のみで事を終えてしまっている。


「ふははははっ! 姫よ! ワシ、今輝いとるっ?」

「ジェラールはいつも輝いているではないですか。孫らに囲まれて」


 高笑いを決めるジェラールは自身のスキル『栄光を我が手に』の効果により、敵にダメージを与え倒すほどにステータス値が補強されていく。おまけに敵が随時追加されていくものだから、その効果時間が尽きる心配もないのだ。ここ暫くはジェラールによる無双が続いている。


「しかし、妙ですね」


 情勢は快調も快調。問題は何もない筈であったが、メルフィーナの表情は曇っていた。


「何がですじゃ? 特に苦戦する節もないが」

「このダンジョンに出現するモンスターは、アンデット系統で統一されていたと記憶しています。ですが、この階層に現れる彼らには生気があり、正気ではありませんが強い生命力まで感じられるのです」

「むう、言われてみれば確かに―――」


 ジェラールが魔剣を振るい敵を鎧ごと叩き斬る。直後に溢れ出る鮮血は赤く、ゾンビやグールのそれと比べても濁りがない。戦いに無頓着な素人が見ても、鮮度が段違いであることが分かる。


「これでは普通の人と変わりがありませんな」

「……まあ、考えても仕方がありませんね。答えは奥にあるでしょうし」


 敵を殲滅しつつ、迷路のように入り組んだ回廊を上へ下へ。この階層だけでも一般的なダンジョンが丸々納まってしまいそうだ。陣を構え大盾で通路を閉ざそうとする騎士の集団を一撃のもとに薙ぎ倒したところで、ふと、メルフィーナとジェラールが立ち止まる。


「それよりも残りの人質・・・・・の救出を優先致しましょう。確か、孤児院でお会いしたシスター・アトラとシスター・リーアがまだでしたね」

「うむ。王から名前と共にその容姿も送られてきておりますからな。ワシでも一目で分かるじゃろうて。セラとアンジェの察知能力により大よその居場所も見当が付いておる。して、ここがそのひとつな訳じゃが」


 漆黒の兜を見上げさせ、上方を向くジェラール。剣翁が話すこの場所とは、枝分かれした回廊の先に存在する広々とした部屋である。次の階層に向かうのであれば、行き止まりであり外れのルート。ダンジョンのマッピングはアンジェらの解析によって10層を除く階層が既に終えられており、配下ネットワークにアップされている。あえてこのルートを選んだのは、上層でケルヴィンらが救出した反対派の人質の中にはいなかった、2人のシスターを助け出す為だ。


「8層に捕らえられていたのは…… シスター・リーア、でしたか」


 部屋の奥の壁には巨大な十字架が掲げられ、そこにはシスター・リーアが吊るされていた。幸い外傷を負っている様子はなく、意識を失っているだけのようだ。吊るされてから落としたのか、眼鏡が真下の床に落ちている。こちらは無事ではなかったらしく、レンズの片方が割れてしまっていた。その左右にはデラミスの国章が施された純白の棺が安置されている。


「ほう、セラに勝るとも劣らないのう」

「何がですか?」

「いや、何でもないのですじゃ。この気持ちはワシと王にしか分かるまいて」


 真面目な顔(のような雰囲気)で言い切るジェラールに、メルフィーナはそれ以上の追及はしなかった。理解できなかったのもあるが、2人の目の前、シスター・リーアが吊るされた十字架の前に、ある人物がいた為だ。


「いやはや、予想以上に余裕そうですね。メルフィーナ様?」


 灯火の当たらない影の中から現れたのは、地上の大聖堂にいた筈の枢機卿、マルセル・ゴッテスだった。デラミスで初めて出会った時と同じ祭服、同じ赤のストールを肩に掛け、変わらぬ笑顔を携えている。何よりも世間的にはケルヴィンの仲間の認識であったメルを、転生神であるメルフィーナと捉えたような発言は警戒するに値した。


「ワシも耄碌したかのう。眼前にマルセル枢機卿がいるように見えるが」

「安心してください。私も同じように見えますよ。 ……枢機卿マルセル。地上の貴方は偽者で、本物の貴方も反対派の一員だったのですね?」

「惜しいですね。半分正解、半分不正解といったところでしょうか」


 マルセルは思い悩むような仕草で口に手を当てる。


「まず、大聖堂で反対派と対峙していた私は本物です。でなければ私如きが用意する偽者など、S級の『鑑定眼』を持つケルヴィン様に見破られてしまいますからね。残念ながら方法までは申せませんが……」


 マルセルと反対派が大聖堂にて口論していた頃、ケルヴィンは塔よりエフィルの『千里眼』を借りて共に監視していた。マルセルが言う通り、影武者でも置こうものなら直ぐ様に暴かれてしまうだろう。


「次に私が反対派か否かの件ですが、率直に申しますと違います。ただし、協力は致しました。孤児院周辺や英霊の地下墓地の警備が薄くなるよう仕向け、反対派が動きやすくなるように」

「それでは反対派だと言っているようなものではないか?」

「私は立場的に説明が難しいところにおりまして…… しかし孤児院の子らを攫い、あまつさえ殺害しようともした彼らは許されざる存在です。エレアリス様のみを妄信し、必要ともあれば無害な人々までも巻き込む集団。そのような輩、神の信者として相応しくない。内外問わず、要らぬ反発を招くだけですから」

「……貴方の目的が見えませんね。なぜそのような情報を、わざわざ教えるのです?」

「私のことなどお気になさらず。私もまた反対派に加担した身、同様に許されざる者なのですから」


 ゆっくりとした動作でマルセルが懐に手を入れると、ジェラールは魔剣を構え直し、メルフィーナの瞳が鋭くなる。


「最後に、私からもひとつ伺いましょう。未だ人質として残された修道女がいると言うのに、正面から向かって来た理由を。私が彼らと同じ反対派であったならば、彼女は殺されていたかもしれませんよ?」

「……反対派が所持していた通信機の使用範囲は、精々がこのダンジョンの2層3層を跨ぐ程度の距離だと分かっています。反対派が陣取る2層から発信したとしても、この8層にはとてもではありませんが届きません」


 発信機の特性についても、監視の際にケルヴィンの『鑑定眼』で調査済みであった。


「詰まるところ反対派とは別勢力である可能性が高い。反対派が子供のみを誘拐したのに対し、そちらも別途シスターを攫ったのでしょう。人質としてではなく、私たちを誘う為の餌として」

「ですが、それもあくまで推測の話では?」

「そうですね。ですが、時間を掛ければ掛けるほどに状況は緊迫していきます。そうなれば、恐らく教皇は人質を見捨てる決断をしていたでしょう。それならば現実を見据えた方法で、1人でも多く助けられるよう行動した方が良いとは思いませんか?」

「……ああ、安心致しました。我らの神は慈悲深いお方だった。いつしか俗世に塗れ、権力闘争などに加わってしまった私などに、こうして声を聞かせて頂ける。巫女様、貴女が心酔する理由が分かった気がします」


 メルフィーナなりのフォローを交えて答えているが、実際のところはケルヴィンによる出たとこ勝負な面が多い作戦であった。1層2層は兎も角、最下層近くにまだ人質がいると知った時は女神様としても冷や汗ものだったのだ。最短最速での救出が最悪の事態を招かなかったことに、実際のところ内心ホッとしている。しかし絶対に確実な手などもない訳で、召喚術を用いたショートカットが現実的な手であることに間違いはない。


「メルフィーナ様。貴女方であればこの程度、造作もなく切り抜けると信じております」

「……っ」


 ―――ドサッ。


 マルセルが自身の心臓に杭を突き立てる。予想外の行動に、流石のジェラールとメルフィーナも目を丸くする。


「……古の勇者よ。眠りより覚め、神を討ち果たせ」


 棺の蓋棺が解かれる音がした。

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