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53:〔百鬼闘夜祭・幻 鬼神・夜美夜鳴雷〕

今回は少し遅れてしまいました……すいません。




くそ……なんて厳しい就職活動。

「…………!!」


突然の落雷。数秒間身体が硬直し、僕は身体から煙をあげながら空を見上げる。

先程まで晴れていたはず。なのに、そこには黒々とした雲の姿が。


「……雷雲だと?」

「よそ見している暇はあるのかえ?」

「!?」


声に反応し、視線を落とす。

そこには、すでに鳴雷の姿があり――。


「がぁっ!?」


とん、と腹に手を置かれたかと思えば、鳴雷の手から激しい電流が流し込まれていた。

僕は無我夢中で地面を蹴り、全力で距離を取りにかかる。ここまでくれば大丈夫だろう、と顔を上げ、


「無駄だよ」

「っ!!」


すでに僕へと向けられていた右手から、僕の努力を嘲笑うかのような雷撃が放たれた。

避けれる筈もなく、それでもとっさに結界を張る。

瞬間、右足を横に出し僕は跳んだ。もちろん、全開だ。


――雷相手にどれだけ距離を取っても無駄にしかならない。ならば、接近戦で圧倒するしかない!


そう思い、横っ跳びからいきなり方向を変えて鳴雷に突撃。

鳴雷に勇儀の様な一撃必殺の攻撃は無ければ大丈夫。妖力だけを見れば志妖より下なのだから、おそらくそんな一発はあるまい。

ならば、攻撃に妖力を回しても問題無い。スピードが多少落ちようが関係あるか、一方的に攻めて終わらせる。

僕の目が鳴雷の背中を捉え、爪に妖力を充満させる。


――――食らえ!!


「そうくるか。なら、速さ勝負といこう」

「なっ……」


瞬間、僕は思わず動きを止めていた。

爪を突き出したその場所に、居るはずの鳴雷がいない。

さらには、後ろから聞こえてくる電気のスパークの様な音。


「……参ったな」


――この僕が、完璧に相手の姿を見失うなんて。

どうやら、僕は鳴雷の強さを計り違えていたらしい。桃鬼や志妖より間違いなく弱い?何を考えていたんだか僕は。

妖力の多さと強さはイコールでは繋がらない。そんなの、とっくの昔に理解していたはずなのに。



突き出したままの腕を下ろし、ゆっくりと振り返る。そこには、身体に電気を纏わし、帯電した金髪を空中に浮かべている鳴雷の姿。


僕は考える前に感情を操り、ギアをトップに入れ替えた。

――相手は鬼神、自惚れるている場合じゃない。相手が強いならこちらも全力を出すだけだ。


「シャアッ!!」

「ッツ!!」










「信じられませんねぇ……」


灰色の影と、金色の閃光が入り乱れる光景を見ながら私は溜め息をついた。

私とて、天狗の中では最速として名を馳せてきた故に速さには自信がある。

だがどうだ、目の前の鬼神と妖獣は、私には及びもつかない速さで戦っているではないか。


「しかし、桃鬼殿?」

「なんだい?」

「ミコトさんは、勇儀殿と戦った時の様にはならないんですかね?その方が断然速いと思うのですが……?」

「あぁ、あれかい?確か、『身体の負担がデカイ』とかであまり乱用はできないらしい。理屈は知らんがねぇ」


身体の負担が大きい、ということは、やはりあれだけの速さ。それなりの反動は覚悟して使っている、ということか。


「でもま、心配はいらないさ。ねぇ、志妖?」


桃鬼殿は、傍にいる志妖殿と目を合わせてニヤリと笑い、また戦いに視線を戻す。

そして、楽しそうに呟いた。


「ミコトにだって、『誇り』があるだろう。特に『速さ』に関しては、ねぇ」










一体どれだけ着地と跳躍を、そして攻撃を繰り返しただろうか。

最早回避のことは考えていなかった。

避けているように見える雷撃も、攻撃の為に移動を繰り返しているだけで結果的に当たっていないだけ。


「シッ!」

「はっ!」


カガギガバチィ!と、一回の接近で何撃もの攻防が繰り広げられる。


「く……」


身体に電気を纏わせながら、僕とほぼ同じスピードで移動している鳴雷。


――まだ足りない。


「…………っ!」


息を吸い込み、蹴り足に力を込める。


まだ速く。

更に速く。

限界まで速く。

限界を超えて速く!


――速く速く速く速く速く速く速く速く!!


「……な」


鳴雷の姿が消える。

景色が溶け、物の形がわからなくなる。


僕は鳴雷の背後にまわり、一度そこで立ち止まった。地面が盛大に削れ、土に紛れていた石が跡形もなく砕け散る。


「最後の一発だ。これで勝負をつけようか」

「……いいだろう。ミコトよ、そなたの速さには驚いた。さすが、伝説の妖獣じゃ」


そんな会話を交わし、僕はニヤリと笑って地面に手をついた。爪が地面をえぐり返し、『なけなしの妖力』を解放。

対する鳴雷は、一際大きな雷電を辺りに撒き散らす。全力なのだろう。表情でわかる。


これが正真正銘最後の一撃。

結果なんざわかりきっている。


地面を蹴る。

同時に飛び出してくる鳴雷。

それよりも遥かに、僕のスピードは遅かった。


「はあぁああぁあ!!」


一瞬で接近され、雷を纏った拳が振りかぶられる。

そして当然、その拳は僕に放たれ――



ズドォン!!と、雷が地を揺らしていた。










「……あれ?」


間の抜けた声を出したのは僕。苦し紛れに突き出した腕は、何かに固定されたように動かない。

視界は、鳴雷の一撃による閃光で全く利かない。


「……あっついねぇ、こんなの食らったら今のミコトじゃあ危ないところだ」

「……その声、桃鬼?」


すぐ傍から聞こえてきた声は、紛れも無く桃鬼のものだった。

イマイチ状況が掴みきれない。


「魅王!なぜ邪魔をする!」


次に聞こえてきたのは、鳴雷の声だった。桃鬼の向こう側から聞こえるので、僕と鳴雷、その間に桃鬼がいるみたいだ。

声色からするに、鳴雷はお怒りのご様子。

するといきなり、おそらくは桃鬼に掴まれていた腕が解放された。バランスを崩して倒れそうになり、しかしぽふんと僕の身体はなにか柔らかいもので支えられた。


「夜美夜。アンタ、今のミコトを倒して満足かい?」

「……どういうことじゃ」


ぐいっと身体が引き寄せ、いや抱き寄せられ、懐かしい香りに包まれる。あ、これ桃鬼に捕まえられてるのか。

それにしても、桃鬼には気付かれていたらしい。全く、敵わないなぁ。


「全く、なんで気付かないかねぇ……。最後の最後、なんでミコトがアンタの背後で立ち止まったと思う?アンタがミコトを見失ってるのは端から見ても一目瞭然、ミコトだって当然気付いてるだろうさ。なのに、わざわざコイツは立ち止まってアンタに姿を曝した」

「…………まさか」

「あぁそうさ。ミコトはあの高速移動をやめたわけじゃない。『やめるしかなかった』のさ。それっぽい言葉でごまかしてはいたけど、アタシにはすぐに分かった。あれだけの妖力がいきなり半分以下になれば誰だって気付く。おおかた、萃香との戦いの前に飲んだ薬で妖力を戻していたんだろう?どうしてかは知らないが、ミコトの妖力は昔より大分少なくなっていたからねぇ」

「……ご名答。薬の効果は、立ち止まった時には切れてたよ。でも、戦いを途中で止めるわけにはいかないし」

「馬鹿ミコト。それで死んだら元も子もないだろうに」


コツン、と頭に軽い一撃。フワリと身体が浮き、桃鬼に抱き抱えられたと判断。

というか、激しく眠たい。おそらくここで素直に寝ておけば、能力の暴走はないはず。


「決着は付かなかったけど、思い出にはなったろう?それとも、納得いかないかい?」

「……いいや、確かに良い思い出になった。満足じゃ」

「よかった。これ以上アタシのミコトを傷つけられても困るからねぇ」


心地好い揺れの中、僕は意識をゆっくりと手放していく。

何か聞き捨てならない台詞があったようにも思うけど、まぁ別にいいでしょう。

やはり桃鬼は強かった(笑)

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