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62:〔紅魔館〕

軽くなった頭に若干ながら違和感を感じ、首を回して身体を伸ばす。


「さて、紫。僕は何をすればいいのかな」

「目覚めたばかりの貴方に働かせるのも何なのだけれど……。貴方にはこの館の持ち主、レミリア・スカーレットと話を付けてきてほしいわ。状況次第では実力行使もありえるから、気をつけて」

「それならアタシが行った方がいいんじゃないかい?ミコトはまだ目覚めたばかり。今見た限りじゃあ心配なさそうだが、カンが鈍っているかもだしねぇ」

「私もそう思う」


僕の右で桃鬼が、左で妹紅が言う。

確かに戦闘のカンが鈍っていないとは言い切れないが……。


「いや、僕が行くよ。なに、心配はいらない」

「……悪いわね」

「なぁにを紫らしくない。じゃ、とっとと終わらせてのんびりするとしようか」


再度大きく伸びをして、妖力を足へと集中。

顔を上げ、どこから館に入ろうか考える。窓が極端に少ない造りをしているから、やはり入るとしたら玄関から。

考えが纏まり、さあ行こうと走り出す。が、


「行かせはしない!」


先程の二人が、僕の行く手を遮るように立ち塞がった。

思わず立ち止まるも、すぐに地面を蹴って二人の頭上を越えていく。


「待て!」

「おっと。アンタ達の相手はアタシだよ」


投擲されたナイフが空中でグシャッと潰れ、十六夜咲夜は声がした方へと振り向いた。

そこには、握りこぶしを空に掲げた鬼がいた。


「アタシが中で暴れたら、あの建物が壊れかねないからねぇ……。なに、コイツラ相手、二対一なんてハンデにもならないから安心しな」

「……任せた!ミコトさん!」

「私も行くわ」


鬼に気を取られている二人の横を通り抜け、僕の傍へと飛んでくる紫と妹紅。

……いや、気を取られているんじゃない。桃鬼から目を離すことができないのか。


「桃鬼!」

「あいよ」

「落ち着いたら、一杯やろう」


僕の言葉を聞いた桃鬼は、嬉しそうに表情を綻ばせ、


「約束だよ」


振り上げた拳を、地面にたたき付けた。

地面にひびが入り、粉塵が舞い上がる。


「ハハハハハッ!!さぁ、かかってくるがいい!!」


強大な妖力が辺りを覆った瞬間、僕達は館の中へと飛び込んだ。


「くっ!お嬢様……!」

「咲夜さん……!ここは私に」

「よそ見とは余裕じゃないかい?」

「「!!」」


驚いた二人に、鬼神の一撃が襲い掛かった。






















「また随分と広いな……。外見と中身が一致してないのは気のせいか?」


中に入った僕達を出迎えたのは、予想外に広い館内と、大量の妖精さんだった。

剣やら槍やら弓矢やら。たまにスプーンやフォークなどといったナメた装備で襲い掛かってくるメイド姿の妖精さん達。

僕はそれを能力を纏わせた弾幕で撃ち落としながら、しらみつぶしに館内を走り回っていく。


「一体どこにいるんだ、そのレミリアとやらは」


スピードを出し過ぎたのか、ついて来ていたはずの紫と妹紅の姿は消えていた、

まぁ、あの二人ならやられることもあるまい。

僕はある扉の前で立ち止まり、ドアノブに手をかける。


「ここか!!」

「ひゃあ!ゴメンナサイゴメンナサイ!……って、あれ?」

「…………」


そこにいたのは、背中から黒い羽を生やした少女だった。よく見れば頭にもそれはあり、頭に羽とはまた変わっているな、などと場違いな感想が頭を過ぎる。

この部屋は厨房らしく、少女の前には半分に切られたケーキ。妖精さんが二体ほどもくもくと幸せそうに食べている。

見れば、羽を生やした少女の口には、白いクリームがついていた。


「………………では」


何も見なかったことにして、ゆっくりと扉を閉める。

さて、レミリアとやらは一体どこに……「待ってくださぁい!」えぇい、なぜ見て見ぬ振りをしたのに出てきた!


「このことは、このことはどうか誰にも……!」


涙目で懇願してくる少女。別に誰にも言う気はないのだから、早く解放してほしい。彼女の突撃に耐え切れずに倒れてしまい、僕の上に覆い被さるようにして彼女は懇願しているのだ。


「あ」


と、ここで僕は思いついた。


「ねぇ。君ってここに住んでるんだよね」

「へ?あぁ、まぁ……」

「じゃあさ……」


身体を起こし、キョロキョロと辺りを見回す。

誰もいないことを確認した僕は、彼女の口元のクリームを指で拭い。


「誰にも言わないからさ、ここの主人に会わせてくれないかな?」


そのクリームを彼女の口に入れながら、僕は耳元で囁いた。


「んむぅ!?……む、ぅん……」

「あぁ、ごめんよ」


ちゅぱっ、と音を立て、彼女の口から指を抜いた。もちろん爪はしまっている。


「で、どうするの?」


再度聞くと、彼女は顔を真っ赤にしてコクコクと頷いた。

あれ、感情を操った覚えはないが……。


「こぁ。何をしているの?」

「「!!」」


廊下の端、暗がりから聞こえた声。

瞬間、少女は僕の上から飛び降りた。


「お茶を入れに行くと言って帰ってこないから来てみれば……。貴方ね、外で騒々しくしてたのは」


パタパタと羽ばたきながら少女が向かった先にいたのは、本を片手に持った、紫の長い髪をした少女。

彼女の命を感じ、僕は違和感を覚えた。

この命は、人間でも妖怪でも、ましてや神とも違う。いや、どちらかと言えば妖怪なのだろうが……。


「君は?」

「パチュリー・ノーレッジ。魔法使いよ」

「魔法使い……通りで」


ははぁと納得している僕は、その体勢のまま首を横に曲げた。

ジリジリと焦げた髪の毛を触り、今まさに火玉を飛ばしてきたパチュリーを見る。

彼女の隣にいる少女も、驚いたように彼女を見ていた。


「大方、レミィの邪魔をしにきたんでしょうけど。そんなことやめて帰った方がいいわ。彼女は吸血鬼。貴方のようなただの妖怪が勝てる相手じゃない」

「……嫌だと言ったら?」

「その時は、面倒だけど私が殺してあげる。それがせめてもの情けよ」


そう言った彼女の頭上に、高密度の火玉が浮かび上がった。先程の火玉の約三倍程の大きさ。それでいて密度は更に高密度。

パチュリーとは数メートル離れているというのに、その熱気がこちらにまで伝わってくる。


「へぇ。私の炎とどっちが強いかね」


と、背後からも強い熱気が。

振り返ればそこには、勇ましく燃える火玉を浮かべた妹紅の姿。


「ミコトさん。ここは私に任せて、先に」

「大丈夫か?」

「誰に鍛えられたと思ってるんだか。心配は無用だよ」

「……なら、任せた」


熱気が支配する廊下。僕は黒い羽の少女の横を通り抜け、


――突き当たりの廊下、右の階段――


「…………!?」


少女の呟きを聞き取った僕は、走りながら振り向いた。

少女は、少しだけこちらを振り向き、またすぐに前を向いていた。

すぐに突き当たりに到達し、右の階段を降りる。しばらく進んだその先には、一際豪華な扉があった。

僕は考えることをせず、ただその扉を押し開ける。


そこには。


「ようこそ。我が紅魔館へ」


大きな椅子に座った、小さな少女の姿があった。


「君が……」

「えぇ。吸血鬼にしてこの館の主人、レミリア・スカーレットよ」


ピィン、と空気が張り詰めていた。

なるほど、吸血鬼の名は伊達じゃあない。向こうが何年生きてきたのかは知らないが、少女の振る舞いには全く違和感がない。


「僕はミコト。猫又だ。早速だけど、本題に入っても?」

「構わないけれど。私は誰の言うことも聞く気はないわよ」

「……なら、これから僕が取る行動もわかるかな」


しまっていた爪をジャキリと伸ばし、身体に妖力を充満させて睨みつける。

しかし、彼女は依然としてその高慢な態度を崩さない。完全にこちらを見下している。


「……少しばかり、痛い目に遭わないとわからないみたいだな」

「貴様ごときに言われる筋合いはないわ」

「ほざけ!」


瞬間、僕は地面を蹴った。

一直線にレミリアへと突き進み、


「――お嬢様ァ!!」

「咲夜ッ!?」


――いつの間にか僕の背後に現れていたあのメイドが、大量のナイフを僕に向かって一直線に投げ付けていた。


僕の身体はすでに空中、このタイミングでは弾幕も間に合わない。


「くっ……!!」


背後に迫る銀色の凶器。避ける術も、防ぐ術も持たない僕に、そのナイフは見事に突き刺さり――。










「…………な…………」













――突き刺さりは、しなかった。


地面に着地した僕は、呆然としているレミリアを無視して、全力で走った。

そして、ナイフが全身に突き刺さった彼女を、八雲紫を、抱き上げた。


「……フフ、馬鹿、みたい。なんで、こんなことしたのかしら」

「……!」

「大丈夫よ……。死にはしないわ」


ナイフが僕に当たる寸前、トン、と誰かに背中を押された。

その正体は、紫だったのだ。

けど、一体なぜ。

いつもの紫なら、こんな大怪我を負わずとももっと上手く立ち回っていたはず。


「なんて、顔、してるのかしら」


紫の身体から全てのナイフを抜き取った僕の顔に、紫の手が当てられる。


「……馬鹿」

「自分でも、そう思うわ。けど、あの時は、この方法が一番良いと……」

「わかったから。……わかったから」


紫を地面に寝かし、僕は彼女の身体に手を当てた。

目を閉じて、能力を発動。


――『命を分け与える程度の能力』――


「傷が……」


聞こえた声は、レミリアのもの。

目を開けば、そこにはすやすやと眠る、傷ひとつない紫の姿。よかった、上手くいった。


「さて」


紫を部屋の隅へと寝かし、僕は一人の人間を睨みつけた。


「…………!!」


身構える彼女。だが、もうその場所に僕はいない。

背後から頭をわしづかみ、片手で持ち上げる。


「やってくれたな」

「あ……ぐ、ぎ……!!」


必死に抵抗する相手。僕はそれを見て、思い切り床にたたき付けた。

今の僕の表情はとても冷たいんだろうな、と自分でも思う。

転がっていった彼女に近づいていく。が、三歩目でその歩みは止まった。


「それ以上咲夜に近付くな。殺すぞ」

「……誰が、誰を?」


巨大な槍を僕に突き付けているレミリア。

彼女の感情が、僕に流れ込んでくる。


「そっか……同じ、だもんな」


ブンブンと頭を振り、レミリアの背後で倒れている彼女を見る。

彼女は、レミリアを守るためにあの行動をとったのだ。

そして紫は、僕を守るためにあの行動をとった。

どちらも何かを守るためにとった行動。結果はどうあれ、そこに害意や悪意は無かった。

なら、ここで僕が感情的になるのは、あまりにも愚かしい。


「……すまない。少し、取り乱した。彼女にはもう何もしないよ」

「……本当に?」


ふっ、とレミリアの表情が緩んだ。その表情はとても幼く、見た目相応なもの。


「彼女の身体を治そう。その代わり、レミリアのしようとしていることをやめてくれないかな。正直、僕はもう戦う気分じゃないんでね」

「……わかったわ。貴方の言う通りにしましょう。だから、咲夜を」



そう言うレミリアの表情は、とても不安げなものだった。

だれかミコトやら桃鬼やらのイラスト書いてくれないかなぁとか思う今日この頃。


どなたかの作品とコラボってもみたい今日この頃。



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