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6:〔フタツデヒトツ〕

僕がこちらの世界に身を置いてから、早十年が経っていた。

この十年、特に何もやるべきことがなかった僕は、とりあえずこの世界のことを調べていたのだが、まぁなんというか予想通りいろいろと奇想天外な事実が飛び出してきた。


まず、ここは過去の日本だということ。まぁ、これは予想が出来ていたのであまり驚きはしなかった。むしろここが現代とか言われたらその方が驚く。


次に、この世界、というか時代では、僕や桃鬼のような妖怪が当たり前のように存在していることがわかった。

というのも、僕が目覚めた頃はさほど数がいなかった妖怪も、人類の増加によってここ最近はよく目にするようになったからそういう結論に至ったのだが。この間なんて森に迷い混んだ人間を僕の目の前で食おうとした妖怪がいたぐらいだ。勿論その妖怪は少し痛い目に遭ってもらったが。


とまぁ、他にもいろいろとあるのだが、大きなことはそれぐらい。それでも十分僕は驚きを隠せなかった。疑うことはしなかったけれど。


そして最近、僕に二つ名が出来た。名前自体まだ無いのに二つ名もあったもんか、とも思ったがついてしまったものはしょうがない。

その名も『灰色の風』。

カッコイイんだかわるいんだかわからないのが微妙なところである。

この二つ名の由来は、僕の闘い方にあった。妖怪が増えたことにより、必然的に他の妖怪とも接する機会が増えたのだが、いかんせん好戦的な奴が多すぎて否応なしに闘いに発展してしまうのである。

そして迷惑なことに、だいたいが桃鬼の名を聞いて闘いを挑みにきた鬼なものだから、力でぶつかれば苦戦は必死。そんな中僕が武器に選んだのが、スピードだった。

木々の間を縦横無尽に飛び回り、相手が隙を見せた瞬間に首に一撃。

そんな闘い方ばかりしていた結果、あのような二つ名が付いたのであった。


「で、アンタはいつになったら名前が出来るんだい?」

「うん?」


僕を膝の上に乗せ、撫でながら聞いてくる桃鬼。

ちなみに今は純粋な猫の姿。

この十年で妖力なるものが増え、いわゆる変化と隠行なるものが使えるようになっていた。


二又の尻尾をクルクルとねじりながら、僕は考える。


「名前、ねぇ」

「二つ名があるのに名前がないのは流石に変だろう」

「まぁ、ね」


確かにそうなのだが、とポテンと顎を桃鬼の手に乗せる。


「どうつければいいのかわからない」

「見た目からつければいいじゃないか」


至極真っ当な桃鬼の言葉。なるほど、見た目から連想出来る名前を付ければ、覚えてもらうのも楽かもしれない。

と、いうことで。


「よっ」


桃鬼の膝から飛び下りて、人型に戻る。

自分の名前に使えそうな特徴は…………。


「灰色かな」

「灰色だね」


やはり、それぐらいしか見当たらない。

灰色の瞳に灰色の髪。更には灰色の着物(気分で変えてみた)。


灰……ハイ……はい、かぁ……。


「ごめん、思い付かない」

「早いよ」


即座に桃鬼に突っ込まれ、僕は再度頭を悩ませる。自分の名前にここまで悩むとは思わなかった……。


「ま、別に灰色にこだわる必要もないがね」

「あ、そうか」

「……アンタ、真面目に考えてるのかい?」

「考えてなかったらこんなに悩んでないんだけど……」


僕は胸に手を当てて、『彼女』を思い浮かべる。このしっかり刻まれている鼓動は、『彼女』がいなければとっくに止まっていただろう。


「命……ミコト、なんてどうかな」

「アンタがいいならアタシは何も言わないよ。……ミコト、ね」

「うん、決めた。これから僕は『ミコト』。猫又のミコトだ」


改めて言葉にして放つ。すると、


「っ?」


一回、一回だけ。

まるで僕の身体じゃないかのように、鼓動が身体全体に響き渡った。


そして、口が開き、勝手に言葉が紡がれる。


「『命を感じ取る程度の能力』……?」

「!?」


桃鬼が驚いたようにこちらを向く。それすらあまり気にならず、僕は自分の胸に手を当てたまま動かずにいた。


だって、聞こえたんだ。


確かに、言った。


『彼女』が、僕に向かって。


とっても優しく、嬉しそうな声で。


僕は、目をつぶって、一度だけ思い出す。


最初で最後の気がする、『彼女』の声と、言葉を。





――ようやく、一つになれたね――


能力がもう一つ覚醒しました。


さて、この能力。

名前からもわかるようにあまり戦闘には向きません。

現時点では、主人公と『彼女』の絆のアカシ、と考えてくれればありがたいです。


主人公と彼女、フタツが合わさって『ミコト』。命です。



はい、言いたかっただけです。自己満足です……。


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