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第101話 昇格通知

 ―――ケルヴィン邸


 パーズに到着したのは日が沈む間際になる頃だった。屋敷の正門にはいつもと変わらず、2体のゴーレムがハルバートを片手に鎮座している。こちらも異常はなかったようだ。


 正門を通り庭園の噴水前に差し掛かると、庭園の隅でリュカが草むしりをしているのを発見。俺たちが声を掛ける前にリュカがこちらに気付き、トコトコと小走りで向かってくる。


「ご主人様! おかえりなさい!」

「おう、リュカ。エリィの言う事をちゃんと聞いていい子にしていたか?」

「うん! お母さんと一緒にしっかり留守を守ったよ! メイド長もおかえりなさい!」

「ただいま戻りました。それでは早速、各所のチェックと参りましょうか」

「も、もう!? 少しは休もうよ~」


 一目で分かるほど嫌そうな顔のリュカ。エフィルの指導は結構厳しいからな。普段は温和で誰にでも優しいエフィルだが、メイドとしての職務には一切の妥協がない。それは部下であるエリィとリュカに対しても同様であるようで、相当ハードな教育を日々している。それでも二人から厚い信頼を得ているのは、高い目標に届かせる為に、しっかりと道筋を組み立て親身に接しているからだろう。


 あと、時たま作られるメイド用賄い料理も幾分かの要因かもしれないな。偶然廊下を通りかかったとき、涙ぐみながらリュカが賄いを食べているのを見てしまったことがある。主人だけでなく、部下の心まで胃袋から掴んでいくとは、エフィルもなかなかの策士よのう。


 ―――まあ、エフィルのことだからそんな意図はなく、リュカを労う為に作ったんだろうけどさ。


 そんなエフィルの育成方針のお陰か、二人ともメイドとしてぐんぐんと成長しているのが素人目にも分かる。レベルも十分に上げスキルポイントも稼いだことだし、将来が実に楽しみだ。


「あ、そうだ。お土産があるんだ。じゃーん!」


 リオンがエルフの里で貰った果物を取り出し、リュカに差し出す。


「わあ、見たことない果物! ねえリオン様、私も食べていいの?」

「うん! 梨みたいで美味しいんだ。たくさんあるから、後でエフィルねえに切ってもらおうよ」

「それなら私もできるようになったよ! よーし、特訓の成果を見せて―――」

「リュカ、そんなに騒がしくしてどうしたの? あら、ご主人様?」


 俺たちの声に反応したのか、屋敷の扉からエリィが現れる。リュカと同じく、こちらにも直ぐに気付いてくれた。玄関ホールの掃除でもしていたのかな。


「おかえりなさいませ。出迎えが遅れてしまい申し訳ありません」

「気にするな。それにちょうど今帰ったところだよ」

「エリィ、何か問題はありましたか?」

「いえ、全て滞りなく…… ただ、ご主人様宛に冒険者ギルドより文が届いております」


 このタイミングでギルドから連絡っていうと、昇格関係の何かだろうなー。


「手紙か…… 後でリビングルームにもってきてくれ」

「承知致しました」


 もう時間も時間だしな。手紙だけ見て、ギルドには明日顔を出すとしよう。


「あれ? そういえばお爺ちゃんは?」

「……ジェラールは1週間ほど修行の旅に出るそうだ」

「そうなんだ? お爺ちゃんにも私のナイフ捌きを見せたかったのになー」


 リュカは手をナイフに見立て、果物の皮をむく仕草を見せながら口を尖らせる。


「大丈夫ですよ。ジェラールの分も私が責任を持っていただきますから」

「あ、それ私も食べるわ。結構美味しかったし」

「よし、夕食後に皆で食べるとしようか」


 さ、屋敷に入って一休みするとしよう。


『王、王よ! 頼む、それを食べさせてくれぃ! 後生一生の頼みじゃー!』


 溺愛するリュカの手料理、ではないがカットした果物。何が何でも食したいジェラールの魂の叫びは空しく響くのだった。ちなみに謹慎中はジェラールの声のボリュームを多少落としているのでうるさくはない。


 我ながら悪魔じみた罰を思いついてしまったものだ。これではジェラールのメンタルが持たない気さえする。もう少し謹慎期間を短くした方がいいかもしれないな。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 ―――ケルヴィン邸・リビングルーム


 屋敷1階の比較的広い部屋に設けたリビングルーム。大人数が休憩できる憩いのスペースとして、エフィルと家具選びに力を入れた場所だ。いかにも洋風の暖炉に自前で取ってきた白獣牙ホワイトサーベルの毛皮絨毯。大きめカウチソファはセラとリオンのお気に入りのようで、この時間になるといつもゴロゴロしている。


「あ~、やっぱり我が家は落ち着くわね~」

「そうだね~。久しぶりだと尚更だね~」

「帰って早々占領してるのな……」


 俺が部屋に入ると既にセラとリオンがだらけていた。大きいといっても流石に二人が寝転がれば俺の座るスペースが微妙にない。何時の間にやらリオンの影から出てきたアレックスも暖炉前で丸くなっている。


 もうひとつソファを購入しようかと思案していると、エフィルが後ろから声を掛けてきた。手には茶を入れたカップを載せたトレイ。里の土産のひとつなのか、珍しい香りだ。


「失礼致します。ご主人様、ご夕食はいつ頃にされますか?」

「今は皆休んでいるし、1時間後でいいんじゃないかな。あ、でもエフィルも疲れてないか?」


 エルフの里からパーズまで、休憩を挟みつつではあるが結構飛ばして走ってきた。帰って早々調理をさせるのはエフィルに申し訳ない。


「私は大丈夫です。と言いたいのですが、エリィとリュカに止められてしまいまして…… 本日は二人がお食事を用意致します」

「お、珍しいな。料理を教えたり手伝わせることはあったが、二人に食事を丸々任せるなんて今までなかったぞ?」


 エフィルは調理場に関して拘りというか、プライドみたいなものがあるからな。どんなに疲れていても自分でやろうとするから、無理にでも休ませようと思ったのだが。


「それだけ心配されていたんですよ」


 メルフィーナがクッキーが積まれた大皿を持って現れた。


「メル様、菓子でしたら私がお運びします」

「駄目ですよ。これは私が運ぶんです。さっきもエリィ達に言われたのを忘れましたか、エフィル? あなたは何でも自分一人で抱え過ぎです」

「で、ですが……」

「ですがもカカシもありません。少しは周りを頼ることを覚えなさい。特にあなたの部下達に対しては、ね? 二人とも、あなたの力になりたがっているのですから」

「……何かあったのか?」


 俺の知らぬところで一悶着あったようだ。


「いえ、食事の準備をしようとしたら、二人に止められてしまいました。「メイド長も休まないと駄目っ」とのことです」

「そしてその場に颯爽と登場する私、リュカとエリィ側に回るのでした」


 メルがクッキーをひとつエフィルの口に押し込む。エフィルは恥ずかしそうにモグモグと食べる。


「これまで以上に頑張るといっても、無理はいけません。その結果倒れて悲しむのは、誰よりもあなたの大切な人なのですから」

「……そうですね、確かに心配をさせてしまっていたのかもしれません。ご主人様、エリィとリュカ、二人の成長は私が保証致します。どうか、二人の料理を召し上がって頂けませんか?」

「そうだなー」


 エフィルのほっぺを両手で引っ張る。


「ふぇっ!?」

「そんなの当たり前だろ。エフィルの愛弟子の料理、むしろ食べてみたいわ」

「そうそう、エフィルはもうちょっと緩くなった方がいいわよ」

「うんうん、僕らみたいに」


 セラにリオン、君らは緩過ぎだけどね。


「メイドとして気張るのもいいけど、たまには息抜きしてくれよ。ってことで、少しエフィルにその緩さを分けてあげなさい」

「「了解(よ)!」」


 エフィルが持つトレイをキャッチ。


「え? ええ?」

「さあエフィル、あっちで一緒にダラダラするわよ!」

「休みは謳歌するものだよ! さあさあ!」


 ずるずるとソファの魔に引きずり込まれるエフィル。ああはなって欲しくないが、少しはリフレッシュしてほしいものだ。


「メル、エフィルを気遣ってくれてありがとな。部下ができてから気を張ってたみたいだから助かったよ」

「私がやらなくてもリュカ達がそうさせていましたよ。何よりも、これで二人の料理も味わえます」

「お前……」


 こいつは本当にぶれないな。いや、照れ隠しか?


『王よ…… リュカの、手料理……』


 ジェラールも血の涙を流しそうな状態だ。


 分かったよ! 夕食前に謹慎を解くよ!


『王よーーー!』


 ジェラールからの忠誠心が上がった気がする。


 そんなこんなで騒がしい夕飯を迎える訳だが、4日後には結構重要なイベントが控えている。先程チラッと目を通したギルドからの手紙。そこには以下のことが記されていた。簡単に言うとこうだ。


 ①昇格試験の合格を認める

 ②正式な昇格式を4日後の冒険者ギルドで行う

 ③式の後、新S級冒険者と現S級冒険者同士の模擬試合を行う


 個人的には嬉しいけど、③は唐突過ぎると思うなー。祭りってそういうことですか……

ひとまず3章はここで終わりです。

登場人物をそろそろ整理したいですね……

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― 新着の感想 ―
[一言] ジェラールのこういう面白い一面が最高! ハーレムもので女性だけのパーティーで家に帰ってはひたすらイチャイチャする作品が多い中、この作品の良さは男性もパーティーにいて、家の中では笑える要素とか…
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