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66:〔スキマ妖怪にしてやられ〕

「兄様〜〜!!」

「っと……よしよし」


場所はマヨヒガ。

布団から飛び付いてきた橙を受け止め、ピコピコ動く耳ごと頭をわしわしと撫でる。

橙は藍とは違い、会っただけで僕を思い出したらしい。ただ、いきなり記憶が蘇った反動か、会っていきなり倒れたのにはさすがに驚かされたが。


「橙は大丈夫だったの?」

「? 何がですか?」


僕の質問の意味がわからないのか、橙は僕にしがみつきながら首を傾げた。

……むぅ、どういうことだ?


「橙は、ミコトさんが封印されたことを知りませんでしたから」

「藍」


コトリ、と僕の前に湯呑みを置く藍。橙を挟むようにして僕の向かいに座る。


「私はミコトさんが封印された事実を知った状態で記憶を封じましたが、橙は何も知らないまま記憶を封じましたからね。私はあの時の、その……悲しみというか、感情まで思い出してしまいましたが、橙は」

「何の話ですか?」

「いや、なんでもないよ」


藍の言葉を聞いて不思議そうにしている橙。その頭を撫でながらごまかしを入れ、藍と橙の顔を交互に眺めてみる。


――藍は僕が封印されたことを知っていた。


――橙は何も知らないまま記憶を封印された。


「…………ふむ」


なるほど、橙には記憶が戻っても藍のように『拒否』を起こす程大きな悲しみが存在しなかった、ということか。

『僕が封印された』という記憶が元から無いのだから、悲しむ理由が存在しないのだ。

それなら記憶が戻っても『確かに今までいなかったよな』ぐらいの矛盾と疑問しか感じない。たとえその疑問の答えがわかったとしても、僕は今こうして存在しているのだから悲しむ道理も無いだろう。


と、いうことは。


「藍はある意味特別だった、ってことかな?」

「まぁ、確かにそう言えるかもしれませんね。封印関連でその真実を知っているのは、記憶を封印しなかった者を除いて私しかいませんから」

「そうか……なら」

「ですが」


藍の表情が引き締まった。

僕はそれを見て撫でる手を止める。


「橙は何もありませんでしたが、他の方々が全員橙と同じように行くとも思えません。それなら、紫様が封印を解いた時に記憶が戻っていて当然ですから」

「……わかったよ。気は抜かない」

「はい。そうしてください。ミコトさんはただでさえ自分を蔑ろにしがちですから」

「…………」


困ったような笑顔で言う藍に、僕は苦笑いで返した。

反論出来ないなぁ、とか思いながらふと視線を落とせば、そこには。


「フニャぅ……」

「あら……フフッ」


幸せそうに眠る橙の姿があった。




















「さてと」

「行くの?」

「ん。どうせなら早く終わらせたいから」


翌日。

外で思い切り身体を伸ばして準備運動しながら、隣に立っている紫とそんなやり取りをしていた。


「そう……。油断はしないでね」

「紫が心配か。よっぽど僕は信用されていないらしい」


笑いながら僕はもう一度身体を伸ばす。

妖力は万全、身体もいつも通り。能力も問題ない。


「ミコト」

「さて行くか……って、どうかしたの……」


さぁ行こうと膝を曲げたところで紫の手が肩に乗せられ、タイミングを外した僕はその場で固まった。

それというのも、僕の頬に現在進行形で柔らかい感触が伝わってきているからで……。


「……フフッ。早く終わらせてきなさいな。待ってるから」


その感触が離れると同時、僕の足元にスキマが開いていた。


――――やられた。


スキマに身体が落ちていく。

その刹那、うっかりすれば見逃してしまいそうな程ほんのりと頬を紅くした紫の顔が見えた。



「……感情、操られた……」



そんなことを呟いてから、僕は自由落下に身を任せたのだった。

期間が開いた上に短い……。


頑張らなければ!

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