44:〔変わらなかった答〕
「……あいつ」
僕は、空に浮かぶ彼女の姿から目を離すことが出来ずにいた。
彼女の名は、藤原妹紅。かつて共に旅をした、僕にとってはとても大切な人間の一人。
妹紅の背後に沢山の炎が浮かび、
「ぐっ……」
その熱気に、思わず僕は自らの妖力を解き放っていた。隠していた猫又としてのパーツが現れ、そんな僕に妹紅が視線を向ける。
「……!!」
目を見開いて、妹紅は炎を消して地面に降り立った。
ゆっくりと僕に向かって近付いてくる妹紅に、かぐや姫は、
「私との戦いは」
「黙ってろお姫様。私はコイツに用があるんだ」
眼前に現れた炎に、かぐや姫は歯を食いしばって飛びのく。その間にも、妹紅は僕に着々と近付いてくる。
僕はまぶたを下ろして思い返す。
かつて、僕は妹紅に父親殺しであるかもしれないことを告げた。
果たして、あれから妹紅はどんな答を出したのか。
「ふむ」
トン、と縁側から外へと飛び降りる。
そこで目を開き、すぐそこにいた妹紅と目を合わせた。赤色が僕を射ぬく。
「ミコトだな?」
「いかにも。早速だが、答は出たのかな?」
「ふん……。昔から変わらない」
「っ!?」
妹紅が手をかざしたかと思うと、そこから火玉が顔面に飛んできた。咄嗟に顔をそらすも、その熱風だけでも皮膚が焦げる。
それに驚いた瞬間、妹紅は僕を担ぎ上げていた。
「え、ちょっ」
「コイツは借りていくぞ!文句無いな!」
言いながら宙に浮かび、そのまま妹紅は飛んだ。
いや、かぐや姫に許可取る前に本人に許可取れよ。
というかさっきまでのシリアスな雰囲気はなんだったんだ?
なんて考えている間にも、妹紅はどんどん飛んでいく。その速さは昔とは比べものにならない。
そんな風に妹紅の成長を風と共に感じていると、不意にスピードが緩まり、少しずつ下降を始めた。どうやら目的地に着いたらしい。
「っと」
しっかりと着地し、辺りを見回す。どうやらまだ竹林の中のようだが、ここにはぽつんと一軒家が建っていた。
その一軒家を二秒程眺め、妹紅の存在を思い出し振り返る、と。
「うわっと」
妹紅が、僕に飛び付いてきていた。背中に回された腕が、ギュッと僕を抱きしめる。
「妹紅……妹紅?」
そのまま着物に顔を埋めて顔を上げない妹紅。
一体どうしたのか、と首を傾げ――
「…………!」
――微かに、その身体が震えていることに気が付いた。流れ込んで来るのは、妹紅の感情。
……あぁ、そういうことか。
「……妹紅」
「っ……は、い」
「……ただいま」
「っ!」
頭の後ろに手を回し、優しく、けれど力一杯抱き寄せる。
妹紅の答は、あの時からずっと変わっていなかった。
「本当に、馬鹿だなぁ」
妹紅も、僕も。
妹紅すげぇいい娘になった……。




