第418話 帰ってきた日常
ノリノリで臨んだ神々の戦いが不発に終わり、すんごく長かった話し合いも漸く終わった。そのまま神域に居残ってもやる事がないので(残された神々を地上に連れて鍛えようかとも思ったが、義体がない為の連れて行けない不具合が発生、今日のところは諦める)、俺達はその日のうちにパーズの屋敷へと帰って来る事に。
「お帰りなさいませ、ご主人様」
「おかえりなさ~い」
「パパ!」
色々あって微妙にしょげている今の心境だが、我が家のメイド達の挨拶はいつも通りだ。二人の声を聞くと、我が家に帰って来たって感じがして安心する。そしてクロメルの突撃抱っこも最高である。
「ただいま。屋敷に変わりはなかったか?」
「ええ、平和そのものでした。ただ、ご主人様宛にお手紙が届いています」
「手紙? 誰からだ?」
「それが、封筒に差出人の名前が記されておらず……」
「名無しからか、訳ありっぽいな。手紙はどこに?」
「分身体のクロト様を通じて、『保管』の中に」
「オーケー、取り合えずクロトの腹の中なら安全だ。後で確認してみるよ」
ただ、今直ぐって気分ではないかな。消化不良状態で慣れない事をしていたんだ、まずは地下鍛錬場でひと汗流したい。
「それ、妾が相手してあげようか?」
「だから、ナチュラルに心の声を読むなと――― いや、それ以前に何ナチュラルに一緒に帰宅してんの? マリアさんに久遠さんや」
なぜか仲間達に交じって屋敷にまで付いて来ているこの二人。まあそれは兎も角、さっきの提案は大変魅力的なものだった。ただ、うちの地下鍛錬場、耐えられるか……?
「お別れの挨拶をしようと思ってね。妾達、いったん元の世界に帰る事にしたんだ。ここにお邪魔してから結構経つし、一国の王として、あんまり長居はできなかったんだよね。国に残してきた娘達が、また無茶をしているかもだし」
「おばさんもね、日本に残してきた子供達の様子を確認したくって~。まあ家事とか元から投げっ放しだったから、全然問題なく生活しているとは思うんだけど、やっぱり親心ってあるじゃない? 家を空けていた間、どれだけ強くなったかも見ておこうかなって」
「なるほど、王様もお母さんも忙しいもんだな…… 今度はこっちからそっちの世界に行くから、その時は良い遊び場所を教えてくれよ。あ、でもどうやって行けば良いんだ? そういや行き方が分からん」
「妾の方から扉を開けてもらえるか聞いてみるから、それでオーケーが出たらまた伝えに来るよ。いつになるかは分からないけど、できるだけ早くになるよう頑張ってあげる」
「そうか、助かるよ。 ……ちなみになんだけど、例の大怪獣の件は?」
「はいはい、そっちについても妾の方で話を通しておくから。まったく、心して感謝してよね?」
はい、それはもう! あ、そうだ。折角だから、前々から密かに企んでいたあの計画についても、助けてもらえるか聞いておこうかな。できるかどうかは別にして。
「マリア、立て続けで悪いんだが…… ごにょごにょ」
「ふんふん? ……んー、どうだろ? そんなの妾は考えた事もなかったから、できるかどうか分からないや。でも、アガリアとヴァカラ爺の併せ技なら、もしかしたら……? うん、一応そっちのお願いも確認してみる。あんまり期待しないでね?」
「確認してくれるだけでもありがたいよ。つか、少しでも可能性がある時点で驚きなんだが」
「そこはまあ、妾のコネが凄いって事で♪」
そんなこんなでマリア達ともお別れ。最後にパーズの街を観光するから、やっぱ模擬戦は無理! と、バトルを断られてしまったが、それ以上の実りがあったので、不思議と俺の心は穏やかだ。
「ケルヴィン、さっきマリアと何を話していたの?」
「ん? あー、それはだな…… 秘密だ」
「は? ちょっと、何よそれ! 教えなさいよー!」
「ハッハッハ、個人的な事でそんな大層な話じゃないさ。どうしても知りたいってんなら、俺に模擬戦で勝ったら教えてやる。どうする?」
「フン、面白いじゃない。私が完勝して、根掘り葉掘り聞いてやるんだから!」
別に秘密にするほどの事じゃないけど、こうしたらセラはより本気になってくれるからな。これからスキップしながら地下鍛錬場に行けるってものである。
「パパ、セラさんの次は私ともバトルしましょう。私、最近は伸びしろの塊さんですので……!」
「おう、クロメルも随分やる気じゃないか? 良いぞ、パパはいつでも挑戦を受け付けているからな。セラに勝った後の回復なしの状態なら、ハンデとしても良い感じだろう」
「何でもう勝っている気になってんのよ!? もう怒った、今日は久し振りにボコボコにしてやるんだから! クロメル、残念だけど貴女の出番はない――― のは可哀想だから、適度にボコボコにして良い感じ負かしておくから、期待していなさい!」
「え、ええっと、お手柔らかに、です……?」
何その変な方向での気遣い? ま、まあ更にやる気になってくれたみたいだし、結果オーライ、なのか? しかし、クロメルとの模擬戦か。本気でやるとすれば、いつ以来になるかな。
……前からちょっと気になっていたんだが、アダムスとの戦いで『修羅』になった時、黒女神時代のクロメルの触手が使えたんだよね。ひょっとして、今のクロメルもアレを使えるようになったんだろうか? そうだとすれば…… うん、手負いの状態だとやばいかもしれん。フフッ、また楽しみが増えてしまったぞ。クロメルには今の良い子のまま育ってほしいが、是非とも実力は黒女神時代のものへ迫ってほしいからな。順調順調、未来は明るい! 俺の知らない情報がまだありそうだけど、不吉は俺にとっての吉兆と同義だから、問題なし!
「え、何々? これから皆して戦うの? なら、アンジェさんも参加させてもらおうかな。これから赤ちゃんができるのなら、動ける時に動いておきたいもん」
「そういう事なら僕も! アレックスはどうする?」
「ウォン!(参加で!)」
「リ、リオンちゃんとクロメルちゃんが参加するなら、私も。ずっと考えていた人形の新しい使い方、皆にお披露目したい!」
「であれば、正妻である私も。良い感じにお腹が空きそうですし」
「これからメル様とケルヴィン様とリオン様の汗が飛び散る熱戦が開始されるのですか……!? か、観戦希望です! 間近での観戦希望ですッ!」
「おっと、ワシの事を忘れておらぬか? 仮孫達の一番の注目を浴びるのは、このワシじゃ~~~!」
「おうおう、兄貴や旦那に負けてられないぜ! ムド、ボガ! お前らも準備は良いか!?」
「普通に怠い。それよりも甘味」
「お腹、減ったんだな……」
「うおおい!? この流れで何キッチンに直行しようとしてんだぁぁぁ!?」
「……(うずうず)」
「メイド長、食事は私とリュカが用意しますので」
「ご主人様と一緒に居て大丈夫だよ!」
「ッ! 二人とも、感謝します……! クロちゃん、一緒に行きましょう」
嬉しそうにクロトを頭に乗せているエフィルを目にして、俺もつられて笑ってしまう。何だ、結局全員参加になったか。
「おっし、こうなったら勝ち抜き戦だぁ!」
―――結局、家族全員が参加する事になった模擬戦は夜まで続き、地下鍛錬場の耐久度は急低下、結果として致命的なダメージを受ける事になってしまった。これは明日のうちに修繕しないと不味い…… などと思いながらも、疲労によりベッドにダウンしてしまう俺。
(ああ、久し振りの日常が帰って来たな)
と、懐かしみながら眠りにつき――― エリィに言われていた手紙の事を、すっかりと忘れてしまっていた。翌朝、その手紙を目にした俺は皆を連れ、まだ帰還して間もないと言うのに、西大陸を目指す事になる。
次回最終話。エピローグ、ステータスと続けて投稿します。




