第152話 空の旅路
各々の役割分担を決め終え、いよいよケルヴィン達はパーズへと戻ることとなった。
帰還組はケルヴィン一行に加え、先程来たばかりのコレット、そして一時的にケルヴィンの支配下となったアズグラッド、メイド姿のフーバーにロザリアだ。リオンはたっての希望でコレットと共にペガサスに、他は竜化したダハクとロザリアに乗り込む。ちなみに竜化してしまっても装備の効果は発揮される。
サバトらのパーティとクリフ率いる神聖騎士団が城塞に残る防衛組。ゴーレムの指揮系統も限定的にサバトとクリフに移している為、制限付ではあるが命令が可能となっている。彼らと別れを済ませ、今は帰路の最中である。
「にしてもよ、こいつら本当に大丈夫なのか? 意識がないようにも見えるんだが……」
空の旅の中、アズグラッドが心配するのは部下達のことだ。己の竜に乗りダハクやロザリアを追いかけてはいるが、様子は牢に入っていたときと変わっていない。皆虚ろである。
「見掛けによらず心配性ね。私のスキルの有効時間内なら忠実に従ってくれるから大丈夫よ。その為に私の血を多めに塗り直したんだから、パーズまでは絶対に持つわ! お陰で私はクタクタよ!」
いくらセラとは言え、竜騎兵団の兵と竜の全てに血を分け与えるのは重労働であった。体外へ血を出す場合、放出した血液分のHPが減ってしまう。セラの所有するスキル『自然治癒』の効果により猛スピードでHPは回復していくが、回復したそばから次の者の頭部へ血を塗りつけることでまたHPが減る。この繰り返しを人数分行ったのだ。ステータス上は問題なくとも精神的に疲れる。
「ってことでケルヴィン、背中借りるわね。ちょっと寝るから」
「ああ」
セラはケルヴィンの背に寄り掛かり身を預ける。余程疲れていたのか、少しするとスゥスゥと寝息を立て始めた。これがメルフィーナであれば、あまりの寝相の悪さにより考えるところがあったかもしれないが、セラは寝相がいいので問題ない。
(寝相良)エフィル≧セラ>リオン=人並>>>メルフィーナ(寝相悪)
ケルヴィンの体験談を簡単な図にするとこのような感じになる。メルフィーナが隣にいれば一度は顔面に拳が飛んでくることを覚悟しておいた方がいいだろう。余談になるが、寝相は最悪なのだが寝付きの良さは最速である。それも相まって添い寝の危険度に拍車をかけているのだ。
「あなた様、今とても失礼なことを考えていませんでしたか?」
「何の話か分からないな。女神ジョークの前振りか?」
心を見透かされそうになったものの、持ち前の『胆力』スキルで平静を保つケルヴィン。メルフィーナのいつもの笑顔が今日はやけに怖く感じる。
『ケルヴィンの兄貴。恋人なら仕方ないことなんすけど、俺の上でいちゃつくのは止めてもらえねぇすか? 凄ぇむず痒い』
『別にいちゃついてないって』
『あはは、僕もいちゃついてると思うよー』
訓練も兼ねて、ダハクは移動中の会話は全て念話ですることになっている。早くも意思疎通で冗談を交えられるレベルまで使いこなせるようになったようだ。しかし一言も声を発しないので、念話の届かないアズグラッド達からすれば、初期の頃の寡黙でクールな漆黒竜に見えるかもしれない。
「それにしても、ペガサスって全然揺れないんだね。不思議と風も当たらないし」
「ペガサスが魔法を使ってくれていますからね。風脚で敏捷を上昇させていますが、防壁を周囲に展開させることで私達は快適に過ごせるんですよ。心優しい子なんです」
「へ~! お前、賢いんだね!」
「ブルルッ」
こちらはペガサスに騎乗するリオン&コレット。小柄なリオンを前に乗せ、その後ろのコレットが手綱を持っている。ペガサスに興味津々なリオンを優しげな表情で見守るコレットは、どこか和気藹々とした姉妹のようにも見える。
「ときにリオン様はケルヴィン様の妹君だったのですね。以前の会食の際はあまりお話する機会がありませんでしたので……」
「うん、そうだよ。リオン、って気軽に呼んでね」
「滅相も――― いえ、これは私の矜持ですので、お気になさらず。代わりに、と言っては何ですが、私のことはコレットと呼んで頂けますか?」
「分かった! コレット、よろしくね!」
そう、一見はそのように見えるのだが―――
(噂には伺っておりましたが…… ケルヴィン様の妹様、光・臨! 何て愛くるしい笑顔をなさるんでしょうか! まるで天使のようで、興奮が収まりません! 更にリオン様のお髪より漂ってくるフローラルな香り、幸せ過ぎて堕落してしまいそうです……! メルフィーナ様が先程からこちらを御覧になっていますが、もしやこれは試練? 試練なのですか!? 私の忍耐力を試されているのですね! し、しかし、クッ! リオン様の背後より香るメルフィーナ様の匂い! 背、尻、腿裏…… これはおそらくリオン様がメルフィーナ様に抱っこされながら座った形跡では―――)
現実とは酷なもの。世の中綺麗なものばかりではないのだ。
(ああ、今日もコレットはフルスロットルなのですね…… 基本は善人なのでリオンを任せても大丈夫だとは思いますが。あの病気、治るのでしょうか? 神のみぞ知る、とはよく言いますが、神にも分かりません……)
そろそろ女神も匙を投げそうである。
「王よ」
「どうした? ジェラール」
「最近、真っ当な人間に会ってないような気がするんじゃが……」
「うん、俺も薄々感じてた」
戦闘狂と黒騎士の語らいに、隣を飛んでいたロザリアとフーバーは少々納得がいかない様子であった。
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朱の大渓谷を出発して数日。竜騎兵団の竜の速さに合わせていた為に遅くはなったが、漸く一同はパーズが見えてくる辺りに差し掛かった。
「そろそろ合図を送っとくか。エフィル」
「承知致しました」
「合図、ですか?」
「捕らえた竜騎兵団をそのまま輸送してるんだ。ダハクやロザリアもそうだが、パーズからしたら普通に攻めて来てるように見えるだろ? だから取り決めておいた合図を送るんだよ。作戦は成功だってな。エフィルの火竜は模擬試合のときに街中の人が見てるから、その合図に最適なんだ」
「模擬試合の…… シルヴィアさんの氷星を溶かした火竜のことでしょうか? 確かにあの竜であれば、パーズの皆さんはご存知のはずですね」
「皆様、耳を塞いで下さい。少々大きな音を鳴らします」
クロトより取り出した火神の魔弓を上空へ構えるエフィル。少々どころではない戦車砲の如き轟音を轟かせながら、多首火竜がパーズに飛翔する。
やがて、パーズより鳴り響く歓喜の声。合図のメッセージがパーズの人々に伝わったのだ。
『すげぇ歓声だな。街中が喜んでいるみてぇだ』
『少し前のパーズの戦力からは考えられないことだからな。おっと、ダハク、あそこに降りてくれ』
『うっす』
『操ってる竜達はひとまず空を旋回させとくわよ。一度に降りるとパニックだし』
冒険者ギルドの保有スペースに着地するダハク、ロザリア、すっかりリオンに懐いてしまったペガサス。歓声の中を凱旋するのも捨て難いが、竜の巨体を動かすのには流石に危険な為、ケルヴィン達はこちらに避難することを選択。ここであればギルド職員が街の人々を止めてくれるので安全なのだ。
「ケールーヴィーンちゃーん! おーじーさーまー!」
しかし、止められる限度はある。街の防衛を任されていたS級が誇るオカマ冒険者、ゴルディアーナ・プリティアーナが全速力ダッシュで迫っていた。真っ先に名前を挙げられた二人に動揺が走ったのは言うまでもない。次いで初見のアズグラッドらが臨戦態勢に移るのも仕方のないことだろう。だが、人型に変身し終えたダハクが信じられないことを口走った。
「あ、兄貴…… あの超絶的な美女は誰ですかい!?」
「「「……え?」」」




