第174話 囚われの姫
―――トライセン城
一体どれ程の敵を薙ぎ倒しただろうか。空を舞うダハクから飛び降りて随分な時間が経った気がする。エフィルが本城に開けた城壁の穴へ飛翔で位置調整を行いつつ、狙い通りに侵入を果たした俺は最上階を目指して駆け巡っていた。
セラが記したマップを参考にトライセンのお姫様を探索しながら進むが、トライセンの本城だけあって兵の護りは厚い。城を破壊しない程度に加減しながら蹴散らすのも一苦労だ。それらしい場所であるお姫様の私室なども確認はしたが、どうもお姫様は見当たらない。複雑な施錠と高位の結界が施されていたので少しは可能性があると思ったのだが、あったのは熊のヌイグルミなどの可愛らしいファンシーグッズの山であった。
(まさか、これを隠す為に? ……そんな訳ないか)
暗部の将軍と聞いていたのだが、大分イメージが違う気がする。それよりもお姫様はやはりセラの察知が唯一及ばなかった区画、この城の最上階にいるようである。探索を再開し、時折エフィルの支援を受けながら王座の広間にて隠し通路を発見するも、このとき城の外で強大な気配を察知してしまう。
『……メルフィーナ。俺、選択間違ったりしてないよな? 外の敵が魔王より強いってことはないよな?』
『大丈夫です。たぶん、おそらく?』
おい、最後絶対疑問系だっただろ。メルフィーナ先生、物凄く不安です。セラ達が死闘を繰り広げたという白狼とも戦えなかったし、これで魔王が外れクジだったら俺泣いちゃうよ?
『このレベルの力を持つ者がポンポン出てきているのが異常なんです。ほら、あなた様。外に出るようですよ』
メルフィーナが言葉通り、通路の先は外へと通じていた。最上階のすぐ近くまで登って来ていたらしく城内を、それどころか城下町まで一望できるテラスだ。国王であるゼルはここから自分の国を見下ろしていたのだろうか。城の東側である混成魔獣団本部では青色の超巨大なゴーレムとダハク、ボガが組み合っている。俺の闘争心とゴーレム生成意欲が刺激される。ああ、泣きそうだ……
いや待て、冷静に考えて何あれ!?
『ケルにいー!』
ふと、リオンからの念話を受け取る。俺が通ってきた道の向かい側からだ。そちらにも同じような通路がある。一応マップを確認する。うん、やはり向かいの道から反応がある。念話でエフィルに連絡し、あの巨大なゴーレムについて一任しておく。
「あっ! やっぱりケルにいだ!」
「ハァ、ハァ…… ふひゅん……」
満面の笑みのリオンに抱えられ息絶え絶えのコレット、後を追って相棒のアレックスが通路の曲がり角から姿を現した。どうやら別ルートからここに到着したようだな。アレックスの護衛があるとは言え、コレットを抱えたまま俺に追いつくとはやりおるわ。しかしコレットは大丈夫だろうか? ふひゅんとか言ってるぞ。
「リオンもここに来たのか」
「うん! コレットが転移門を起動して、デラミスの兵隊さん達とアズっちが率いる竜騎兵傭団がパーズから援軍に来てくれたからね。本城からの援軍に敵兵さんは大混乱、プリティアちゃんも囮役を終えて遊撃として動いている筈だよ。僕は僕で強そうな人を探して本城を探索していたんだけど―――」
「―――もうそれらしいのが最上階にしかいなかった訳だ」
「あははー、出遅れちゃった……」
肩を落とすリオンを撫でつつ、城の最上階に続く大階段を見上げる。階段は俺とリオンが通ってきた通路を向かい合わせて丁度真ん中にあり、マップを確認する限り最上階へはこのテラスからの道しかない。今のところ向こうから動く気配もないようだ。
「それで、どうしてコレットも連れて来たんだ? 流石に魔王との戦いに巻き込む訳にはいかないぞ。 ……それ以前に体調悪そうなんだが」
「だ、大丈夫です。一度出して大分楽になりましたから。精神的には万全です」
とは言うものの、リオンから降りたコレットの足は産まれたての小鹿のようである。このままでは不憫なので大回復と爽快を唱える。MPが枯渇している訳ではないようだから、MP回復薬はいらないかな。っておい、なぜ回復した傍から鼻血を出すっ!?
「コレットを連れて来た理由なんだけど、お姫様対策と言うか安全確保の為、かな?」
「安全確保?」
お姫様の説得でもしてくれるのだろうか。
「ご心配なさらず。私、今がベストコンディションですので!」
とてもそうには見えないのですが。まずは鼻から滴るそれを止めようか。
「あなた様、大丈夫ですよ。コレットは逆境に強い子ですから」
「うおっ!?」
俺の耳元で唐突に声がしたので驚いてしまった。メルフィーナが俺の魔力から顕在化し、俺の肩に顎を乗せ体重を預ける形で現れたのだ。
『ほら、コレットには夫婦だと言っていますし。これくらいは見せつけませんと』
『普通の夫婦は公衆の面前でそんなことしません』
メルフィーナを下ろしたところで話を戻そう。
「ま、まあメルがそこまで言うなら信じるしかないな。コレット、頑張れよ」
「コレット、あなたの信仰心は本物です。それは私が一番よく分かっています。信頼していますよ」
「やったねコレット! ケルにいとメルねえが同行して良いってさ! あの作戦、頑張らないとね!」
リオンが後ろからコレットに抱き付き、自分のことのように大喜びする。先程まで疲労しきっていたコレットの表情は引き締まったものとなり―――
(これは…… 幸せトライアングルっ!?)
何やら不埒なことを考えている気がするのは、俺の気のせいだろうか。気のせいだと思いたい。などと俺が考えていると、リオン側の通路からまた別の気配を感じ取る。
「むっ! おい、ケルヴィン殿ではないか!」
気配の正体はダン将軍であった。しかしこの人も早いな。
「将軍もお姫様を探しに?」
「正確にはシュトラ様と国王を探しに、な。しかしこの場所しかないと踏んで来たはいいが、どうも護りが薄いのだ。ワシの読みが外れたか……?」
いえ、大正解です。護りが薄いのは俺とリオンが道中蹴散らして来たからだと思います。
それからダン将軍と互いの状況確認をしていると、コレットがダン将軍の前に出てきた。 ……さっきまでとコレットの雰囲気が違うような。
「鉄鋼騎士団将軍のダン・ダルバ将軍、ですね?」
「む、そうだが、お主は…… なっ、デラミスの巫女、コレット・デラミリウス殿ではないか! なぜ、デラミスのナンバー2が戦場の最前線に……!?」
「こちらにも事情がありまして…… それよりも、ダン将軍にご相談があります。シュトラ姫の救出についてなのですが……」
「シュトラ様の?」
唐突に巫女モードとなったコレットがダン将軍と交渉を始め出した。洗脳、人質などと言った不吉なワードが巧みに使われ、ダンはコレットの話に聞き入ってしまっている。
「―――コレット殿の秘術を使ってか。しかし、それは可能なのか?」
「ええ、ダン将軍のお力さえお借りすることができれば、デラミスの巫女の名にかけて保障致します。ご協力、願えますか?」
「……そこまで言い切られてしまってはな。相分かった。ワシの力、コレット殿にお貸ししよう」
交渉成立してしまった。
「ダンじい、ありがとー!」
「ダ、ダンじい!? その呼び方はむず痒いのだが」
「……駄目?」
「……致し方ないな」
コレットが協力を得て、リオンがダンじいを篭絡する。こんなところを見られたらジェラじいがジェラシー感じちゃうぞ! ……いや、何でもない。聞かなかったことにして。メルフィーナ、俺の心を読まないで!
「メル様、ケルヴィン様。リオン様と私が考案した策を説明致します。少々お耳を拝借」




