52:〔百鬼闘夜祭・幻 星熊勇儀〕
「うああぁあぁああ!!!!」
「はああぁあぁああぁ!!!!」
目の前で繰り広げられる戦いに、私はただ魅入ることしか出来なかった。
「どうしました?椛」
「いえ……」
文さんの呼び掛けにも、そんな答しか返すことしか出来ない。
それ程までに、この戦いから目が離せない。気が付けば、私はこんなことを口走っていた。
「カッコイイ……」
「うん?」
「はい?」
怪訝そうな反応を見せた桃鬼さんと志妖さんに気付かない振りをして、私は目で追えないとはわかっていつつ、ついつい彼の姿を見ているのだった。
「チッ……!」
「…………」
勇儀の空振った一撃の風圧を感じながら、地面を蹴って距離を取る。
まだあちらの一発はこちらには当たっていないが、何しろ能力故に威力が威力、一瞬足りとも気が抜けない。
「ちょこまかとうっとうしいね……」
「あの野郎、随分とタフじゃないか」
同時にもらす相手への愚痴。
しかし、正直どちらかと言えば僕の方が不利な状況にある。
スピードと手数で勝負している僕の攻撃は、今まで幾度となく当ててきているのに効いた気が全くしない。
それというのも、僕はこの戦いにおいては、本来攻撃に回すはずの妖力も移動に回しているからなのだが。
なぜかと言うと……。
「ふん!」
「っ!!」
勇儀が僕に向かって跳躍、振りかぶった拳を僕目掛けて振り落とす。
瞬間、地面を弾けさせて横っ跳びするも。
――僕が弾けさせた地面は、勇儀の拳によって爆砕していた。
「一撃の威力が反則だろう……!」
先程の理由はここだ。
こんな馬鹿げた一撃、間違っても食らうことは許されない。
だからこそ、いつもなら爪やら拳やらに込めている分の妖力を使ってまで機動力を上げているのだが、何分これではこちらの攻撃があちらに伝わらない。ただでさえ時間が無いと言うのに――。
「残りは三十分有るか無いか……。さて、どうする」
能力を勇儀に使えば手っ取り早いのだけれど、それではあちらが満足しないだろう。この戦いは、あちらさんの専門分野で存分に戦ってもらってこそ意味があるのだから。
勇儀が巻き上げた土煙に紛れ、速さに任せて腹に五発。鼻先ギリギリで反撃を避わし、それでも土煙ごと吹き飛ばされた僕は四つ足で着地する。
「く……。そんなチマチマした攻撃じゃあ、私は倒れたりしないよ」
「……だろうね」
やはり、目立ったダメージは与えられない。
こうなれば、あまり気は進まないが……。
「……?なんだ、戦闘放棄か?」
いきなり膝をついた僕に、勇儀は怪訝そうにそう呟いていた。
残念だが、そうじゃない。むしろこれはそれとは真逆の行為。
理性を極限まで削り、本来自然にかけられている身体のリミッターを強引に外す。
故にこれまでのような『思考』そのものが難しくなるが、その分身体能力は格段に跳ね上がる――!!
「っ、―――――――!!!!」
「!!?」
「…………!!」
ミコトさんの咆哮が広場に響き渡り、一瞬地面が揺れた気さえした。
そして、そこからは一方的。更に速さを増したミコトさんの動きは、遠目から見てようやく影が見える程度。ここから見てそれなのだから、相手の鬼に見える道理は無かった。
「あれはアタシでもキツイかねぇ……」
私の傍らで、初めて聞く口調で呟く桃鬼さん。その表情は呆れているように笑っていて、その気持ちは私にも簡単に理解出来た。
あんなのを見せられたら、呆れて笑うしか出来ない。
「っ、このっ!!」
いつしかその肌に赤い滲みが見えはじめた鬼の身体から、一際大きな妖気が放たれる。そしてその身体が思い切り捩れ、振りかぶられる拳。
――それが間違った選択だと、私はすぐにわかった。
「終わったね」
桃鬼さんが呟いた瞬間、相手の鬼の身体は真上へと吹き飛んでいた。
「ふうっ」
全妖力を込めた一撃を放ち、僕は溜まった息を一息に吐き出した。
全く、寿命が縮まるにも程がある。
「っと」
落ちてくる勇儀を抱き留めて、その顔を覗き込む。どうやら完全に気絶している様子。
……一応、正真正銘全力の一撃だったんだけれど。
気絶で済んで喜ぶべきか、自分の力の弱さに悲しむべきか微妙なところ。
例の如く桃鬼の所へ向かい、既に復活して酒を呑んでいる萃香の横へ勇儀を寝かす。
「……ゆっくり寝て下さいな」
額に額を付け、感情を流し込む。寝ている相手でも身体が触れていればこちらの感情を流し込めるのだ。
勇儀の表情が心なし緩み、僕はそれを見てから、
「……どうかした?椛」
「あっいえその」
「うん?あぁ、あの僕を見るのは初めてか。怖かった?」
「怖かったよ〜」
「初代鬼神が何言ってやがる。桃鬼には聞いてないよ」
「酷い扱いだ、怖かったのは本当だと言うのに」
「はいはい、これ終わったら気が済むまで相手してあげるから」
しなを作ってわざとらしく言う桃鬼に背を向け、僕は最後の一人を視界に入れた。
残り時間は多めに見積もって二十分。
さて、実力も不明なら妖力も不明。これで能力持ちだったら笑うしかないな。
「貴女の出番ですよ。鬼神殿」
「……鳴雷」
「はい?」
「夜美夜 鳴雷じゃ、ミコト。敬語ではなく、対等に接しておくれ」
「……まぁ、貴女が望むなら」
「うむ。では……魅王!」
「はいはい。双方用意はいいね?じゃ……始め!」
後ろで纏めていたらしい長い金髪を振りほどき鬼神、いや、鳴雷は半身の体勢を取る。ふむ、どうやら鬼神の名は伊達じゃあない。
「そなたの能力は『感情を操る程度の能力』だったか」
「その通り。それがどうかしま……した?」
「フフ、敬語が抜け切らんか。まあよい」
楽しそうにそう言った鳴雷は、不意に片手を空へと掲げる。神がフワリと舞い上がり、神々しい金色が輝きを見せる。
それに一瞬だけ目を奪われ、
次の瞬間、僕の身体は落雷に貫かれていた。
「――――っ!!?」
「我が能力は『雷を操る程度の能力』。さぁ、楽しませておくれ」
新キャラ登場。
地味にお気に入りなので地底に入れるかどうか迷っていたり。
ちなみに志妖より強かったり。




