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第131話 宣戦布告

 ―――パーズの街・仮設ホール


 連日に渡り賑わいを見せていたパーズも、昇格式等の祭事が閉幕し落ち着きを取り戻しつつあった。来賓していた各国の重鎮達も帰路へと着き始め、観光がてらにパーズに滞在する者も徐々にその数を減らしている。そんな中、昇格式が行われた仮設ホールのとある部屋の更に地下、秘密裏に作られた隠し部屋にて会合が開かれていた。


「それでは、ツバキ殿も同意見か」

「うむ。元来貿易を続けていた我が国でさえ、最近は国境付近でのいざこざが絶えない。トライセンは過酷な土地じゃ。貿易なしで十分な食料を備蓄しているとは思えんのだがな」


 声の主はガウン国獣王、レオンハルト・ガウン。そしてトラージ国王、ツバキ・フジワラであった。昇格式の際に使用していた水晶が卓上に置かれている。


「強力なモンスターが各地で出現、そしてトライセンの不審な動き…… 魔王がトライセンに誕生したと考えるのが妥当ですね」

「冒険者ギルドとしても、その可能性が最も高いと考えています。トライセンは国内の各ギルド支部にも様々な圧力をかけ、冒険者の動きを制限しているようですので」


 こちらはデラミスの巫女、コレット・デラミリウスとギルド代表のリオだ。コレットは表向きには転移門にてデラミスに戻ったとしているが、この地下室で現在行われてるもうひとつの目的、3カ国及び冒険者ギルド間の定例会合に参加していた。


 大戦時に講和を結んで以降、途切れなく開かれていたこの会合には、本来であればトライセンも加わるはずであった。しかし、その席に人影はない。


「ゼル殿が会合に姿を現さなくなり、どれ程が経ったであろうな。以前から油断ならぬところはあったが、此ほどの愚かな行為はしない御仁だったはずじゃが。いくら軍備の増強を図ろうとも、東大陸全土の国を相手しようとは無謀もいいところよ」

「魔王となった者は悪意に染まってしまうと伝承にあります。知性あるモンスターであれ、慈悲に満ちた人間であれ。おそらく、トライセン王は……」

「分かっておる。我が国の斥候もそういった情報を見聞きしているからな。レオンハルト殿、そちらは大胆にやられたようじゃのう?」

「そちらとて、黒風による騒ぎがあったばかりだろう。ガウンはそうでなくともトライセンとの小競り合いは多いがな。まあ、ワシもそう睨んでおる。近頃の奴らの行動は異常だ。エルフの里はケルヴィンの活躍により護られたが、今日においても我が息子共が国境線に出ている有様、捕らえた将達から引き出した情報も、どれも黒い話ばかりであった。早いうち仕掛けなければ各地で被害は更に広まる。例え和平を結んだ同盟国であろうと、もう潮時だ。ゼルが魔王である確証を待っている暇などもうない」

「「「………」」」

 

 レオンハルトの言葉を肯定する声はない。だが、反対に否定する声もなかった。各国の代表達も理解はしているのだ。本格的な武力行使による対立を、戦争をせねばならぬ時が訪れようとしていることに。


「ゼル殿を魔王と仮定するならば、勇者の力が必要になるじゃろうな。コレット殿、デラミスの勇者一行は?」

「……メルフィーナ様の神託に則り、現在は西大陸にいます」

「西大陸だと? 呼び戻すにしても時間が掛かり過ぎるぞ!」

「どちらにしろ呼び戻しはしません。デラミスにおいて神託は絶対、この神託の意味を勇者が見出すまでは、こちらからアクションを起こすことはあり得ません」

「しかしだな、巫女殿よ―――」

「……待たれよ」


 レオンハルトの言葉をツバキが遮る。


「たった今、トライセンより書状が届いた」

「何ですって?」


 水晶よりパサリと鳴る紙の擦れる音。その後、ツバキは溜息を漏らし重苦しげに口を開いた。


「ふう、遂に来たか…… レオンハルト殿、コレット殿。恐らく、これと同じものが貴国にも直届くであろう」

「それは、まさか……」

「トライセンからの宣戦布告通知じゃ」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 ―――トライセン・首都


 トライセン城の城下町であるトライセンの首都は民衆でひしめき合っていた。一刻前に兵を通じて、王による全民衆の招集がかけられたのだ。首都の上空には竜騎兵団が旋回し、警戒体制が敷かれている。その異様さに、民衆は何事かとざわめき合う。


「静粛に! これより、偉大なるトライセン王より御言葉を頂戴する! 静粛に!」


 上位の兵らしき者達が叫び声を上げる。それを耳にした民衆達は、示し合わせたかのようにピタリと静かになり、トライセン式の敬礼の姿勢で静止する。女、子供、老人までも、その動きに迷いはない。幼き頃から体と頭に染み付かせた国の教育の成果なのだろうか。


 その様に満足するように頷くは軍の隊長や大隊長の位に就く幹部達。間もなくして幹部のひとりが民衆の召集が完了したのを確認し、城へ合図を送る。


 やがて城のテラスより姿を現すトライセン王、ゼル・トライセン。その傍らには娘であり、暗部将軍でもあるシュトラ・トライセンが控えている。誰かが、ゴクリと生唾を飲み込む音が聞こえた。トライセンにおいて王は絶対なる統治者、僅かな不敬を働きでもしたら命の保障はない。


「親愛なる我が国民達よ、至急皆に伝えなければならない事案が発生した」


 ゼルの発する言葉のひとつひとつが、民衆達の心に響いていく。大声を上げている訳でない。声を拡散させるマジックアイテムを使っている訳でもない。そうでありながらも、城の最上階にいるゼルの声は首都全域に届いていた。まるで、直接心に語り掛けるように。


「昨日、我が国の誇り高き魔法騎士団将軍、クライヴ・テラーゼが獣国ガウンの手の者により奇襲を受け、戦死した。クライヴ将軍は哨戒任務の最中に、人ならぬ亜人の手によってだ! モンスターの討伐を終えた日の夜、皆が寝静まる時刻に野営地にて襲われたと確認されている」


 衝撃の公表に民衆は息を詰まらせる。ゼルの弁舌は事実を脚色されているのだが、何も知らぬ民衆は王の言葉に何の疑いも持たなかった。


「クライヴ様が……? 嘘、でしょ?」

「なんとお労しい……」


 当然、民衆達にクライヴの実態を知る者はいない。世間的には若くして成り上がった、才色兼備の貴公子として知られているからだ。


「皆が怒りはよく分かる。私自身、怒りで我を忘れてしまいそうだ。我らはガウンに対して首謀者を引き渡すよう要求し、再三に渡り解決の道を探ってきた。だが、獣王レオンハルトは頑なに対応しようとしなかった。それどころか、交渉に向かわせた使者を斬り捨てる暴挙に出たのだ! トライセンの英雄であるクリストフを盗賊であると世迷い事を言い、現在も彼らを拘束するトラージ、デラミスと同様に許しがたい行為である! 親愛なる国民達よ、皆はどう思う!?」

「くそっ、卑怯者の亜人共め!」

「ガウンの獣共を許すなっ!」

「デラミスとトラージも同罪だ!」

「亜人を認める国など信じられるものか!」


 ひとりが怒りを口にすれば、それに釣られ民衆は口々に怒りを漏らしていく。ゼルは民衆を手で制し、弁舌を続ける。


「その通りだ。辛抱強い我らとて、ここまでされては堪忍袋の緒が切れるというもの。過去、大戦時にトライセンは人間の平和を望み講和を結んだが、それは完全なものではなかったのだ。まさに今、我々は真の平和への道を歩みださなければならない時に来ている。我らトライセンは各国に宣戦布告を行い、この大陸全土の統治に向け動き出すこととした!」


 首都に轟き渡る民衆、兵の歓喜の声。国全体が異様な空気を纏い始める中、人知れずにシュトラは城の中へと歩み出していた。まだ背後ではゼルの演説が続いてはいる。父の声は心に染み渡り、殆どが偽りであると知る自分でさえも信じてしまいそうになることに、正気を保てそうになかったのだ。


(ダン将軍はルノアに手紙を渡せたでしょうか?)


 シュトラはシルヴィアと名を変えたルノアに手紙を送る為、自分が最も信頼できる人物であるダンにこの件を任せた。手紙の内容はすぐに東大陸を離れるようにとの通告。と言うよりも、大陸全土を巻き込んだ戦争が起きるということは伏せ、どうにかしてルノアが西大陸に向かうよう仕向けさせた内容だ。ルノアだけでなく、シュトラは各国に対しあらゆる工作を行っていた。


(戦争が始まれば、冒険者ギルドをも敵に回しての戦いになる。そうなれば、ルノアとも……)


 親友であるルノアやアシュリーと剣を交えたくないのは本心だ。だがそれ以上にS級冒険者であるルノアやそれに近い力を持つアシュリーを敵にすれば、トライセンがそれだけで大きな損害を被るのは目に見えている。これはほんの僅かな可能性でもあれば排除したいという、打算的な考え。


(ふふ、親友を戦場の駒にしか見てない、か。嫌な女よね、私……)


 思考に耽ながら歩みを進める彼女の先に、ひとりの男がいた。


「……タブラ兄様、ここは許しを得た者しか入られぬ場所ですよ」

「ふん! 相変わらず貴様は態度がでかいな、シュトラ!」


 シュトラに対し、横暴な態度をとるこの男はタブラ。シュトラと同じ母を持つ唯一の兄である。過去にパーズにて騒ぎを起こし、ケルヴィンに叩きのめされた男だ。


「お父様に見つかったらことです。私は見なかったことにしますので、どうかお戻りを」

「いいのか? 私は暗部の貴様に有益な情報を持ってきたのだぞ」

「……情報?」

「聞いて驚くがよい! 先日、パーズでS級に昇格したケルヴィンとかいう男の情報だ! この王の声を聞くに、トライセンは各国を敵にするのだろう? ならば、必然的にギルドも動き出すことになる。S級になったばかりで情報の少ない奴のことは貴様もあまり知らぬであろう。だが、安心するがいい。何せ、私は以前から奴に目をつけていてな―――」

「それには及びません。彼についてはクリストフが拘束されて以来、情報を収集しておりましたので」

「そうか、ならば有難く聞くがよ…… 何?」

「ギルド、パーズ、トラージにて知り得る話は調査済みです。どれも驚愕すべき話ばかり、ステータスは隠蔽され、逆に参考にならない状態ではありますが…… お兄様が手に入れれるような情報は全てあるはずですよ」

「な、ならば、他のS級冒険者の情報はどうだ? 昔から冒険者について調べ上げてきた秘蔵の話だぞ? 私の使いが先日の模擬試合の客席に紛れ込み、調査させていたのだ。まず、そこにいた新顔S級冒険者のシルヴィア、そしてゴルディアーナの2人だが……」


 シュトラは大きく溜息を吐く。


「お兄様、試合会場にいたS級冒険者はケルヴィンを除いても――― いえ、もういいです。サテラ」

「ここに」

「なっ!?」


 シュトラが名を呼ぶと、暗部副官である黒尽くめの女、サテラがどこからともなく姿を現した。


「タブラ兄様が部屋にお帰りです。連れて行って差し上げて」

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