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黒の召喚士 ~戦闘狂の成り上がり~  作者: 迷井豆腐
アフターストーリー3 結婚編
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第391話 奇跡は自力で起こすもの

 光で構成された不気味なギョロ目、その数、実に十。最早、死角なんてものはない。そう言わんばかりに、十の目はアンジェらを凝視していた。


「ああ、でもそれだけじゃないか。そこかしこに気配があって、本当に紛らわしいよね」


 マリアがそう言った瞬間、十の目が一斉にバラバラの方向を向き始める。しかし、その全ての視線の先には、またアンジェとアレックスの姿が存在していた。奇遇にも、その総数は十の目と同じである。


「分身の術、ってやつ? ワンちゃんの方は、影で作っているのかな? 良いね、お陰で少しだけ、舞台に活気が戻ったよ。妾が放った魔法を掻い潜って、これだけの数を維持できてるってやばいよね。無呼吸でやっているところも、無茶苦茶人間を辞めている感じがする」

(なら、もう少し驚いてほしいんだけどな!)

「もっと驚けって? んー、それは無理な相談かも? だって久遠が分身しているところ、前に見た事があるもん。それってシノビの技なんでしょ? 特殊な歩法と超高速のスピード、更には緩急を組み合わせて、意図的に残像をその場に残す秘儀。でもさ、妾とスピード勝負するのは―――」


 刹那、マリアの姿が消え、泡のみがその場に残った。


「―――悪手が過ぎると思うなぁ?」


 アンジェは無酸素中での残りの活動時間を吟味し、絶好のタイミングを見計らっての攻撃を行った。最高速でのフェイントを織り交ぜ、時に透過状態のまま攻撃をするフリをし、最大限マリアの気を散らす努力をした。しかし、駄目なのだ。どれだけ分身しようとも、どれだけ不意を突こうとも、今のマリアに死角はない。アンジェがそう悟ったのは、攻撃を行う為に『遮断不可』を解いた、その瞬間だった。


(タイミング、が……!)


 アンジェの目の前にはマリアの拳が置かれていた。完璧に攻撃を見切られ、完全なるカウンターを決められたのだ。同時に攻撃を繰り出そうとしていたアレックスにも、強靭なる人魚の尾が向けられている。確かに死がそこにある現実を前に、二人の脳内には走馬灯が過ぎ―――


「ンッ!?」


 ―――ったのも束の間、唐突にマリアの体が硬直し、動かなくなってしまう。


(こ、れ、金縛りの、類……!? 一体、どこから……!)


 マリア本人もこの展開を予期していなかったのか、本心から驚いている様子であった。また、それによりアンジェとアレックスの走馬灯も上映が中止され、現実に引き戻される結果となる。


『これ、ひょっとして…… アレックス、ともあれチャンス! この御祝儀、無駄にしちゃ駄目!』

『ウォ、ウォン!(よく分からないけど、分かった!)』


 攻撃、続行。完全停止したマリアに斬撃を叩き込み、置き土産の起爆符付の毒塗クナイも多数セット。マリアは五感奪取を食らい、ダハク印の猛毒を付与され、外付けの火薬庫を着火させられる羽目になるのであった。


「ったく、目ん玉が沢山ある奴を見ると、不甲斐ない後輩を思い出しちまう。後任の指導、もっとちゃんとしとけってんだ。お陰でまた余計な寿命を『偽神眼』に使っちまったよ。あーあ、御祝儀にするにしても、出費がでか過ぎる…… だが、今度は当ててやった。うん、少しスッキリ!」

「……なあ? 今更だけど、良かったのかい? 外からの手出しは反則な気がするんだが?」

「ハッ、私はこの模擬戦を見ているだけだよ。それにだ、ケルヴィン君とこのお嬢さんだって、外から似たような事をずっとしているだろう? ほら、同じ事だよ、同じ事。見てるだけ見てるだけ」

「同じか……?」


 画面に映されていない秘密の閲覧席の一つから、そんな会話が聞こえてくる。尤も、二人以外の誰に聞かれる事もなかった訳だが。


 ―――ズズズゥゥゥン!


 水中にて、機雷が爆発したかのような重い音が鳴り響く。どうやらマリアに突き刺さったクナイ、そこに付けられた起爆符が爆発したようだ。


「けほけほっ! うーっ、今ので勝ったと思ったのに、とんだ横槍が入ったものだよ」


 爆発の中から姿を現したマリアは、既に全快した状態であった。五感を取り戻し、猛毒も全く意に介していない。


「君もそう思わない?」

「さて、さっきまで竜巻の中で奮闘していたものだから、何の事だか分からないな」

「ケルヴィン君、あんまり無理しないで……!」


 爆発明け、そこにはアンジェ達と共に立ち並ぶ、瀕死のケルヴィンの姿があった。無傷な装備とは裏腹に、ケルヴィン自身は全身をズタズタに切り裂かれ、血塗れである。もう立っているのもギリギリのようで、アンジェが支える事で何とか、という状態だ。


「そろそろ限界みたいだね。その傷、回復しなくて良いの? それくらいの時間なら、淑女な妾は待ってあげるよ?」

「いや、その必要はない。どういう訳か魔法の効きが悪くてな。回復薬も意味がなくて、この様さ。一体どうすれば風の魔法にそんな性悪な力を付与できるのか、今度聞いてみたいところだよ」

「へぇ、そんな意地の悪い人が居るんだね? 世界は広いな~。 ……でも、まだ諦めていないんだね?」

「そう見えるか?」

「うん、君の目を見れば分かるよ。それ、未だに自分の勝利を疑っていない、そんな目だ。何で? 何でこんな状況で、まだそんな目ができるの?」

「ハハッ…… そのまんまの意味で、勝つ自信があるからじゃないかな」

「またそんな戯言を――― って、あれっ?」


 ここに来て、マリアはある事に気が付く。フィールド一帯に展開させていた彼女の魔法が、全て消え去ってきたのだ。竜巻も剣の雨も、また、真っ赤に染め上げれていた水も、その透明度を元の状態にまで戻していた。


(やば、五感がなくなっていたのと、爆発の余波で察知が遅れちゃった。でも、何で妾の魔法がなくなった? 海亀の血海モドキミステリースープと同じで、放っておいても暫くはそのままの筈なのに。そう言えば、ケルヴィン君達も普通に喋るようになって――― いや、待って? ケルヴィン君の配下って、これで全部だったっけ? 確か、ケルヴィン君が最初に出した魔法陣の数は……)


 改めてマリアは思う。仲間の数、合わなくない? と。


「……周りに、曖昧な気配がまだ漂ってる。これ、今まではアンジェちゃん達のものだと思っていたけど、どうやら違ったみたいだね。二人は今、妾の前に居るし」

「気が付いちゃったか。ああ、実は居たんだよ。俺達の真の奥の手である、このクロト・・・がな」


 そう言って、手元から小さなクロトの分身体を取り出すケルヴィン。見てくれはただのスライム、だが、スライムはいつの時代も油断ならない存在だ。マリアもその事を知っているのか、この戦いが始まって以来の怪訝な表情を見せていた。


「接触した対象から魔力を吸収する、クロトにはそんな力があってね。で、この戦いが開始されてからずっと、フィールドの海水に擬態してもらっていた。マリア、お前の底なしの魔力を、文字通り水面下で拝借する為にな。お前から吸収した魔力もやばい量だったが、他にもガンガン強力な魔法を使ってくれたから、正直怖いくらいに魔力が集まってたよ」

「……は?」

「ハハッ、スライム独特の粘度を水のそれにまで変えていたから、全然気が付かなかっただろ? 魔力を吸収する以外、クロトの方から危害を加える事もなかったしな」

「………」


 マリアは耳を疑った。


(水に擬態して、魔力を吸収していた? 確かに、海水とそう変わらない見た目をしたそのスライムが、無抵抗のまま海水中を漂っていたのなら、見落としちゃう可能性はある。けど、それはあり得ない。妾が本気で殴って、魔法を放っていたこの戦いで、無抵抗でいられ続ける生物なんて存在し得ない……!)


 そう、本来であれば、そんな事はあり得なかった。如何に高いステータスを誇るクロトと言えども、全力のマリアが解き放つ行動の全ては、即、死に繋がってしまうものばかり。しかし、今回に限ってはそれがあり得たのだ。


「ちなみになんだが、俺が両腕に装備しているこれ、悪食の篭手スキルイーターといって、他人のスキルを一つだけコピーする事ができるんだよ」

「……急に何の話かな?」

「素直な親切心っつうか、マリアの疑問に答えてやろうと思ってさ。話の続きだが、この悪食の篭手スキルイーターの片方には、とある人物から借りた固有スキルが登録されている。で、ついさっきまで、その悪食の篭手スキルイーターはクロトに貸し出していたんだ。俺の片腕と悪食の篭手スキルイーターの間にクロトが入り込めば、疑似的にクロトが装備している事になるからな」

「ふーん? 面白い装備だけど、だからと言って妾の攻撃を完全に防げるように、は……」


 急に黙り込むマリア。そんな彼女の様子を目にして、ケルヴィンはマリアがある答えに辿り着いた事を確信するのであった。


「流石、ママ友なだけあって察するのも速いな。そう、こいつにコピーさせたのは、久遠の『波羅蜜はらみつ』だ。駄目元で相談しに行ったら、快く貸してくれたよ」

「く、くおおぉぉぉん!?」


 マリアらしくない、彼女の素の叫びがフィールドに響き渡った。

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