47:〔副作用の副作用〕
「……ん」
ゆっくりと目を開き、朝日の光が目に入るのを感じてさらに瞼の動きを緩める。
まだこの癖は健在で、しかし今回は役に立ったようだ。いきなり目を開いていたらしばらく目が利かなくなっていたかもしれない。
……そういえば、いつ僕は眠りについたのだろう。
「…………ん?」
ふと感じた、自分の身体への違和感。まるで誰かに抱き着かれているような。
ん?抱き着かれて?
「……っ!」
瞬間、一気に目が覚めた。
脇から通され、しっかりと僕の身体を捕まえている誰かの両腕。
背後から感じる柔らかな感触と、フワリとした良い香り。
首だけを動かし、なんとか後ろを見てみれば、見えたのは鮮やかな緑色の髪だった。
「――――!?」
え、なんで?僕は一体何をしてこんな状態になった?
思い出せ、昨日、僕は何をしていた!?
「あ」
…………思い出した。
僕は昨日、幽香をこの家まで連れてきて――。
「よいしょ」
「……まるで私が重たかった、みたいな掛け声ね」
「いや……そんな訳じゃないけど……なんか、こう」
「……?貴方、顔色が悪いわよ?」
幽香をベッドに降ろした僕は、妙なけだるさ、と言うよりかは、具合の悪さを感じていた。
つい先程まではただひたすらに眠たかっただけなのだが……これは。
「まさか、薬の……?」
そうだ。
永琳は『連続服用してはいけない』とは言っていたが、僕はそれだけを聞いてすぐに移動してしまったために細かい作用については聞いていない。
よくよく考えてみれば、いや考えずとも、これだけ強力な薬だ。副作用があってもおかしくはない。もとより無理を言って短時間で作ってもらったものだし。
「あ……れ……」
考えていると、不意に身体の力が抜けて、
「……なかなか大胆ね、貴方」
「ち、違……!」
僕は、幽香に覆いかぶさるように倒れてしまっていた。
すぐに起き上がろうとするも、全く身体に力が入らずに動くことすらできない。
それどころか。
「あ、れ」
「…………?」
僕の意志とは関係無しに能力が発動していた。しかも、何の感情を操ろうとしているのか、自分でもわからない。
このままでは、直に触れている幽香にこの得体の知れない感情が流れ込んでしまう。
「幽香、離れ、て?」
「……そ、そんなことを言われてもね……。こんな身体にしたのは誰だったかしら?」
駄目だ、すでに幽香がなんだかおかしい。
しかも、そろそろ意識が限界に……。
「う…………」
「ミ、ミコト?しっかりしなさい!このままじゃ、私…………」
「…………」
自分の事ながら、開いた口が塞がらなかった。
まさか副作用らしきもので能力が暴走を起こすとは。
もしかしたら、あの状態になる前の強烈な眠気は、警告のようなものだったのかもしれない。
――いや、そんな考察は後でいい。今は、この状況をどうするかを考えなければ。
「…………とりあえず、抜け出して……」
副作用はとっくに治まり身体も動くようなので、まずは幽香の抱擁から脱出することを試みることにする。
「……くっ、んっ……」
が、抜け出そうとした瞬間に腕の力が強まり、さらに身体が密着。
事態悪化である。
というかもとより力では敵わないのを忘れていた。愚策にも程がある。
「くそ……もう策が無くなってしまった」
自分の頭の悪さに苦悩。
しかし、背中に感じる柔らかな感触のせいで頭が回らないのも事実である。
二時間程経っただろうか、抵抗を諦め、男ってなんて馬鹿なんだろう、とか考えていると、不意に回された腕の力が緩まっていた。
ここぞとばかりに僕は脱出、ベッドの隅に転がりながらエスケープ。
しようとしたのだが。
「どこへ行くの?」
「ふにゃ゛っ!?」
身体が幽香に向いた瞬間、僕は凄まじい力で幽香に捕まっていた。思わず猫ボイスが出てしまい、しかしそれ以降声を出すことは叶わない。
なぜなら。
「もうしばらくはこうしていたいのよ。逃げることは許さないわよ?ミコト」
「――?――!」
どれだけ叫んでもくぐもった声しか出せない。僕は、幽香の胸に顔を押し付けられているのだから。
同時に流れ込んでくる、幽香の強い感情。
瞬間僕は、昨日幽香に流し込んだ感情が何なのかを理解した。
それは、愛情、情欲、それらを引っくるめた恋愛感情だった。
…………なんてこったい。
やってしまったとは思う。
後悔はして……いない。




