第104話 思い立ったが吉日
―――パーズ冒険者ギルド・受付カウンター
「っていう訳で、A級以上のモンスターが沢山いるダンジョンを探しているのよ」
「そんな危険な場所、この辺りにはないですよ。今は緊急の討伐もありませんし」
意気揚々とギルドに乗り込んだセラは、第一村人アンジェを発見。早速、目的の食材を入手する為のダンジョンを相談するのであった。ちなみに今のアンジェは仕事モードである。
「B級ダンジョンの暗紫の森だって、この前壊滅させてきたばかりじゃないですか。あれ以上となると国外にしかないですよ……」
「ええ、そうなの!?」
あからさまに残念がるセラ。対してジェラールとリオンは「まあ、そうだよね」と納得している。パーズ領域内にA級モンスターが出現するような事があれば、すぐさまケルヴィンに特別依頼が届くからだ。現状、そんな情報は屋敷に届いていない。わざわざギルドに赴いて探したとしても、それは取り越し苦労に過ぎないのだ。
「となると、行き先は国外かしら。紋章の森くらいの距離なら休憩なしで急げば半日、往復で丸一日。探索時間を含めると時間が……」
そんなことはお構いなしにセラは次の作戦を立て始める。食料調達を諦める選択肢はどうやらないようだ。
「それにしても、今日はギルドが慌ただしいね」
ブツブツと思考を巡らせるセラを一先ず放置し、リオンが辺りを見回す。冒険者達が集まり、いつもそれなりに騒がしい冒険者ギルドであるが、今日は一層それが顕著であった。カウンター奥の部屋には気付け薬をデスク横に置いて書類と戦うギルド職員の姿、アイテムの納品に訪れる大量の冒険者達、対応するギルドの受付嬢も平時より多い。どことなくアンジェも少し疲れているように見える。
「もうすぐケルヴィンさんのS級昇格の日ですからね。その為の準備を総動員で当たっているんです。当日は街中がお祭り騒ぎ、新たなS級冒険者を一目見ようと各国の王族貴族や有名冒険者の方々もいらっしゃいますからね。リオギルド長も彼方此方で大忙しですよ。パーズ所属の冒険者にも依頼という形でギルドから仕事が発注されています」
「そうなんだ? 僕たちは何も聞いてなかったけど」
「ケルヴィンさん達は今回の主役ですからね。開催準備の依頼なんて回せませんよ。それにこの依頼の達成数次第では、模擬試合の優先席取得権利も得られますからね。滅多に見れないS級同士のバトルを間近で見ようと皆必死なんですよ。あ、リオンさん達には特別席が設けられますので安心してくださいね」
「わぁ、ありがとう! もうケルにいと戦う相手のS級冒険者も来てるのかな?」
アンジェが手元の資料をパラパラとめくる。
「ええと、明日中には到着する予定ですね。名前は―――」
―――バン!
アンジェの言葉を遮ったのは、壊れるほどの勢いで開かれた扉の音。次いで冒険者のパーティらしき者達がバタバタと慌しく入って来た。皆、余程急いでここに来たのだろう。ある者はその場で倒れ込み、またある者はゼエゼエと肩で息をしていた。
「ハァ、ハァ…… た、大変だ!」
リーダーと思われる男が大声で叫ぶ。ミスリル製の装備から察するにC級の冒険者だろうか。
「おいおい、そんなに息を切らしてどうしたんだ?」
「ダ、ダンジョンだ! モンスターがあけた大穴から、新ダンジョンを発見した!」
「な、何だと!?」
思いもせぬ報告にギルド内はざわめく。新たなダンジョンの発見、それはつまりまだ誰も探索しておらず、手付かずであることを示す。新ダンジョンは踏破情報がなく危険であることを引き換えに、ダンジョンに眠る希少なアイテムや財宝を手に入れ一攫千金を狙える可能性があるのだ。冒険者達はもちろんの事浮足立つ。
「こいつは一大事だ! おい、新ダンジョンはどこで発見したんだ!?」
「や、止めておけ。あそこは俺達でどうにかできる場所じゃない……」
「おいおい、手柄を独り占めする気か?」
「違う、まずは話を―――」
男は周囲の冒険者達に質問攻めにされ始めた。誰もが一番乗りに攻略してやろうと躍起になっている。
「皆さん、落ち着いてください! まずはヒースさんの話を聞きましょう!」
何時の間にか移動したアンジェは声を張り上げ、男と冒険者達の間に入り仲裁する。ダンジョンを発見したヒースという男は何とか冒険者達の質問攻めから解放された。
「アンジェちゃんすまない、助かったよ」
「いえ。それに皆さん、今新ダンジョンの探索に行ったら、明後日の模擬試合に間に合いませんよ?」
「た、確かにそうだな。悪い、考えなしだった」
落ち着きを取り戻した周囲の様子にアンジェは安堵する。しかしギルド職員としての仕事はここからだ。できる限りの新ダンジョンに関する情報を聞き出し、危険性を審査しなければならない。唯でさえ忙しさに明け暮れる毎日だ。更に厄介な仕事が加わった事に頭を抱えたいが、こればかりは放置する訳にもいかない。回りまわって2日後の昇格式の開催に影響する可能性もある。こんな日に限ってリオは式の手回しの為の外出中、となれば今いる職員で対応しなければならない。
「ヒースさん、新ダンジョンについてお伺いしても?」
「場所は東のC級ダンジョン『クレイワームの通り道』だ。何時もの様に探索していた時に、巨大土竜が穴を掘っているのを見つけたんだ。穴を伝って巨大土竜を倒したまでは良かったんだが、倒すその寸前に掘った穴が広い空間に繋がった。一瞬しか見なかったが、そこには古めかしい建物と見たことも無いモンスターがいた! 仲間のモイは鑑定眼持ちなんだが、その時にモンスターのステータスを見て気を失いやがった。俺の危険察知スキルも警報を鳴らしっぱなし、気付かれないうちに退散してきたんだ」
「め、面目ねえ……」
「ったく、俺が背負って逃げなきゃ今頃あの世逝きだぜ? モイもパーズに戻る途中で目を覚ましたから、俺もあのモンスターのステータスは聞いてる。間違いなくA級クラスのモンスターだ」
「「「A級……!」」」
パーズ領域内の最高レベルのダンジョンはこれまでB級が精々だった。ギルド職員、冒険者達に緊張が走る。
「ダンジョンの中に別のダンジョン…… 早く告知しないと危険ですね。それに、まだ『クレイワームの通り道』に他の冒険者がいるかもしれません」
「だが、A級が相手となると俺たちじゃ太刀打ちできないぞ? 穴を埋めるのも危険だ」
「そうですね…… やむを得ません、ケルヴィンさんに依頼しましょう」
アンジェの提案に、他のギルド職員達はそれが妥当だと了承する。冒険者達も異存はない様子だ。
「ふーん。それで、その新ダンジョンってのは東のどこなのよ?」
「おい、アンジェちゃんの話を聞いてなかったのか? これはパーズ最強の冒険者であるケルヴィンさんにしか務まらな―――」
ヒースが呆れながら声の方向に振り向こうとするが、動作の途中で停止してしまう。上機嫌のセラが腕を組み、「さ、早く言いなさい」とばかりに返答を待っていたのだ。その背後にはジェラールとリオンの姿もあった。
「セ、セラさん!? それにジェラールの旦那にリオンちゃんまで!」
「ケルヴィンなら屋敷にいるけど、今所用で忙しいのよ。代わりにケルヴィンと同じパーティである私達が行ってあげるわ! 依頼をこなさなくても特別席があることだしね! さあ、思う存分情報を渡しなさい!」
傍若無人である。ヒースは困惑しながらも、アンジェに向かって「いいのか?」と視線を送る。
「ふう、セラさん達でしたら実力的に問題ありません。ギルド長は不在ですが、我々職員一同から特別依頼を発行致します。お願いできますか?」
「任せなさい、今日中に攻略して来るわ!」
「あ、あはは、心強いです……」
(セラねえ、特別席があることもしっかり聞いてたんだね……)
ヒースがセラに説明をしているうちに一同は解散していく。先程の切迫した雰囲気が嘘のように消失し、ギルド内には当初の賑わいが戻っていた。なぜなら皆思っているのだ。
セラさん達ならやってしまうだろうな、と。
「俺等から伝えられる情報はこんなもんですが、大丈夫ですか?」
「場所さえ分かれば問題ないわ」
セラは手書きの地図を受け取り、時間を確認する。
「狙うはボスモンスターよ。明日には他のS級冒険者が来てしまうから、大急ぎで食料確保しないとね! 今夜の夕食には間に合わせて、ケルヴィンを驚かせるわよ!」
「セラよ、冒険者がいたら救助することも一応忘れてはいかんぞ……」
『ジェラじい、何かセラねえに都合良く物事が進んでる気がするけど……』
『セラの幸運値は既に勇者を超えておるからな。ある意味必然かもしれん』
「さ、皆行くわよ!」
今にも突撃しそうなセラをリオンが呼び止める。
「セラねえ、格好が私服のままだよ! いったん屋敷で着替えないと!」
総合評価50000ptを達成致しました。
第52話時点で500ptだったのが、今ではこんなことに……
初心を忘れず、これからも頑張りたいと思います。
ヨッシャァァァ!




