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第228話 ダンジョンでひと暴れしようぜの会

 ―――ガウン・大通り


「号外! 号外だぁー! 獣王祭決勝の組み合わせが決まったぞー!」


 決勝トーナメントの第1戦・第2戦の終了後、ガウンの街中はその知らせで血気盛んに湧いていた。新聞屋が逸早く刷った記事がばら撒かれ、獣人の誰もが我先にと手に取ろうとする。老若男女問わず、ガウンの人々はその結果に興味津々なのだ。皆決勝の予想外な組み合わせに目を丸くしているのはご愛嬌と言ったところか。


「それにしても決勝は明日だったのか…… てっきり今日中にやるもんだと思ってたよ」


 そんな中、人混みを避けるように大通りを迂回するはケルヴィンらであった。記事の当事者である為に下手に見つかっては騒ぎになると、ケルヴィンは智慧の抱擁アスタロトブレスのフードを深めに被っている。セラやジェラール、アレックス、ダハクは存在自体が目立つので魔力内に戻し、たらふくご馳走を食した影響で眠くなったメルフィーナも魔力体となってスヤスヤと暢気に眠っている。エフィルとリオンも街中を歩けば誰もが振り返る程に卓抜した容姿であるが、『隠密』スキルで存在を薄くしているので多少なりは平気だ。後はケルヴィンの背におぶられたシュトラ、その後ろを歩くメイド達とアンジェくらいなもの。 ……十分に目立つ逸材ばかりであるが、号外に獣人達が夢中になっているこの状況に助けられた。


「決勝戦と命名式はセットでやるのがガウン流かな。明日は明日で一般席は別のチケットで入場料取るらしいけどね」

「商売っ気満々だな、獣王。いや、それでも満員になるんだろうけどさ……」


 アンジェの答えにやれやれと溜息をつくケルヴィン。いくら闘技場が広くとも、国中の獣人を収容することはできない。この様子だとチケットを購入するのも至難の技、今夜から徹夜で並ぶんだろうかと考えてしまう。


「う、ううっ…… グスッ……」


 不意にケルヴィンの背から少女のくぐもった泣き声が聞こえた。その声の主はケルヴィンに背負われたシュトラだ。ふるふると体を僅かに震わせ、ケルヴィンの黒ローブに顔を埋めている。


「元気だせよ、シュトラ。俺たちお前の助言で凄く助かったんだからさ」

「だ、だってぇ…… 結局、何にも分からなかった、もん……」


 シュトラは今日の決勝トーナメントが終わってからずっとこの調子であった。役に立ちたい。気持ちを新たにして臨んだ試合だったのだが、これまでとは一味も二味も異なる次元の戦いに、彼女はついて行けなかった。ケルヴィンやジェラールが横から解説を入れてはいたが、直に見るのと間接的に聞くとでは見えてくるものも違ってくる。単純にシュトラのレベル・ステータス不足が原因と言えば、それまでのこと。だが、それが彼女の心を痛めていたのだ。


「シュトラ様、どうか悲しまないでください。決勝トーナメントの試合ともなれば、目で追えないのが普通なのですから」

「でも…… ロザリアやフーバーはちゃんと見てた……」

「ロ、ロザリアは兎も角、私なんてホントにギリギリですから! 自分が戦うとなれば、あんなのついていけませんよ! 瞬殺されちゃいますもん!」

「……グスッ」


 お付のメイドであるロザリアとフーバーが何とか慰めようと奮闘するも、シュトラは俯いたままだ。


(なあ、記憶がなくなったからってレベルが低くなった訳じゃないんだろ? 仮にも暗部の将軍だった割には、アズグラッドと比べてレベルが低過ぎるんじゃないか? スキルポイントも全然使ってないし)


 ケルヴィンがロザリアに耳打ちする。鑑定眼で覗いたシュトラのレベルが14と低かったことが、以前から疑問だったのだ。それに加えスキルポイントの残りは文句なしに高いのだが、必要最低限にしかスキルを会得しない徹底振り。アズグラッドと同様に凄まじい才能はある。しかし、これでは宝の持ち腐れだ。


(本来であればシュトラ様はトライセンの姫君、将軍の役職には就く筈のないお方でした。西大陸の学園に留学する以外では滅多に城の外に出る事もありませんでしたから、モンスターを相手にした戦闘経験も少ないのです。しかし、シュトラ様の頭脳は一度見たものは決して忘れない程に天才的なもの。黙っていても何かしらの功績を打ち立てていたでしょうが、そのまま腐らせるには惜しいと、先代のトライセン王が配慮したのが暗部将軍就任の始まりです。スキルについては、本人に聞いてみないと何とも……)

(一度見たものは忘れない、か)


 世界にはそんな人間もいると、ケルヴィンはどこかで聞いたことがあった気がした。それが魔王により記憶を失ってしまうとは、世の中とは皮肉なものである。


(ならさ、シュトラのレベルを上げることは別に禁止してないんだな?)

(してはいませんが…… 先ほども言いましたが、シュトラ様は大切な姫君なのです。不必要に危険を冒すのは推奨できません。ましてや今はこの御姿の精神状態ですし)

(……アズグラッドも一応、大切な王子だろ)

(アズグラッドはいいのです。ご主人様と同じタイプで言っても止まりません。戦馬鹿ですから)

(………)


 この扱いの差に同情していいのか、それとも自由奔放に生きれて良かったなと言ってやればいいのか、少し迷うケルヴィン。間接的にケルヴィンも貶されているのだが、それはもう否定のしようがないので開き直るしかない。しかしその話は別にして、ケルヴィンには『経験値共有化』がある。これを利用すれば危険を冒すこともなく、シュトラのレベルを上げることも可能だ。要はエリィやリュカの時と同じ、セラ達が好き放題暴れるパワーレベリングである。もちろん戦闘に参加するのならば、それ用に別途訓練をする必要はあるのだが。


「シュトラ」

「……ん」

「シュトラが望むなら、俺たちがお前を鍛えてやる。あの試合内容が自力で理解できる程度までは保障するよ」

「お兄ちゃんが? ……本当に?」

「ああ。もちろん、シュトラにその気があればの話だけど―――」

「やるっ! 私、もっともっとできることを増やしたい。それでね、リオンちゃんやお兄ちゃんのお手伝い、もっとしたいもの!」

「お、おう…… なら、獣王祭が終わったら、どこか手頃なダンジョンを探さないとな」


 シュトラは顔を上げ、ケルヴィンを気後れさせる勢いで直ぐ様答えた。どうやらお姫様は向上心の塊のようだと、ケルヴィンは苦笑いしてしまう。その後ロザリアとフーバーにジト目で迫られるも、リオンとエフィルの協力もあって何とか『経験値共有化』に触れずに安全性を説くことに成功。第2回ダンジョンでひと暴れしようぜの会が予定されるのであった。


「おー、シュトラ様やる気だなぁ。よーし、お姉さんも勇気出しちゃおうかな! エフィルちゃん、私頑張ってやってみるよ!」

「……? ええと、はいっ! 頑張ってください!」

「うんっ! よーし、エフィルちゃんのゴーサインも出たぞっ!」


 突然のアンジェの宣言に意味も分からずエールを送るエフィル。こちらはこちらで噛み合っていなかった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 ―――ガウン・宿


 その後落ち着いた場所でセラ達の再召喚を済ませ、アンジェと別れて宿へ戻る。屋敷の風呂には劣るが、高級宿なだけに温泉付きだ。セラは逸早く温泉に浸かりたいと飛んで行き、機嫌を直したシュトラ姫率いるチビッ子ら(リオン含む)もそれに続く。色々と不安なので引率役にエフィルらメイド組も向かわせた。


『えへへぇ、まだ腹八分目ですってぇ……』


 俺の魔力内でご機嫌な寝言をかますのはメルフィーナ。こいつに至っては未だ起きる気配がない。闘技場料理人の死屍累々の姿を見る限り、好き放題飲み食いしたのだろう。そりゃご機嫌だ。


「それにしても、流石に疲れたわー……」


 宿のソファに腰掛け、腕を伸ばす。今日だけでジェレオルにグロスティーナ、そして獣王と戦闘三昧であった。毒が回るわ大量出血するわと、大変充実した時間でした。満足。


「明日はセラとの決勝か。近接戦主体の模擬試合じゃオール黒星だからなぁ。試合前にどれだけ準備できるか……」


 俺が頭の中で考えを巡らせていると、宿の従業員が小走りに近づいて来るのに気が付いた。


「ああ、ケルヴィン様。こちらにいらっしゃいましたか。実はお手紙を預かっておりまして……」

「手紙?」


 受け取った手紙の封は2通だった。ひとつは可愛らしい封筒、もう片方はどこかで見たことのある豪華な封筒。いや、これS級昇格試験の時に獣王から貰った手紙と同じだろ。嫌な予感しかしない。


「それでは私はこれで……」


 従業員の獣人はそそくさと去って行ってしまった。


「もう片方は…… アンジェから?」


 薄い桃色の便箋には今夜の22時に裏口から闘技場に来てほしい、伝えたいことがあるとの内容が書かれている。わざわざ何だろうか?


「……問題の豪華な封筒こっちはどうするか」


 見るからに罠の臭いが漂っているが、仕方ないので開封。内容は今夜22時に城まで来てほしい、伝えておきたいことがあるとの内容―――


「ダ、ダブルブッキングだと……!?」

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