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59:〔時を経た幻想郷 蓬莱人と月の頭脳〕

とある竹林。

進めど進めど景色が変わらず、かと思えば次の日には全く違う景色へ変わる。

迷った人間は数知れず。竹林に入ったきり帰らない者が多発するこの場所は、何時しか人々からこう呼ばれるようになった。


――『迷いの竹林』――


そんな危険極まりない場所を、平然と歩く女が二人。

灰色の妖獣を引き連れて歩く白髪赤眼の人間――藤原妹紅は、代わり映えの無い道をただ歩き続けていた。










「なぁ」

「?」


私が話し掛けると、少女は首を傾げて反応した。立ち止まった私から数歩先の場所、規則正しく鳴っていた着物の金具がチリンと鳴ったきり音を止める。


「私の事を、知っているか?」

「…………」

「別に答えたくないならそれでもいい。ただ、私はそれ以上聞く気も無いから」


黙る彼女を追い越し、私は少し湿った土を先程までと同じように踏み締める。

向かっている場所まではあと少し。とっとと行ってしまおう。


「…………」


私の足音より少しテンポが早い音が後ろからついてくる。

私はそのまま、何も言わない彼女を引き連れて進んでいった。










「……また来たの。貴女も暇ね」

「残念だが、今日はお前に用は無い。薬師はいるか?」

「永琳なら中に「呼んだかしら?」……」


図ったかのように現れた薬師に、輝夜が若干顔を引き攣らせているがそれは無視。

私は私の身体の後ろに隠れている少女を前に押し出し、その風景から身体ごと視線を逸らした。

ザワザワとさざめく竹林を見上げ、空を、遠くを眺める為に顔を上げた。


――不覚にも、涙が零れそうだったから。


私には、ミコトさんの記憶がある。妖怪賢者に選択肢を与えられた私は、記憶を残す選択肢を選んだ。

その時のことは、今でも鮮明に覚えている。










「……話はわかった。でも、何故それを私に話した。記憶を消すなら、話しても話さなくても変わらないだろう」

「私もそう考えていたわ。けれど、全ての妖怪、人間から彼の記憶を一時的にでも封印してしまったら、彼の存在そのものが危うくなってしまう。だから私を含め、何人かは彼の事を覚えていなくてはいけないの。……彼が消滅する、なんて可能性、かけらでも残してはおけないもの」

「結界が消えてしまうから?」

「建前はそうさせてちょうだい」


一瞬悲愴感を感じさせる表情が見え、しかしすぐにそれは消え去る。彼女とて、辛いのだろう。

私は、しばらく考えた後に記憶を残す道を選んだ。

選択肢を出された時点で、私の答えは決まっていたように思えた。










「…………うん?終わったのか」


トントン、と背中を小突かれ振り返る。そこには、別段変わらない表情の少女がいて、私を見上げていた。

そして、ペこりと頭を下げると、地面を蹴って竹林の中へと消えていった。その姿は、さながら灰色の風のよう。


「……帰るとするか」


永遠亭に背を向けて、少女が消えた方向とは逆方向に足を向ける。


何が起きているのかはわからない。

彼女が何者なのかも、確信は得られない。

けれど、私の中の何かが告げているから。

『その時』が来るまで、涙はしまっておこう。















「これは……薬?私が作ったものみたいね」

「…………」


少女が私に渡してきたものは、灰色の小さな箱だった。中には、これまた灰色の丸薬がぎっしりと詰まっている。


「変ね……。これは貴女にじゃなく、彼に作ったものなのだけれど……。あら、彼とは、誰だったかしら……」


箱を閉じ、疑問を覚えながらも目の前の少女を見つめた。

そういえば、彼女の姿にもどことなく見覚えがあるが……気のせいだろうか。


考えていると、少女はペこりと頭を下げ、妹紅にも頭を下げると信じられない速さで竹林へと消えていってしまった。


「おかしいわね……」


あれだけ特徴のある妖怪なら、忘れるはずはないのだが……。


モヤモヤした気持ちはなかなか消えず、私は腕を組んだまま部屋へと戻った。

短い上に、現在物語は膠着状態。


『早く物語進めろや!』なんて声が聞こえてきそうな今日この頃。

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