第132話 迎撃班
―――パーズ冒険者ギルド・ギルド長の部屋
昨日、デラミス、ガウン、トラージの各国がトライセンから宣戦布告を受けたことを公布した。これにより東大陸全土は大戦以来の戦火の渦に巻き込まれることとなる。それはここパーズも例外ではないようで、他国と同様に宣戦布告の書状が送り込まれてきた。住民達の混乱は相当なものであったが、予め各国が対策等の説明をしていた為、収まるのもまた早かった。だとしても、戦線から最も遠方であるデラミスに移る住民や冒険者も少なくはないようである。
今日はパーズに滞在する高位の冒険者がギルドに召集され、ギルドとしての方針を定めるらしい。勿論、S級に昇格した俺のパーティも参加である。
俺以外のメンバーは昇格式が終わってからもパーズに留まっていたS級のプリティア、そして先日無事B級に昇格したウルドさんのいぶし銀4人パーティ。最後にA級のサバトが率いる獣人族の6人パーティだ。サバトのパーティは全員が獣人族で素早さを活かした肉弾戦を得意とするそうだ。A級なだけあって、トラージで出会った頃の刀哉くらいの力はありそうな感じだ。
「おお、アンタがケルヴィンか! 試合見たぜ。アンタがいればパーズも安泰だろうよ!」
「面と向かって言われると気恥ずかしいな。ええと、初めましてかな?」
「おっと、名乗るのが遅れたな! 俺はサバトってもんだ。これでもA級冒険者なんだぜ。アンタのお仲間、そこの美人さんが発見した新ダンジョン――― 今は『傀儡の社』って名前だったか。まあいいや。そこに入り浸っていたらこの騒ぎに巻き込まれちまってよ。全く散々だぜ! ハッハッハ!」
あの『クレイワームの通り道』から派生した新ダンジョンのことか。俺も一度行きたいと考えていたのだが、先を越されてしまったようだ。というかセラが発見者になってるのか。
「えっ、私?」
本人も分かっていなかった。
「ってか、本当に美人美女ばかりなんだな。昇格式のは演出だと思ったんだが」
「ああ、恵まれていると自覚してるよ」
「羨ましい限りだぜ。俺のパーティなんか、このゴリラみてぇな女しかいねぇシュバァッファ!」
サバトが指差した獣人の女性に殴り飛ばされていった。いや、獣耳で普通に可愛い女性だと思うのだが。確かに腕っぷしは強そうではあるけど。
「ぐふ、ふぅ、ふぅ…… これだぞ…… くそっ、ゴマめ」
頭から落ちた割には元気そうだ。流石A級冒険者だな。
「今のはサバトが悪いよ。ところで見たところガウンの冒険者のようだけど、戻らなくてもいいのか? あっちもトライセンから宣戦布告を受けているはずだろ?」
「意外とスルーしてくんだな…… ガウンは獣王がいれば平気だ。あいつもアンタと同じように化物だからな。それよりもパーズが戦力的に一番手薄だろ? なら、俺らも力になるぜ!」
うん、見ての通り獣人らしく豪快な人物だ。しかし、こうして俺ら以外の面子を並べて見てみると――― 非常にむさ、いや何でもない。
「さて、皆集まってくれたようだね。まずは突然の召集について謝罪しよう。だが、事は急を要してね」
メンバーが揃ったところで、リオが話を始めた。
「いいのよリオちゃん、トライセンが各国に喧嘩を吹っ掛けたんですもんねぇ。慌てるなってのが無理ってもんよぉ」
「それで、俺たち冒険者はどうするんだ? 詳しい状況は?」
「ああ、皆も知っての通り、不可侵地域であるパーズにも宣戦布告の書状が届いてしまった。そしてここからは追加の情報だが、どうやらトライセンは宣戦布告と同時に軍隊を展開させたようだ。全く、用意のいいことだよ」
「早速かよ!?」
トライセンの軍勢か。記憶に新しいのはエルフの里でぶつかった『混成魔獣団』、そして俺が取り逃がしたクライヴの『魔法騎士団』だな。どちらにもかなりの打撃を与えたはずだが。
「トライセンより出撃した部隊は3つ。『鉄鋼騎士団』がガウンへ。次に『魔法騎士団』がトラージへ。そしてパーズには『竜騎兵団』が向かって来ている」
魔法騎士団は復活しているようだ。クライヴもかなりしぶといな。
「竜騎兵団…… トライセン第1王子のアズグラッドが率いる竜騎部隊か。その3部隊の中じゃ機動力は群を抜いているな。アズグラッド自身もかなり好戦的と聞く。奴ら、パーズを早々に落として士気を上げる算段か?」
「なら、開戦の舞台はパーズってことになるのか」
「報告ではパーズに到達するまで1週間少々といったところだそうだ」
竜騎兵団か、トライセンには色々な部隊が豊富にあるんだな。戦ったことがある竜と言えば、トラージの邪竜と刀哉のパーティにいた幼竜のムンくらいか。最強種の一角を担う種族ではあるが、今のところ苦戦した経験はない。一応あれもS級の竜ではあったが、正規の竜ではなかったからなぁ。
『あなた様、竜種について補足致しますか?』
お願いします! メルフィーナ先生!
『こほん…… 竜種は成長度合と得意とする属性によって種族が変化します。中には亜竜と呼ばれる竜に酷似した種族もいますが、その力は正規の竜と比べると弱いですね。単純な力を並べればこのような形ですね』
メルフィーナ先生が配下ネットワークにメモ書きを表示させる。
亜竜(C級以下)≦幼竜(C級~B級)<成竜(A級)<古竜(S級)<竜王(S級)
『これらから更に住処に適した属性別に種族が細分化されていきます。邪竜と呼ばれる亜種族があなた様が以前戦われた竜種ですね。邪竜は竜よりもステータスは高いですが、知性が著しく退化しています』
ああ、単純で力任せな攻撃しかしてこなかったから随分と楽な戦いだったよ。あと、古竜と竜王の違いは? ランクだけならどちらもS級だけど。
『古竜の中でも特に飛び抜けて強力な力を持つ、竜種の頂点に立つのが竜王です。各属性毎に竜王が存在しますから、この世界には8体いることになりますね』
頂点が8点あるのですが。そんなにいたら厄介この上ないだろうに。
『正確には各属性別の種族の頂点、と言い直しましょう。それに、火竜王のように災害と呼ばれる竜王もいれば、水竜王のようにトラージの守護竜と崇拝される竜王もいます。全てが人間と敵対している訳ではないのです』
なるほどなるほど。火竜王に関しては個人的な恨みもあるし見つけ次第ぶちのめしたいのだが、友好的な竜王は戦う必要はないのか。そうか、ないのか……
『残念そうですね』
うん。さ、そろそろ作戦会議に戻ろうか。意思疎通での高速会話だから問題はないけどさ。
「困ったことにパーズには常駐する兵が殆どいないからね。精々が街の警邏や門番をする程度だ。ギルドの冒険者がメインの戦力になるだろうね。ガウンとトラージは各々の兵力で防衛に当たり、パーズにはデラミスより援軍が派遣される手筈になっている。が、正直なところ竜騎兵団が到着するのが早いだろう。少なくとも我々は現状の戦力で時間稼ぎをする必要がある」
「平和が仇になってしまったな……」
転移門での移動を一瞬頭に浮かべたが、あれは魔力の消費が半端ないからな。軍隊なんて人数を移動させるには向かないだろう。するならば少数精鋭なのだが、デラミス本土の戦力を割き過ぎるのもあまりよろしくない。休戦中とは言え、デラミスの背後にはリゼア帝国があるのだから。
「時間稼ぎか、性に合わないな。こっちにはS級冒険者が二人もいるんだ。逆に迎撃しちまわないか?」
「あらやだ。私はそんな大した戦力じゃないわよぉ」
サバトは返り討ちにする気満々だな。俺と気が合いそうだ。
「戦力的には十分過ぎると私も思う。だけど人数が人数だし、これは防衛戦だ。やり合うなら少数精鋭でパーズから離れた場所でやるのが望ましい。君達もケルヴィン君の模擬試合を見ただろうから分かると思うけど、あのレベルの戦いを街の近隣でやられては敵わないからね。今回は結界もないし」
「……ああ、そうだな」
サバト、なぜそんな目で俺とプリティアを見る。そんなことではS級になれないぞ。
「さて、具体的には防衛班と迎撃班に分かれてもらおうと思う。防衛班は文字通りパーズ最後の護りの要、C級以下の冒険者達もこちらに配属させようと考えている。迎撃班はトライセンの軍勢がパーズに到達する前にゲリラ的に攻撃を行う。こちらはかなり危険な役目になるね」
リオよ、俺を凝視しながら迎撃班の説明しないでくれるかな? もうこれリオの中では役割決まってるよね、きっと。
「ジェラールのおじ様と一緒に行くのも魅力だけどぉ、私は攻めるより護る方が得意だしぃ、街の防衛に志願しようかしらん」
「B級になったばかりの俺らは亜竜の相手が精一杯だ。攻撃側に回っても足手まといになるのが目に見えているし、防衛に専念しようと思う。何、いざとなったら住民の誘導や護衛くらいはできるさ」
プリティアとウルドさん達は街の防衛に志願するようだ。
「俺らもそれなりに修羅場を潜り抜けてきた自覚はあるんだがよ、あの試合のレベルに付いて行けるかって言われると正直自信ないんだわ。だけどよ、間近でS級の戦いを見れるまたとないチャンスでもあるんだ。ケルヴィン! 雑用でも何に使ってくれても構わねぇ。俺らも連れて行ってくれねぇか!?」
どうやら俺は迎撃班に確定していたようである。まあ、こっちに志願しようとしてたからいいけどさ。
「何ならゴマを抱いてくれてもってケルヴィンには不要かッツェイ!」
ああ、サバトが窓から落ちていった。




