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54:〔最後の宴会、そして〕

「う、ん……」


何やら騒がしい雰囲気の中、僕は頭を抱えて身体を起こした。

開き切らない眼、細い視界で辺りを見回す。


「目が覚めましたか」

「……志妖」


すぐ傍にいたらしい志妖の声に応え、頭を振って頭の覚醒を促す。目を擦って一度目をパッチリと開くと、志妖の背後ではお祭り騒ぎが開かれていた。


「地上最後の大宴会、らしいです」

「そっか……。僕はどれくらい寝てた?」

「いいえ、さほど。今、夜になったばかりですから」


宴会の様子を眺めながら言う志妖につられ、僕もそちらに目を向ける。皆、楽しそうに酒を飲んで騒いでいる。


「地上最後の、か」


口にして、少しだけ申し訳ないような気持ちになった。

地底に追いやる立場として、少なからず感じるところはある。今更気にしていてもしょうがないのだけれど。


「ミコトさん!」

「文、椛」


翼をはためかせ、空から天狗の二人が慌てたように降りてきた。ていうかこの鬼だらけの広場にまだいれたのか、宴会だからか?


「何を慌てて。何かあったの?」

「そ、それがぁ……」

「私達では手に終えないお二方がですね……」

「手に終えない……?」


立ち上がり、身体を伸ばしながら繰り返す。

そういえば、桃鬼はどこだ?


「志妖」

「……迂闊でした」



やり取りはそれだけ。

たったそれだけの会話で、僕と志妖の間には通じたモノがあった。


「二人共、案内して」

「は、はい!」










「だからぁ〜、ミコトはアタシのだって言ってるだろう〜?」

「聞いとらん。飲み過ぎじゃ魅王……おや、そこにいるのは」


案内されてたどり着いたその場所には、悲しくなってくるほど酔っているのがまるわかりの桃鬼と、それに絡まれている(二重の意味で)鳴雷がいた。

鳴雷は、僕の姿を見るなり笑顔を見せて桃鬼を引きずりながら歩みよってきた。

なんだ、呼んだのは鳴雷か。てっきりまた桃鬼が大乱闘引き起こしたのかと思ったよ。


「ミコト。我等は明日より地底に向かうことにした」

「明日……ですか」


そんなに急がなくとも、と言おうとしてやめた。それは僕が言っていい台詞ではない。


「ですが、全員が地底に行くわけでもないのでしょう?」

「うむ。コヤツや志妖、それに萃香も残ると言っておる。何かあったら、助けてやってくれ」

「……もちろんです」


そう答えた僕を見て鳴雷は満足げに頷くと、次は僕と志妖の後ろにいる天狗組に視線を向けた。

それに気付いた僕は横にずれる。二、三歩歩いた鳴雷は、二人の前に立つと椛と文の顔をしばし見つめてから口を開いていた。


「鴉天狗に白狼天狗。天魔に伝えよ。そなたらにこの妖怪の山を任せる、とな」

「「は、はいっ」」


二人の答えに、また同じように満足げに頷く鳴雷。

そして今度は僕の方を向いた。

先程までの、どこか凛々しさを感じさせる表情ではなく、くだけたような柔らかい表情。


「さて、飲もうとしよう」

「……はい」










で、数時間後。


「ミコト〜?」

「暖かいのぅ……。良い気分じゃ……」

「どうしてこうなった……」


相変わらず飲めや騒げやの宴会ムードの中、僕は頭を抱えて大きな溜息をついていた。

右肩から首にかけて桃鬼が絡み付き、反対側には鳴雷が絡みついてきている。

どちらも救いようがない程に酔っ払っており、元から過剰なスキンシップに磨きが掛かって手に負えない。


どうしてこうなったか、思い返してみる。

と言っても、僕はその場面を見てはいないのだが。


鬼にしては珍しく酒を全く飲まない志妖に、馬鹿みたいに酒に強い文と椛と話している後ろでこんな会話が聞こえてきたのだ。





『ほら〜鳴雷も飲みなよ〜』

『やめ……ん?こら魅王!随分酔うのが早いと思ったら、その酒はんむぅっ!?』

『……ぷはぁっ。ふふ、こんな時ぐらい思い切り酔おうじゃないかい』





「ミコトの耳〜尻尾〜」

「む、妾にも」

「駄目だねぇ、ミコトはアタシのだって、言った、はず……」

「誰が決めたのじゃ、そんな、こと……」

「ちょっと、寝るならちゃんとした所で」

「むぃ」

「うわっ」

「妾に逆らうでない……ふふ、気持ちが良いの……」


桃鬼に押し倒され、盛大に頭をぶつけた僕を気にも止めない鬼二人。

カラン、と顔の横で音がしたのでそちらを見ると、酒瓶らしきモノが転がっていた。


「『鬼殺し』て……またベタな名前の酒だな。……う、匂いだけで酔いそうだ」


瓶から顔を背け、いつしか眠ってしまった桃鬼と鳴雷の顔を見る。

二人共しっかりと僕の身体にしがみつき、それでいてなんて幸せそうな表情。


「フフ……」


おしとやかに笑う志妖。つられて笑ってしまう僕。

こんなに幸せそうな表情を見せてくれるなら、今夜ぐらいなら抱きまくらも悪くはない。というか、あんなの見たら無下に起こせないし。


「……ふぅ」


息を大きく吐き出した。身体の力が溶け出すように抜けていく。

まだまだ身体は疲れているみたいだ。もう一眠り、いこうとしよう。


そういえば、能力の暴走は起きなかったみたいだな。やはり、あの強烈な眠気がセーフティーラインのようだ。


「……いいや、今は寝よう……」


深く考えようとして、まぶたが重たくなってきたのであっさりと止める。そのまま、僕は眠りについた。










「では、行くとしよう。ミコトよ、願わくばまた、そなたと話したいものじゃ」

「きっとまた会えます。その時はまた、昨夜のように飲みましょう」

「……ああ。きっとな。その時には敬語は無し、じゃぞ?」


クスリと笑い、鳴雷は背を向けた。

隣にいる紫が手を翳し、地面にスキマが開く。


「さらば。伝説の妖獣よ」

「また会いましょう」


瞬きをした瞬間、もうそこには誰もいなかった。

僕は目を細め、少しだけ胸に芽生えた寂しさを感じながら、何も無い地面を見つめた。


「またの機会に……だな」


どうしても抜け切らなかった敬語。最後くらいタメ口で行こうかとも思ったが、最後の別れと認めるようなのであえて敬語でいった。長い別れにはなるが、いつかはまた会うことを信じて。


「さ、て。天狗の二人はそろそろ戻った方がいいんじゃないかい?天魔にも伝えなきゃならないし」

「ええ。私と椛はここでおいとまさせて頂けます。では」

「ミコトさん。あまり無茶はしないで下さいね」

「善処するよ。天魔によろしく言っておいてくれ」


黒の翼がはためき、二人は勢い良く飛び去っていく。

ヒラヒラと舞い落ちてきた黒と白の羽を掴み取り、耳飾りに天魔の羽が無いことに気が付く。しばらく見つめて着物の内側にしまった。後で藍に結び付けてもらおうか。


「鬼の三人はどうする?」

「アタシと志妖は今まで通りあの洞窟で過ごすさ。萃香はどうする?一緒に来るかい?」

「……そうさせてもらおうかな」

「なぁにを落ち込んでるのさ。また会えるさ。ねぇ、志妖」

「……行こう、萃香」



萃香の手を取り、志妖は僕に軽く頭を下げる。その頭を軽く撫でてやると、普段無表情に近い志妖が柔らかい笑顔を見せてくれた。うん、良い表情だ。


「さ、じゃあ行くとしよう。ミコト、用があればいつでも呼びな。アンタの為ならどこでも飛んでいくからさ」

「うん。また」


さりげに恥ずかしいことを言って、桃鬼は森の中へと姿を消した。

相変わらず豪快というかなんというか、桃鬼らしい。


「志妖?おいてかれるよ?」

「……桃鬼様といえど、譲れませんね」

「え?」


思わず聞き返すも、志妖は答えずに笑顔のまま歩いて行った。

どうしてだろう、笑顔のはずなのにどこか違うものを感じた。


「お疲れ様。よくやってくれたわ」

「紫」


今までずっと黙り込んでいた紫が、ふと隣で口を開いた。

口元を扇子で隠し、やはり胡散臭い笑顔……ではない。

視線が下を向いたまま、僕に向けられない。


「…………紫?」

「ミコト」


思わず顔を覗き込むと、紫は意を決したかのように扇子をパチンと閉じた。

そして、僕に真っすぐ向き直り、


「頼みがあるの」


そう言った。


僕は、なんだいきなりと呟いた。


「なにさ、僕にできることならやるけど」


何の気無しにそう返し、紫に背を向けててくてくと歩き始める。


けれど僕の足は、次に発せられた紫の言葉によって地面に縫い付けられた。










「死んでくれないかしら」










……………はい?

………………あとがきのネタが無いZE!(キラーン)


番外編と平行して書いている為に更新が遅れがち。

ただでさえ短いのに速さまで落ちたら私に何が残るのか。

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