第111話 試合は明後日
―――ケルヴィン邸・客間
「本当に御免なさいね。いきなり襲われたから、体が反応しちゃったのよぉ」
「あはは、気にしないでください…… ゴルディアーナさん」
「気軽にプリティアちゃんと呼んでくれていいわぁ」
「ぜ、善処します」
客間のソファにて俺はS級冒険者と名乗る女性(?)と向かい合う。金髪ロールの大女、もといプリティアちゃんは屋敷に向かってきたところを警護するゴーレム達になぜか襲われ、正当防衛の下に見事な返り討ちをかましてくれた。いや、うちのゴーレムが誤認したのが悪いんだが。彼女が迫って来たら俺も臨戦態勢になる自信があるので、半壊されたゴーレム達を叱るに叱れない。
「プリティアちゃんもセラねえを心配して急いでくれたんだ。なぜか門番のゴーレムが反応しちゃったけど……」
「途中でリオンが止めてくれて良かったよ。エフィルとメルがマジになるところだった」
バルコニーから火神の魔弓をぶっ放そうとするエフィルと、愛槍を手にして迎撃しようとするメルフィーナを止めるのには苦労した。リオンが中に割って入らなければ、今頃もっと酷い事態になっていただろう。割と真剣に庭園くらいは簡単に崩壊しそうだ。
「も、申し訳ありません……」
「あら、私としたことが」
俺の背後に立つエフィルとメルフィーナに目をやる。エフィルはいいが、そこのニコニコと笑顔のメルフィーナさん、お前は絶対わざとだろ。
「ふんふん…… セラちゃん、ライバルが多いわねぇ」
「何の話です?」
「ううん、こっちの話よん。気にしないで! ―――それにしてもケルヴィンちゃん、リオンちゃんから想像した姿とはちょっと違ったけど…… 全然いけるわね!」
「何の話ですか!?」
おい、ジェラールそこから一歩退くな! 俺が不安になってくるだろ!
「ところでケルにい、セラねえは大丈夫そう?」
「そうそう、私も気になって仕方なかったわん!」
リオンとプリティアちゃんが身を乗り出して尋ねてくる。ぴょんと可愛らしい擬音が聞こえてくるような仕草のリオンに対し、ゴゴゴゴ…… と迫って来るプリティアちゃんの濃い顔は少し距離を置きたい。セラを心配してくれるのはありがたいことなんだけれども。
「今はエリィが――― うちのメイドが看病していますよ。簡単な白魔法が使えますので安心してください。今は安静にして容態も落ち着いてます」
「そ、そっか。良かった……」
「ええ、安心したわぁ!」
大小異なる背丈の二人はドサッとソファに寄り掛かる。余程心配していたんだな。
「そうそうリオン、アレックスはもう少しで進化しそうだぞ。リビングで丸くなってるから見てきたらどうだ?」
「本当に!? 僕、ちょっと行ってくる!」
「屋敷の中は走るなよ」
「っと、わ、分かってるよー」
今、走り出そうとしていただろ。
ソファから飛び降りたリオンは廊下へ続く扉を開け、アレックスの許へと向かう。道中、意思疎通でアレックスと念話はしていただろうが、相棒の進化の場には直に立ち会いたいのだろう。アレックスはリオンに任せるとしよう。
「ゴルディアーナさん、礼が遅れましたが、セラ達を助けて頂いてありがとうございました」
「いいえ、お礼を言いたいのはこっちの方よぉ! セラちゃん達のお陰で新ダンジョンの脅威は大方排除できたし、今はもうギルドが情報を他の冒険者に流しているはずよぉ。それにケルヴィンちゃん、そんな他人行儀にならなくてもいいわん。私と貴方の仲じゃない!」
いつ俺たちはそんな仲になったのだろうか。S級冒険者と交流を持つこと自体は良いことだが、何か別の意味で危険性を感じる。ジェラールよ、更に一歩退くな。
「なら、お言葉に甘えるとしようかな。ところで明後日の模擬試合の相手ってのはプリティアなのか?」
「あらあら、やっぱり気になる? リオンちゃんからも同じ質問をされたわぁ。やっぱり兄妹なのかしらねぇ」
そりゃあまあ、気になるだろ。S級冒険者なんてガウンの獣王くらいしか会ったことない訳だし。何よりも戦い甲斐がある。
「そうねぇ。模擬試合の形式も一緒に教えてあげようかしらぁ。まず、ケルヴィンちゃんの相手は去年S級に昇格した『氷姫』のシルヴィアちゃん。銀髪のとっても綺麗な子よん。ま、ケルヴィンちゃんには関係ないかしらねぇ……」
プリティアがエフィルとメルフィーナを交互に見る。何だ、そんなに見てもあげませんよ。
「氷姫、ってことは青魔法使いかな?」
「私も実際の戦い振りを見たことはないわん。普通であれば昇格の際の模擬試合を通してギルドが二つ名を決めるもんなんだけど、シルヴィアちゃんのときはそれがなかったからねぇ。もしかしたら、ギルド長のリオちゃんなら知ってるかもだけどぉ」
「いや、相手の情報を知らないのはお互い様なんだろ? なら試合で確かめるさ」
「あら、勇ましい」
それに、リオに頼んだら後で何を要求されるか分かったもんじゃない。そのシルヴィアって女性の実力は試合の楽しみにとっておこう。
「模擬試合には各国のお偉方も来るわん。お眼鏡に叶えばスカウトされる可能性もあるけど、実際に受ける冒険者はほぼいないわね。ギルドとしては完全に冒険者の意向に任せる形よぉ」
「俺も国に仕える気は毛頭ないな。リオにもそう伝えているし」
「それならギルドの方で処理してくれてるはずよん。勧誘情報の詳細も後でギルドから送られてくるから、その時に確認してみてねん」
冒険者ギルドで勧誘をシャットアウトしてくれるのはありがたいな。一々断るのも面倒この上ないし。しかしトライセンの動きが活発になってるこの状況で、そんな人達がパーズに集まって大丈夫なのかね? しかもこんな短期間でよく情報が伝わっているな。
「後は試合の形式ねぇ。そのお偉方の中にデラミスの巫女、コレットっていう子がいるんだけど知ってるかしらぁ?」
「ああ、知ってるよ」
その巫女が召喚した勇者達と一緒にダンジョン探索をしたくらいには。
「なら話が早いわん。コレットちゃんが会場に特殊な結界を張って、その中で試合が行われるのぉ。ケルヴィンちゃんとシルヴィアちゃんの両者にも、コレットちゃんの魔法が施されるわん。一度だけだけど、死に繋がるダメージを排除する魔法らしいわぁ。だから試合で使う装備も自由にしていいのよん。その魔法が発動した時点で試合は終了、拍手喝采雨あられ~」
「……サラッと言ったが、それってかなり凄い魔法なんじゃないか? ってか巫女の仕事量も多いな」
「実際、当日は回復薬片手に疲労困憊状態よぉ。その分見返りもあるんでしょうけどねぇ」
死に繋がるダメージの排除…… メルフィーナの加護に似ているな。確か、この加護はデラミスの巫女にも与えられているんだったか。それをオリジナル魔法として手を加えたのか?
『代々の巫女に伝わる秘術とされる魔法ですね。ここ300年ほどはそういった使われ方もされてますので、最早秘術とは言えませんが……』
へえ。試合で使ってくれるってことは、鑑定眼で目に出来るってことだ。それを基に後で魔法を開発してみるかな。
「説明はこんなところねぇ。何か分からないところはあるかしらん?」
「いや、大体は理解したよ。助かったよ、プリティア」
「はうっ! そんな笑顔を私に向けないでぇ! セラちゃんとの約束があるのに! それに私にはジェラールのおじ様が……!」
筋肉が自らを抱きしめながら悶えている。ジェラールを見ると、何時の間にか壁際まで退いていた。
『ジェラール、お前……』
『いや、勘違いするでない。ワシは今も妻一筋じゃから』
―――結婚していたのか、ジェラール。
「駄目、これ以上は耐えれそうにないわぁ…… 私はこれでお暇させてもらうわねん。あ、泊まっていけとか気を使わなくても大丈夫よぉ。ギルドが先に宿を手配してるはずだからぁ」
「そ、そうか。残念だな」
心の底からホッとしながら、プリティアを見送る。さて、試合はもう明後日に迫っている。S級冒険者との戦いなんて早々あるもんじゃないんだ、可能な限り修練を積んでおきたいが―――
「今は、セラが第一だな」
エフィルに一声かけ、セラの部屋に足を運ぶ。




